95.逆なんだ・・・きっと・・・
あれからのことはよく覚えていない・・・・・・なんてことはなかった。
机の上に置いてあった一人分の朝飯を片付けて気づけば俺は高校に向かい席に着いていた。
当然高校には刹那が先に来ており、初めに一瞬だけ目が合ったがすぐに目を逸らされてしまった。その後も機会ある度に刹那の方をチラチラと伺ったが一切こちらを見てくることはなかった。
当然昼ご飯のときもこちらに来ることはなく、愛華や沙月と女子だけで誘って食べていた。2人ともいつもと違う刹那の様子に戸惑っていたが刹那が有無を言わせない態度で接し続けていた。
俺は晴生と無言で刹那が残してくれていた弁当食べていた。
晴生は俺達の異変に気づいている様子だったが教室では問い詰めてくることはなかったが、ジッと睨んできたため、逃げるように視線を逸らしているとその先にいた愛華と沙月と目が合ってしまいものすごく怖い顔で睨まれた。
特に愛華は軽蔑しきった顔で冷めた視線を送りつけてきており俺は全てから逃げるように下を俯きながら最後になる刹那が作ってくれた弁当を食べた。
あの2人の後ろで刹那がどんな表情で食べていたなんて俺には知る由もなかった。
「おい、お前」
「ぐっ・・・」
「いや、お前ら・・・一体何があった?」
「っ・・・」
今日の部活、いつもの明るさなど全くないとってつけたような仮面の笑顔で部長の挨拶が終わり各教室に分かれてパート練習を始めようとしたところ、荷物を机の上においたらすぐに俺の胸倉は掴まれ背中は教室の壁に叩きつけられた。
背後からやってきた衝撃に呼吸が苦しくなったと共に自分の制服がギチギチと締め付けられる。目の前には俺の胸倉を掴み上げる晴生とその横で腕を組んで冷たい目を俺に向ける愛華がいた。
いきなりの2人の変化にトランペットの後輩も何が起こっているのか驚きのあまりどうしたらいいのかわからないようで呆然としている。
そんな様子の後輩を横目で確認して申し訳なく思っていると、晴生が低く冷めた声で唸るように言う。
「おい、いつまで逃げてる気だ……こっちを見ろ……」
俺の視線が目の前に戻される。
そこには陽気に馬鹿笑いをしながら俺にダルがらみをしてくる晴生はそこにおらず静かに怒りを滲み出していた。
俺はあまりにも強烈な迫力に圧倒され「っ・・・」と黙ることしかできない。そんな俺にいつもだったら決してすることはない「チッ・・・」と舌打ちをした後、しびれを切らしたようで口を開く。
「お前と刹那、朝から明らかに様子が変だ。お前ら今日一日たりとも話すこともなければ、顔を見合わせることもない。お互いがお互いを避けているように見える。しかも、お前らずっと表情が暗い。今日の表情も態度も・・・酷すぎるものだった・・・」
「知らない・・・」
誰のものか、垂れ下がる拳が自然と硬く握られる。それと同時に俺もぽつりと言葉を発する。
その言葉の意味に晴生は当然理解できるはずもなくわけのわからないと言った顔で「はっ?」と口を開いている。だから、俺はもう一度言い直してやる。
「だから、知らない」
朝からひたすら目すらも合わせてくれないことも、弁当一緒に食べてくれないことも・・・そんなこと知っているよ。
そんなぐちゃぐちゃの顔で俺の顔を見ないように部活全体を見回す刹那も、見てるだけで気持ち悪くてすごく嫌な気持ちで・・・惨めな気持ちになったよ・・・
「知らないよ、俺にはもう・・・逆だったんだ・・・きっと・・・」
だけど、それは・・・違う。
この気持ちは決して何も告げないで俺の前から立ち去った刹那への呆れでも怒りでもなければ、失望の気持ちでもない。だって違うもんな・・・
『私には永遠の隣にいる資格はなかったから・・・・・・私が永遠をいつも傷つけてた・・・・・・だから、そんな私には永遠と一緒にいられるわけがない・・・・・・今日でさようなら、永遠・・・』
と悲痛な顔で弱々しくポツリポツリと言葉を溢す刹那が思い出される。
一体なんで刹那が家を出て行くことになったのか・・・
・・・なんで俺とは一緒にいられないのか・・・
・・・いつどこで刹那の何が俺を傷つけたというのだろうか・・・
・・・そして、なんでそんな愛しい目で、まだ俺のことが好きだと、刹那のまっすぐな気持ちが嫌でも伝わってくるのに悲しく辛く寂しそうに泣きながら俺の前から離れたのか・・・
わからない・・・刹那が何を想ってこんなことをするのか皆目見当もつかない。
だけど、たった一つだけわかることがある。それは・・・俺は刹那の事がわかっていた気になっていただけだということだ。
俺には刹那が抱えている心境を何も察することができなかった。あの時刹那がどんな気持ちで俺に別れを告げたのか、その気持ちを少しでも汲み取ろうと努力しただろうか・・・そんなこと一切しなかった。
ただ俺は刹那に『行かないでくれ・・・』と自分の願望を押しつけることしかできなかった。
もっと刹那に寄り添うべきだった。もっと歩み寄るべきだった。
だけど、俺はそんなことすらできなかった。
大切な人が手が届く目の前から泣きながら去ろうとしているのにも関わらずその手を掴むことも引き留めることすらしようとしなかったのだから。
固く握っていたはずの拳が力が抜けてタラリと開かれる。
もう目の前の2人の顔も見ることはできない。重力に従うまま床を見る。
胸がギシリとナイフを突き立てたまま動かされているみたいに痛い・・・そのナイフを握っているのは自分だが。
刹那が俺とは一緒にいられない、その資格がない・・・とそんなことを言っていた。
だけど違う・・・俺が、刹那の気持ちを理解もできず、ましてや理解すらしようとしない俺なんかが・・・
「俺の方こそが・・・刹那と一緒にいる資格がなかったんだよ・・・」
パァーーーン
教室内に乾いた音が響き渡る。先程とは異なる視界、ジンジンとやってくる痛み、いつの間に溢れていたのか目の前の床に離れた距離にある黒く染みた2つ水滴の跡。
痛む頬のことも忘れて俺はギギギとまるでロボットのようにぎこちなく首を動かしながら首を左上に回す。
「!?」
俺はただ絶句するしかできなかった。真っ赤に耳まで赤くなり、目を腫らし溢れるほど涙を溢しながら俺を見下ろす愛華がいた。
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文量と話数の構成ってやってみると難しいんですね・・・という言い訳を置いてシリアスな話は、まだまだ続きます。




