【Love drug⑤(ラブドラッグ)】
サオリは俺の手を引いて、自分の部屋に連れて入った。
朝からホテルの部屋を借りていると言う事は、昨夜か、それよりも前から滞在しているのだろう。
つまり俺たちの到着を待っていたことになる。
でも何故、昨夜は顔を出さなかったのだろう……。
サオリは俺をソファーに座らせて、自分自身は、その対面にあるベッドに腰掛けた。
「いい、ナトちゃん。これで麻薬の怖さが身に染みたでしょ。MDAなんて麻薬としては滅茶苦茶軽い物なのよ。それでも、あんな風になっちゃうの。だから絶対に気を付けてもらわなくちゃ困るわ」
「うん。分かった」
「100%信用できない限り、人から勧められた物を飲んだり食べたりしては駄目!それはイラクの難民キャンプでも教えたでしょ」
「うん」
「麻薬は、1回やっちゃうと、病みつきになるの。だから充分注意して」
「……」
「どうしたの?本当に分かっているの?」
「うん。分かっているよ……」
俺はゆっくりとソファーを離れ、ベッドのサオリの隣に腰掛ける。
「どうしたの?」
「もう絶対に騙されないからさぁ……」
サオリに寄り掛かるように、体をスリスリしながら、服のボタンを外す。
「なっ、なに、なんか変よ。ナトちゃん」
「麻薬の怖さは分かったわ、でも一旦疼いてしまった私の体は止められないの」
俺は覆いかぶさるようにサオリをベッドに押し倒し、そのシャツのボタンに手を掛ける。
既に俺のシャツのボタンは全て外している。
「なっ、ナトちゃん。アンタ大丈夫なの」
サオリの手を広げ、上から押さえつける。
「大丈夫じゃないの。まだMDAが効いていて、体が燃えているのよ。だから……サオリ……わかるでしょ」
「なっ、ナ」
何か言おうとしたサオリの口を自分の口で塞ぎ、その柔らかさを味わう様に舌を絡める。
裸の胸と胸を密着させる。
子供の時には、あんなに大きく感じたのに、いつの間にか俺の方が大きくなっているのが少し寂しい。
「もう。いつまで経っても甘えん坊さんね」
唇を離したとき、俺の頬を両手で支えてサオリが言った。
「そうよ。甘えん坊になるように、サオリが大切に育ててくれたから」
「まあっ」
「薬が抜けるまで、お願いだから甘えさせて」
「もう、仕方ないなぁ……」
ようやくサオリも俺を受け入れてくれ、2人でシーツの中に潜り込んだ。
一緒にシャワーを浴びて、遅い朝食を摂りに下へ降りると、トーニが1人で朝食を食べ始めた所だった。
俺が入って来たことに気が付いたトーニが、いつものように俺を見て、お互いの目と目が合う。
俺は恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまったが、その時いつもの光景に目が留まる。
席は空いていると言うのに、トーニの席の隣にあるのは空のトレー。
「いようナトー、ここ、ここ」
少し前にトーニに対して破廉恥な事をしたと言うのに、まるで何もなかったように声を掛けてくれる。
「ほら、彼氏が呼んでいるよ」
サオリに肘で小突かれる。
「彼氏じゃないよ」
「あらそう?」
「すべてはMDAのせいだ」
「ふぅ~んMDAのせいねぇ……」
「なにか問題でも?」
「いえ、無いわ」
サオリはニコッと笑うと、手を上げてサヨナラの仕草をする。
「サオリ、朝食は?」
「私は、これから用事に出なくっちゃならないの。じゃあね~!」
サオリが居なくなって、トーニ隣に座り、一緒に食事を摂る。
MDAの作用とは言え、あんなことをしてしまった後なので、正直気まずい。
ところがトーニは何事もなかったかのように、街へ出てコロンビア美人を拝みに行こうとか南米らしい服を買いに行こうとか、いつもと変りなくヘンテコな話を楽しそうに俺に聞かせる。
“ひょっとして、トーニもMDAを飲まされていたのか……?”




