もう繰り返さぬよう〜贖罪と懺悔〜
※サラッとお読みください
その日は突然目が覚めたように魔法が解けた。
私の腕にはルミナ嬢が絡みついて、甘ったるい声で甘えてくる。私はそれを振り払い、ラナの屋敷まで急いで馬車を走らせる。
ラナの屋敷に入ると何かあったのか騒がしく使用人が慌てふためいていた。すると、何かが割れる音と女性の悲鳴が聞こえる。ラナ、ラナは何処だ。
悲鳴が聞こえた方へ足を進めると、ベルフリード公爵夫人が発狂したようにラナの名前を呼んでいる。
「ラナ、ラナ!!私の可愛いラナ!!私はなんて事を……ラナ!!早く、早くラナの所にいかないと!!」
「落ち着くんだ、ラミア!!直ぐにラナを探そう!!」
「ベルフリード公爵、ラナは今どこへ!?」
「私達は王太子であるアデル様から婚約破棄をされた後、ラナを裏街外の娼館へと……ああ、私達は何故愛しい我が子をそんな場所へ……」
「私達もラナを探そう。ライト、君もついてくるだろう」
「はい、王太子様!!一刻も早く姉上を見つけましょう!!」
私達は騎士も使い裏街外を捜索する。私自らもラナの弟も伴って捜索にあたった。
「お願いします、王太子様!!私達も連れて行って下さい!!」
捜索から一週間、ラナは見つからずラミア夫人から同行を求められた。女性が行く場所では無いと説得したが、自分がラナを娼婦に落としたという事実に早く見つけたいのだろう。
ラミア夫人の懇願で同行を許可したその日、ラナは見つかった。そう、誰もが目を背けたくなるような姿で。
痩せ細り、死後一週間あたりだろう。腐乱死体には虫が群がっている。
「いやあああああ!!ラナ!!ラナ!!嘘よ、嘘よ!!」
「姉上……俺達が姉上をこんな……」
ラミア夫人はその場で発狂し、誰も止められない。ライトも放心状態で膝をつき「姉上……」と呟いている。私はこの死体がラナじゃない事を祈りながら腐乱死体に近づく。痩せ細り、瞳の色もわからないが、髪の色が私が愛していたラナそのものだった。
「ラナ……ラナ……すまない、何故こんなことに」
涙が次々と溢れ出してくる。私は腐乱死体だというのも気にせず、ラナを持ち上げ抱きしめる。
何故だ?小さな頃からラナは努力家だった。私も王太子としての厳しい教育に耐え、ラナと共に過ごしてきた。ラナは優しく、聡明で愛しい存在だったはず。なのに私はいつからかラナに酷い仕打ちをする様になった。私だけじゃない、ベルフリード公爵達や、友人、ラナの周りにいた人間は全てラナに酷い仕打ちをしていた。そして私の愚かな発言で、ラナをこんな形で失ってしまった。
「ラナ、ラナ、ラナ……うわあああ!!!!」
ひと目目憚らず涙を流し叫び声を上げる。そこからの記憶は曖昧だ。騎士にラナから離され、気づいたらラナの葬儀が執り行われていた。ラナの葬儀にはラナに酷い仕打ちをしていた人間が山程来ている。そして皆が紡ぐ言葉は贖罪の言葉。
ラナの葬儀が終わり、ベルフリード公爵の屋敷へ向かう。もうラナはいないと言うのに。
するとベルフリード公爵の屋敷は恐ろしい程に静かだった。フラフラと屋敷の中に入ると、血塗れで倒れる公爵と、血溜まりの中で剣を握ったライトがいた。
「……ライト、何があった……」
ライトは虚な目で静かに語り始める。
「母上が姉上の葬儀の後、首を裂き自害しました。父は狂った様に使用人達を殺し始め、俺はそれを止めるために父を殺しました……」
「そうか……」
「姉上を守れるような騎士になりたかったはずなのに、いつの間にか私達は道を踏み外しました。アデル様……私達は姉上に償いをしないといけません……」
「ああ……そうだな」
血塗れのライトはゆっくりと私に近づいで来る。私は逃げもせず、ただその瞬間を待っていた。ライトが剣を構え、その剣を私の心臓に突き刺した。
ラナ……ラナはもっと痛かっただろう、苦しかっただろう。あんな地獄であんな形で死ぬなんて。私はこんな楽に死んでしまうのを許してくれ。私はラナの元へと行けるだろうか。
(もし神がいるとしたら、時間を戻してくれ。ラナがまだ生きている頃に。そうしたら次は間違えないよう、ラナが死なない未来を……)
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