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【Love drug③(ラブドラッグ)】

 用心しながらゆっくりと身を屈めたが、何もなかった。

 一旦ホッとする。

 後はバスルーム。

 四つん這いの体勢から起き上がろうとしたとき、何者かが直ぐ後ろに迫ってきているのに気が付いた。

 “しまった!”

 いつもなら気付くはずなのに、まったく気配に気が付かなかった。

 完全に後手に回ってしまっている状況。

 しかも気配を消したまま俺に近付くなんて、そうとう手強い奴に違いない!

 こういう場合は、攻撃や防御を考えるよりも、相手との距離を一旦開ける方がいい。

 俺はベッドの上を飛び越えて逃げようとした。

 ゴツン!

「キャッ!」

 不覚にも、飛び越えるはずだったベッドの向こう側は壁だった。

 顔は大丈夫だったが頭を打ち、その反動でベッドに仰向けに倒れてしまい、間髪を入れずに敵が覆いかぶさるように襲って来る。

 壁にぶつかるとき、無意識に顔を守るために手を上げたまま弾き返されたので、俺の両腕はベッドの上でも顔の付近まで肘を上げた無防備な形。

 手が使えないのなら、膝だ!

 しかし、その膝も、俺が繰り出すよりも早く敵が圧し掛かって来た。

 “やられた!”

 こんな所で、

 何の役にも立たないで、

 だが、これも運命。

 受け入れるしかない。

 目を瞑って観念している所に、おでこに何かがぶつかった。

「イテテテテッ!」

 “この声は!トーニ!!”

 目を開けると、トーニの顔が直ぐ目の前にあった。

 コツンと俺のおでこにぶつかったのは、トーニのおでこ。

 “生きていた!”

 嬉しさのあまり、上げていた腕をトーニの首に絡めてキスをした。

 驚いたトーニが首を上げて、俺の唇から離れようとするが、もう逃がしはしない。

 キスをしたまま体を回転させて逃がさないように、トーニの体の上で馬乗りになり顔を離す。

 トーニが驚いた顔で「ど、どうしちまったんだナトー」と目をパチクリさせたが、お構いなし。

「もう、逃がさない」

 そう言って、もう一度キスを求めて顔を近づける。

「おいっ!ナトー!なんかおかしいぞ!!」

「おかしくはない。私だって女。しかも二十歳よ!」

 そう言って、仰向けに寝ているトーニに密着してキスを求める。

「や、止めろって!」

「私の事を本気で好きなら、なんでもさせてあげる」

 胸でトーニの顔を挟むように押し付ける。

「ど、どうかしているぞナトー!」

「意外と意気地なしね。だったら、コレでどう!?」

 トーニに馬乗りになったまま、上半身を起こしてシャツの胸を開こうとした。

「馬鹿野郎確りしろっ!」

 パチン。

 トーニに頬を打たれると同時に、ドアがドンドンと鳴り、誰かが俺の名を呼んだ。

 “いったい誰?”

「降りろ!」

 いきなりトーニに押されて、ベッドから落ちる。

 その途端、ドアが開き、誰かが入って来るのを起き上がったままポケっと見ていた。

「ナトちゃん大丈夫!」

 入って来たのはサオリ。

 “なんで、サオリが……”

「っるせえなぁー、俺はまだ寝ると言っているだろう!」

 トーニが大きな声を出す。

「サオリ!」

「えっ、サオリさん。なんで!?」

 寝たふりをしていたトーニが、がばっと起き上がる。

「大丈夫だったようね……いや、ギリギリだな、これは」

 サオリが傍まで来て、トーニと俺を見て独り言のように小さく呟く。

 サオリの後からキャスが頭を掻きながら入って来た。

「いったい何なの?」

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