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大好きなわたしだけのひと  作者: ホーリョ
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その日、一限は全校集会だった。先日あった文化祭の報告を生徒会が行う。県下一の進学校で生徒会長をしながら、成績もトップを走り続けているお姉ちゃんは私だけではなく、みんなの憧れの的だ。


「やっぱり橋本先輩かっこいいなあ」


報告の内容をそっちのけにして、発表しているお姉ちゃんに男子も女子も釘付けだった。そう、お姉ちゃんは女子にもモテるのだ。バレンタインの日には男子からの逆チョコや女子からの本命チョコなんかもたくさんもらっている。私もその消費を手伝わされた苦い思い出だ。


「やっぱり彼氏とかいるのかな」

「どうなんですか?妹さん」


全校集会から教室へと戻る時、恋愛話で盛り上がっていたお調子者の男子が手をマイクの形にして私に向けてくる。


「いないんじゃない?お姉ちゃんそういうの興味がなさそうだし」


「じゃあ俺アタックしちゃおうかな~」


「ああ?」


反射的に怖い声が出てしまった。


男子が縮み上がる。私だって伊達に「シスコンの橋本」なんて呼ばれていない。私のお姉ちゃんにちょっかいを出してくる野郎どもは私のライバ、、じゃなかった私の敵だ。お姉ちゃんに近づける気なんて全くない。紹介してほしかったら金額で示せ。一億から交渉のテーブルについてやる。


まあ、あのお姉ちゃんが男なんかにうつつを抜かすことなんてないだろうから、あまり心配をしていないのだけれど。


放課後、私は図書室で勉強をしながら生徒会室の電気が切れるのを待つ。できれば帰りも一緒に帰りたいのだ。野球部の金属バットの音やラグビー部の雄たけびが聞こえるなか、7時を過ぎであたりも暗くなってきたころに生徒会室の電気が消えた。


私は、やりかけの数学の問題を瞬殺してバッグにしまう。下駄箱のところに行くとちょうど生徒会の面々が帰るところだった。


私の姿に気づいたお姉ちゃんが、みんなにバイバイしてからこっちへ来る。


「先帰っていいって言ったのに」


「いや、ちょうど図書館で課題が終わったところだったから」


そして、地下鉄の駅へと並んで歩く。地下鉄でもバスでも値段が変わらないから月ごとに定期を買って交代で利用している。


「生徒会大変?」


「まあ、文化祭も終わったから、その片付けがね」


「今日の全校集会お疲れ様。スピーチ良かったよ」


「うむうむ。さすが私」


お姉ちゃんはえへんと胸を張った。いつもはしっかり者のお姉さんなのに、たまに子供っぽい仕草が出るのがとてもかわいい。こんなの男子がされたら文字通り瞬殺であろう。


「さすがお姉ちゃん」


一つ息を整える。まるで、好きな女の子に恋人がいないことをさりげなく聞こうとしている男子のように話題を慎重に持っていく。というより、「まるで」ではなく実際そうか。私は好きな女の子に恋人がいないかをさりげなく聞こうとしているのだった。


「クラスの男子がみんなメロメロだったよ。ほんとにモテモテなんだから」


「好きな人に振り向いてもらえないなら、他の人にいくらモテたって意味ないでしょ」


少し含みを持たせた言い方が気になった。


「お姉ちゃん好きな人いるの?」


「ふふ、どうだろうね」


「えー教えてよ~」


外から見ると姉の恋愛事情が気になる無邪気な妹に見えただろう。だが、今の私は内心汗だらだらだった。顔面蒼白内心動揺ってやつかな。まさか、あの完璧なお姉ちゃんを女の顔にさせるオスがいるのか、そんなの私は認めんぞ。


「そういう佐奈はどうなの?あなただって結構モテるじゃない」


質問に逃げたな。


まあ、自慢だけど、これ完全な自慢だけど、私はお姉ちゃんよりモテる。やっぱりえげつない美人よりは可愛い女の子の方が男から見るとハードルが低く見えるらしい。だから橋本佐奈はモテるのである。文化祭はいろんな男から誘われるのが嫌で女友達と回ることにしていたが、それでもひっきりなしにスマホに連絡が来たのは正直うざかった。Line消そうかと思ったくらいだ。


「男には興味がないもん。タバコ吸ったことがない人がタバコ吸いたいな~って思わないでしょ?それと同じだよ。彼氏ができたことないから彼氏欲しいなんて思わない」


だってそうでしょ。確かに、さっきお姉ちゃんが言ったように好きな人に振り向いてもらえないならいくらモテても意味がないってやつだ。


「なにそれー」


お姉ちゃんはおかしそうに笑う。てっきり私と同じ意見だと思ったのに、もしかしたらお姉ちゃんは恋愛なんてまるで興味がない孤高の美人ではなくなってしまったのかもしれない。

晩御飯食べても、お風呂あがってもお姉ちゃんはずっとパソコンを打ってた。文化祭の報告も終わったというのに、大変な仕事量だ。もしかしたら、生徒会の他の人たちには任せずに、なんでも一人でやっているのかもしれない。


「お姉ちゃんまだかかりそう?」


「ごめんね、もうすぐ終わるから。もし寝れないならリビングでするよ」


「ううん、パソコンのカタカタ音好きだから」


私は二段ベッドの下の方から、お姉ちゃんの後姿を眺める。


長い黒髪がサラサラで綺麗だな。私だけのお姉ちゃん、私だけのお姉ちゃんなんだから。

聞かれないように、でも微かでも聞こえてもらえるような小さな声で私はつぶやいた。



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