【Before the sortie①(出撃前)】
食事を済ませて、しばらくロビーで隊員達と寛いでいた。
トーニがパンツ一丁で御道化て見せたせいもあるのか、任地が漏れたにも拘らず、一様に皆緊張せずリラックスしている。
「出発前に海水パンツ買いたいなあ」
「購買に行けば有るんじゃねえのか?水難救助訓練に使う用の紺色のやつが」
「いや、ほら、もうチョットマシなやつ……」
ハバロフの話にモンタナが答えているが、どうも旨くかみ合っていなくて困っている。
「いいか?ハバロフが言っているのは、向こうでの休暇の時に遊びに行く時のための水着の事だ」
俺が言い出しにくいハバロフの代わりに言ってやると、モンタナは「そんなの現地のホテルや売店でも売っているだろう」と答えた。
「いいか!?この鈍感野郎」
業を煮やしたようにフランソワが会話に割って入る。
「現地で調達するものなんて、値段も丸分かりだし、デザインも似たり寄ったりだ。そして一番重要な事は何所で買ったのがバレバレで、同じデザインの物をその辺に居る“誰か”も着ていると言う事だ」
「それが何か問題でも?」
頭を抱えてしまったフランソワと交代して、今度はトーニが割って入る。
「いいか?よーく聞けよ、この万年伍長。例えば、現地のビーチに行って中年太りのガサツそうなオバサンの水着と、ナトーの着ている水着が同じ物だと想像してみろ。それでもお前は許せるのか?!」
分隊の皆が俺の方に振り向いて、声を合わせるようにして言った。
「許せない」と。
こいつら今俺を見ながら、俺の水着姿を想像していやがった。
「トーニ、例えが悪いぞ。部隊内で俺の立場を考えろ!」
そう。
ビキニを着た分隊長の俺の姿なんて想像されたら、部隊が締まらない。
分かりやすい例え話ではあったが、人選を間違えているので注意しておく。
トーニは、ハッと思いついたように「すまねえ」と言って言い直した。
「今の、なしだ。忘れてくれ。……例えば、現地のビーチに行って腹の出た中年太りのオヤジの水着と、ナトーの着ている水着が同じ物だと想像してみろ。それでもお前たちは許せるのか?!」
“えっつ、なんで俺の方を変えない!??”
自分で想像して少し頬が火照る。
まさか、トップレスを想像されるとは思いもよらなかった。
また皆が俺を見る。
さっきとは違って、少しエッチな目つきで。
そしてさっきと同じ様に声を揃えて言った。
「許してもいい」と。
「おいっ!なんでそうなるんだよ!?」
トーニが皆に怒ったように言う。
ブラームが立ち上がり、トーニの肩を叩いて「今自分が言ったことを、もう一度復唱しながらナトーを見てみな」と言ってロビーから出て行った。
“現地のビーチに行って腹の出た中年太りのオヤジの水着と、ナトーの着ている水着が同じ物だと想像して……”
小さく呟きながら俺のことをジッと見ていたトーニが、天井を仰ぎ見て「mamma mia!(マンマミーア=なんてこった!)」と頭を抱えた。
やっと自分の間違いに気が付いたかと思いきや、トーニは頭を元に戻すと「こりゃあ許せるよな!」と皆の方に向けて笑ったので俺は席を立ってトーニの顔を思いっきり打つ。
当然、その後トーニは気を失う事になった事は、言うまでもない。
ロビーを出て、部屋に戻ると、ハンスから呼び出しのメールがあった。
メールを見て、思わず笑ってしまう。
“20時第4会議室”
書いてあるのは時間と場所だけ。
ハンスらしい。
20時までには、まだ間がある。
俺のシャワーの時間は20時からだったが、みんなロビーにいたから少々早くても誰も来やしないだろう。
9つあるシャワーは、まだ誰も使っていない。
“サッサとすませるか……”
大体、仲間たちがシャワーを使い出すのは訓練が終わった直ぐ後か、21時以降と決まっている。
俺も、訓練が終わった後に1度シャワーを浴びてはいるが、訓練後のシャワー使用時間は俺の場合5分しか持ち時間がない。
それは嫌がらせでも何でもなく、俺一人で9つのシャワーがあるこの部屋を独占してしまうからで、20時からの割り当て時間だと20分貰える。
会議がどのくらい時間が掛かるか分からないが、20時からの会議だと今夜はシャワーを諦めるしかなくなるのは必至だから時間前にシャワーを浴びることにした。
暖かいお湯に当たりながら、石鹸で体を磨く。
丁度脇の下を洗う時に、体の下から手を回したので胸を持ち上げる格好になった。
“中年太りのオヤジの水着と、ナトーの着ている水着が同じ物……”
不意にトーニの言葉が頭を過る。
男たちは、なんでこんなものがいいんだ?
筋肉でもない、ただの脂肪の塊だから、いくら大きくたって何の役にも立たない。
出っ張っているから足元も見え辛いし、走ると揺れて邪魔に感じる。
大きい胸が良いのなら、モンタナやブラーム、フランソワの胸の方が遥かに良い。
彼等の胸は硬い筋肉で出来ている。
それに、いちいち服で隠す必要も無ければ、ブラで固定する必要もない。
自由だ。
蛇口を閉めて、ビニールのカーテンを開けて、洗い場を出ると人にぶつかった。
「スマン」
「イイって事よ」
「……」
「……」
「トーニ!」
「ナトー!」
「「なんで、ここに居るんだ!?」」
「だってココは19時55分まで、男の使用時間だぜ。なんでナトーがココにいる?」
シャワー室に掛けられた時計の針は、まだ19時30分。
「スマン、20時から会議が有るんだ……だから……」
「ほらよっ。俺が外で見張っておいてやる」
トーニからタオルを投げられて初めて気づいた。
俺は石鹸とボディーブラシしかもっていなかった事を。
着替えやタオルは、同じ部屋の入り口側にある更衣スペースに置いたまま。
とりあえず誰か他の者が入って来ると不味いので、トーニが投げてくれたタオルで前を隠して慌てて更衣スペースで体を拭き着替える。
“!”
トーニからタオルを投げられるまで、俺は石鹸とボディーブラシしか持っていなかった。
と、言う事は……。
今頃になって、急に恥ずかしさで火炙りにされたように体中が熱くなる。
でもトーニは、その事について何も言わなかったし、眼も俺を見ていたままだった。
“気付かなかったのか?”
そんな馬鹿は居ない。
「おいナトー早くしてくれ、俺のシャワーの時間が終わっちまうじゃねーか!」
「スマン、直ぐ出る」
着替えを終え、慌てて外に出る。
「ありがとう」
「いや……」
礼を言った途端、トーニが、はにかむ様に俯いて返事をした。
“やはり見えたよな……”
でも、この態度、可愛らしい。
思わず胸がキュンと鳴る。