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【Directive from the embassy②(大使館からの指令)】

 車は間違いなく大使館に向かっている。

 空港からの道順も調べていた。

 だが様子がおかしい。

 どこがどうと言うハッキリした確証はないが、リラックスし過ぎている。

 通常この様な隠密性の高い任務の場合は、迎える方もそうとう緊張しているはずだと言うのに、運転手も助手席の男も長旅を労うように話し掛けてくる。

 エルドラド国際空港からフランス大使館迄の道のりは、約15㎞弱。

 ボコタの道路は分かりやすい。

 街を南北に進む道路はカレーラと呼ばれ、東西に進む道路はカジェと呼ばれる。

 車はエルドラド通りを直ぐに左に曲がりカレーラ86に入ると、カジェ80、カレーラ30、カジェ92、カレーラ11とジグザクに進み、最後に細いカジェ93から大使館の駐車場に入りフランス大使館に到着した。

「長旅お疲れさまでした」

 出てきたのは若い大使館員。

 役職は専門調査員。

 大使はおろか公使も参事官や駐在武官も出迎えには来ない。

 “どういうことだ?”

 一同が目を合わし戸惑う。

「どうしました?やはり私では役不足でしょうか?」

「いえ、そんな事は……」

 マーベリック少尉が戸惑いを隠せないまま、返事をする。

 役不足と言うより、拍子抜けと言った方が適切。

 一同の表情、特にハンスとの作戦会議に出席したニルス少尉、マーベリック少尉、モンタナ伍長の3名には、作戦が左程大したものではないのだろうと言う安堵の表情が伺えた。

 ところが専門調査員の次の一言で、その表情は一変する。

「まあ僕も、我ながら役不足感は感じています。もっとも役不足を感じているのは僕だけではなく、大使をはじめ公使や駐在武官もそうです。だから貴方たちに合うのが恥ずかしくて僕に役目が回って来たと言う訳です」

「恥ずかしい?」

「そう。今回の任務は……いけない、任務と言うのは聞かなことにして下さい。とにかくフランス政府は、貴方たち外人部隊の現地視察の取次ぎをするだけで、貴方たちがココで何をしようとするかなんて、まるで関与しない。言ってみれば地方議員などが良く使う“現地視察”と言う名目の“職務中慰安旅行”の取次を行っただけ。いいですね」

「職務中慰安旅行の取次ぎ!?」

 マーベリック少尉が、驚いて口に出して言った。

「だったとしても、我々は粗無一文に近い。車や武器を買う金を出してくれるんじゃ……」

 専門調査員が手でマーベリックの発言を制止する。

「困ります。フランス政府が貴方たちに武器などを買うお金なんて出しません。もちろん車を購入するお金も出さないし、貸しもしません」

「じゃあ、我々は一体ここで何をすればいいんだ!?」

「さあ……」

 専門調査員が両手を広げて、お手上げのポーズをする。

 お手上げは、こっちだと言わんばかりにマーベリックがソッポを向く。

「なにも協力しない訳ではないですよ、一応市内に皆さんのホテルを2日間借りておきました。

 ああ、それに何か不都合な事があってもイケませんので、一応コロンビア政府に依頼してアグレマンを取得しています。ですから皆さんは一応外交官と言う身分保障だけは保てるようにしておきました」

「国の協力もなく、依頼もない状態で、いまさら外交官特権が何になる!」

 マーベリック少尉が、怒って言ったが、それは違う。

 軍人として派遣されているのではなく、民間人として勝手に来ている俺たちが現地で銃を持つことは出来ない。

 もしも銃を隠し持ったり、それを使用したりした場合、犯罪として扱われる。

 だが外交官特権がある以上、俺たちには武器の所持が許される。

 つまりフランス政府は、関与できるギリギリのラインで俺たちを支援してくれているに違いない。

 そして、アグレマンを許可してくれたコロンビア政府も。

 この呑気そうな専門調査員の言動とは裏腹に、事態は政治的にかなりデリケートな問題なのだろう。

 結局、大使館で手に入れたのは外交官特権の証明書と、携帯電話だけだった。

 大使館を後にした俺たちは、専門調査員の後について、予約してあると言うホテルに向かった。

 道を挟んで100mほどの距離をゾロゾロと歩いて行く中には、ガイドのカスティーヨも居た。

 造りは近未来的だが建物自体は左程大きくはない、小さなビジネス用のホテル。

 部屋割は、ニルス少尉とマーベリック少尉、それにキャスと俺が個室。

 モンタナとブラーム、トーニとキース、ハバロフとメントスたちが2人部屋。

「将校の1人部屋は分かるけど、なんでキャスって言うガイド迄1人部屋なのに、俺たちは2人部屋なんだ!」

 と、トーニが後で文句を言っていた。

 遊びに来たのではないので仕方がないが、この民間人ガイドのキャスと言う男は一体何者なんだ?

 ガイドと言っても、俺たちの敵になる奴らがジャングルに逃げ込んだのならガイドも必要だろうが、今の所敵の居場所はおろか正体すら分からない。

 俺は部屋に入ると直ぐにシャワーを浴びて、髪を乾かし再び部屋を出て情報収集をするために出てフロントに新聞を借りに行った。

「新聞は、ありますか?」

「はい、新聞なら、そこに」

 フロントの男が、ロビーを指さす」

「いや、今日のではなく、古いもの」

「古い新聞ですか」

「2~3ヶ月前くらい前のから有れば読んでみたいのだが」

「少々お待ちください」

 フロントの男は嫌な顔もせずに、奥に消えて行くとしばらくして、紐で括ってある新聞の束を持って来てくれた。

「お客さん、すみません。2ヶ月半までのしか無くて、その前のはゴミに出した様なのですが、こんな状態で構いませんか?」

 フロントの人は紐で縛った新聞の塊を、重そうに胸に抱えて見せた。

「ああ、有り難うございます」

 部屋に戻って紐を解き、新聞を読み始める。

 紙面に書いてある全ての内容は読まない。

 読んだのは政治、経済、それに事件と事故、尋ね人にお悔やみの記事。

 古い記事から順に読み始めた。

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