94.さようなら・・・私の大好きな人・・・
「私、今日でこの家から出てくね・・・永遠と付き合うのも・・・今日でおしまい」
「刹那・・・何・・・・・言ってんだよ」
いきなりわけのわからないことを言い出す刹那に、俺は信じられず聞き返す。
すると刹那が全くこの状況下に似合わないはずなのにくすりと笑う。
「じゃあ、もう一度言うね。私は今日からこの家を出て、別の所で暮らします」
やめろ、そんなことを2回も言わなくていい、内容がわからないんじゃない、言っていることを俺が理解したくないだけなんだ。
まだ認められない、認めたくない俺は必死に言葉を紡ぐ。
「なんで・・・」
「なんでって・・・・」
言い淀む刹那に俺はすがりつくように駆け寄り、手を握る。
いつもだったら温かい刹那の手も冷え切った手で心まで凍り付いてしまいそうだった。
「なんか悪い所があるんだったら言ってくれ!ちゃんと直すからさ・・・だから・・」
もしかしなくとも俺が原因なのではと思い、俺のダメな点を言うように刹那に尋ねる。
しかし、刹那は俺の悪口を言うどころか首を「んーん」とゆっくりと横に振ってはむしろその逆を言ってきて、
「永遠に直してほしいところなんて1つもあるはずがないよ」
「だったら、なんで?・・・・・・」
そこには俺への否定など一切なく、刹那が家を出て行かなければならない理由がますますわからなくなってしまっていた。
しかし、それでも俺は刹那を行かせまいと先程握った手を俺は強く握る。
そんなどうしようもなく情けないことしかできない俺自身を嫌に思っていると、刹那は嘲笑うかのように表情を崩して、俺と握っていた手を自ら振りほどき言った。
「私が悪いから・・・」
「えっ・・・」
予想だにしてなかった返答にすぐには頭で処理できず、「なんて?・・・」もう一度聞き返してしまう。
「もう一度言うね、私がこの家を出て行くのは、永遠が悪いんじゃなくて私が悪いの。だから永遠は何も気に病むことはないよ・・・」
「・・・」
『私が悪いの・・・』先程の刹那の言葉が頭の中で再生され続ける。
永遠が悪いんじゃないの・・・
私が悪いの・・・
永遠は何も気に病むことはないよ・・・
私、今日でこの家から出てくね・・・永遠と付き合うのも・・・今日でおしまい・・・・
そんな俺に追い打ちをかける言葉がさらに襲いかかってくる。
「あっ、決して外で寝泊まりするわけじゃないよ。ちゃんとお父さんとお母さんにも電話してちゃんと許可はとったから。流石にそんな急ピッチで家は用意できるわけではないからしばらくはお母さんが知り合いに連絡してくれて泊まってもいいと言ってくれた家に泊まるから・・・永遠が心配することはないよ。それに高校はちゃんとそこから通うから休む心配もないよ。ただ、学校で接するのは・・・」
「やめろ・・・」
「・・・」
いつの間にかそんなにも話が進んでいることに愕然とし、刹那が出て行くのを止めようにも刹那のお父さんお母さん、そして家の準備、しかもそれまでの外泊先も既に決まっており一瞬で外堀が埋められてしまいただただ絶望するしかできなかった。
もはや刹那がこの家を出て行くのは固く決められておりそれを受け入れられない俺は幼稚園児がわがままを言って駄々をこねるようにただ懇願するしかできなかった。
「行かないでくれよ・・・」
頬に熱いものが伝う・・・
「うん、ごめんね」
謝る刹那。しかし弁明も撤回も一切してくれない。
「離れないでって言ってたじゃん」
「そんなことも言ってたね・・・」
刹那が懐かしむように小さい声で呟き返してくる。
「だったら!・・・」
俺は刹那に歩み寄った瞬間、
「はい・・・ストップ・・・」
刹那の右手の人差し指が俺に次の言葉を言わせないように俺の唇にそっと縦に当ててくる。
そして寂しく悲しい、自分を責めるように辛そうな表情で言った。
「私には永遠の隣にいる資格はなかったから・・・・・・私が永遠をいつも傷つけてた・・・・・・だから、そんな私には永遠と一緒にいられるわけがない・・・・・・今日でさようなら、永遠・・・」
石のごとく固まってしまい、もう動ける気力もないことを刹那が読み取ったのか俺から離れて背中を見せてその後ろ姿が小さくなっていく。
そして、ついにドアの取っ手に手をかけた。そして再び俺の方へ振り返った。
瞬間、俺は絶句した。
笑顔だけど刹那の頬は雫が流れていて、白い歯を見せて口角を上げているのに目は辛い、そんな顔をした刹那が言った。
「この家のことよろしくね。それとちゃんと今日も元気に高校に来なくちゃダメだからね。永遠一人でも家事ができることはわかっているけど、ちゃんとサボらずにお願いね・・・お父さんとお母さんが帰ってきたときに汚すぎて怒られるのは絶対ダメだよ・・・・・・ちゃんと自分の体調管理をしっかりするんだよ。元気で楽しく過ごせるように・・・・・・永遠・・・今までありがとう・・・さようなら」
「刹那!」
名前を呼んだが、俺の声は刹那の耳に届くことはなく、ドアを開けて出て行った刹那によってガチャンと重く低い音が無情にも玄関に響き渡った。
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しばらくイチャつけない日々・・・




