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「おーい佐奈。聞いてる?」
「はっごめんボーっとしてた」
昼休み、向かい合わせの机で一緒に昼食を食べていた彩花が私のほっぺをつんつんする。私は窓の外から視線を戻した。彩花は身を乗り出して、私が見ていた視線の先を探る。
「あれは橋本先輩か。もう、佐奈はお姉ちゃんが大好きなんだから。」
中学から一緒の彩花は中学時代の私も思い出したのだろう。クスクス笑っている。まあ、お姉ちゃんと一緒に居たいがために同じ係、同じ陸上部に入ったことは私もやりすぎたと思っている。
「あれ、あそこにいるのは森先輩じゃない?」
「うん?」
彩花に言われてもう一度外を見る。
お姉ちゃんがベンチで誰かと一緒に昼食を食べていた。さっき見た時はひとりだったが、待ち合わせでもしていたんだろうか。
「まあ、副会長だから一緒に居るんじゃない?文化祭の跡片付けとか」
あの人は確か副会長だった。生徒会活動かなんかで集まっているだけだろう。うん、きっとそうだ。でも、私の中に不安が渦巻いてしまう。
「でも一緒に弁当食べるかあ?」
彩花は至極真っ当な意見を述べる。
そう、いや、確かにそうなんだけどさ。口に出さなくてもいいじゃん。そんなんだから、前付き合ってた彼氏に「重いうえに観察眼鋭いから疲れる」って言われてフラれるんだよ。ごめん言いすぎた。それは浮気してたオスが悪いよね。まあ、彩花が私のところに帰ってきてくれたから、そのオスには私は感謝しているんだけどさ。
いや、そもそも恋愛って卑怯じゃないか?だって、私が彩花と長年育んできた友情をこうもあっさりと飛び越えてしまうんだから。オスなんて生物学的に見るとしょせんは性欲で動いているようなものなんだからさ、愛なんて高尚な言葉使わずに肉欲でいいじゃん肉欲!
あいつらはどんなに優しい顔で近づいてこようが、どんなに面白い話をしてこようが、ゴールは肉欲なんだからさ。そのことを頭の隅において接するべきだと思うな、うん。
私的には男子からのお誘いがあっても読書とか勉強の方が楽しいから、彼氏を作ろうとする女の子の気持ちがわからない。やっぱりあれか、かわいい服やイヤリングみたいにかっこいい彼氏はステータスなのか。ステータス重視の女の子にとってはwinーwinの関係になるわけだね。
まあ、他人様の恋愛に口を出すほど私は野暮じゃないからどうでもいいんだけど。でもお姉ちゃん、あなたはダメだ。私の肉親だから口を出させてもらいますよ。男なんて放っておいて私のところに帰って来なさい。
「ああ、実はあの二人は付き合っているんだ」
頭の中で長文の遺憾表明をしていた私の後ろから誰かが急に会話に割り込んできた。
これは3組のモサドと呼ばれるほどの情報通の佐山の声か?まあ、情報と言っても誰と誰が付き合ったみたいなゴシップばっかりだから3組のモサドというより、3組の文春といった方が適切だと個人的に思うのだが。
「ちょっと佐山!女子の話を盗み聞きするのはどうかと思うよ、、ていうか、その話マジ?」
彩花が佐山をたしなめながらも、情報の確認を取る。
「ああ、3年も2年も男子はその話題で持ちきりだぜ。ついに橋本先輩が落ちたって」
お、、堕ちたぁ!!!???は?まって。
お姉ちゃんはもうそんなところまで来てるの?あのキャベツもびっくりするようなモヤシとあんなことやこんなことを、、、
それは森先輩改め森よ、羨まし、、じゃなかったけしからん。お姉ちゃんを堕としたとなると妹としては手段を選べませんな。まあ、釜茹でと八つ裂きのどちらがいいかの選択権は与えてやろう。
「佐山、証拠はあるの?」
私は気づけば佐山の胸ぐらをつかんでいた。シスコン妹の暴走に彩花がニヤニヤし、可愛い女子(まあ私のことなんだけど)から胸ぐらをつかまれた佐山改めドM野郎もニヤニヤしている。
「証拠はよ、証拠!」
「いや、自分で聞けばいいじゃない。姉なんだから。文化祭の後に告ったらしいぜ」
ドM野郎のにやけ顔にムカついてさらに締め上げると、ようやく口を割った。