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3分読み切り短編集

一番大事なもの

作者: 庵アルス

「パパの一番大事なものってなぁに?」

 小学生の娘が私に訊ねた。

「そりゃあ、みっちゃんが一番大事に決まってるじゃないか」

 私はひょいと愛娘を抱き上げた。私の顔は緩みきっていることだろう。そのうち『パパくさい』とか言われるようになっても、私の一番は娘である。

 だが幸いにも、娘ははしゃいだ声を立てて喜んでくれる。

「じゃあさ、ママは? ママも一番大事?」

「そうだよー、ママも大事な人だよ。大事だから結婚したんだよ」

「じゃあエリーちゃんは?」

「エリーちゃん?」

 娘が挙げたのは飼っている猫のことだった。それこそ娘が拾ってきた黒猫で、いかにも猫らしい自由闊達な性格をしている。エリーちゃん、と娘は呼ぶが、妻が付けたフルネームは、エリザベス一世。まぁ、本人(本猫?)も、気高いといえば気高いが。

 実は私は、猫が元々苦手だ。子供の頃に引っ掻かれて以来、道で見かけたら避けるほどには苦手だ。飼うのも乗り気ではなかったが、捨てられていたのを拾って世話をするうちに情が湧いて、エリザベスだけは平気になった。

 今では娘とエリザベスが猫じゃらしで遊ぶ姿を見るのが癒しとなっている。

「エリーちゃんも一番大事だよね?」

「もちろん。エリザベスも家族だからね」

「よかったー!」

 娘はほっとしたように言った。

 しかし、急にどうしたのだろう。学校の宿題に、作文とかで、そんな課題でも出たのだろうか。

 それにしては『よかった』とは⋯⋯?

 などと考えていると、妻が後ろになにかを隠しながらやってきた。しかも申し訳なさそうに。

 とてつもなく嫌な予感がした。

 妻が隠していた物を私に見せた。

 それは私の、五万円もしたヴィンテージジーンズだった。

 学生時代に無理して買ったお気に入りの一本だ。見間違えるはずがない。

 ただ、ところどころ、記憶にないダメージを受けている様子だったが。

「エリーちゃん、パパのジーパンで爪とぎしちゃったの⋯⋯」

「な⋯⋯っ!」

 私は膝から崩れ落ちた。猫の手が届く位置に、吊るしておいた私も悪いのだが⋯⋯。

「でもでも! ⋯⋯エリーちゃん、一番大事なんだよね? ジーパンより大事なんだよね?」

 娘が確認していたのはそういうことだったのか!

 騙されてもなお、みっちゃんと妻が一番だよと、私は震える声で言った。

 エリザベスの順位は下げた。

2020/10/12

にゃんこ派? わんこ派? 僕はインコ派!

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