93.ずれた歯車
わからない・・・一体何があったんだよ・・・・刹那?
俺の目の前には寝息を立てながら、それでも時々呼吸が荒くなったと思ったら苦しそうな顔を浮かべて「ああぁ・・・」と辛そうにうめき声を発している。
そして「ごめんなさい」と何度も謝罪の言葉を口にする。またしばらくすると落ち着き何事もなかったかのように眠る。
そんな光景が永遠に続くんじゃないかってくらいに繰り返されて、俺は不安で胸が張り裂けそうで痛くて、そんな刹那を見たくなくて、早く目を覚ましてほしくて、声が聞きたくて、笑ってほしくて・・・俺は眠る刹那の隣に座りただひたすらに刹那の手を握りしめている。
結局この日、刹那は一日中目を覚ますことはなかった。
「うっ・・・」
いつの間にか寝てたのか?
俺は布団の中で横になっていた・・・・・・って!?
俺は違和感を感じ体を起こし、辺りを見回す。
やばいよ・・・背中に冷や汗が伝う。
先程まで感じていた眠気が吹っ飛び、恥ずかしさで心臓の音が加速していく。
刹那の布団で寝てしまった!
昨日、刹那の側でずっといた俺はどうやらそのまま寝落ちしてしまったらしい。
その証拠としてさっき周囲を確認した際に体を動かすと体が痛かった。
隣には刹那が既にいないことから、俺は昨晩、刹那の隣で座ったまま眠ってしまい朝起きた刹那によって布団に入れられたのだろう。
ていうか久し振りに入ったな刹那の部屋・・・。
高鳴る鼓動が大変なことになるのは自覚しているが欲求には逆らえず刹那の部屋を再度見渡してしまう。
年頃の女の子らしさはあまり感じられないが、綺麗で物も整理整頓されており清潔感が漂っている。
それでも布団の近くにはかわいいクマのぬいぐるみが座っていたりして無機質な部屋であるとは感じさせない。
むしろこのクマのぬいぐるみをぎゅっとしている刹那を勝手に妄想してしまいかわいいだろうなとそんなことまで考えてしまっていた。
女の子特有の甘い匂いが部屋中に感じられて、さっきまで刹那がいたであろう布団に鼻が向かい、もっと匂いを嗅いでしまいたいと思う変態な俺の心を必死に自制する。
離れたいが離れたくない、羞恥心やら精神がごっそりと削られていくために部屋から早く出なければいけないのはわかっていたが、それと同時にもっと部屋にいたい、刹那を感じていたいといった気持ちが矛盾した葛藤を生み出す。
しかしそんなバカな思考はすぐさま中断させられることになった。
俺がバカなことを考えながら刹那の布団に黒く滲んでいたところが目に入ったからだ。
「って、何考えてんだよ俺は」
一気に冷やされた俺は自虐するかのように呟く。
まるで何かで濡れてしまった跡はちょうど俺が寝ていた隣、つまり刹那が寝ていて顔の位置にるだろう場所だった。
その時背後でドアがガチャリと開く音がして、振り返る。
そこにはいつものように無垢な笑顔を浮かべていた刹那ではなく、作り笑いを浮かべて目元は真っ赤に晴らしていて、今にでもしおれそうなほどで消えてなくなってしまいそうな・・・見ていてこちらが苦しくなるそんな表情だった。
「・・・起きた?永遠・・・」
「うん、今起きたとこ」
「・・・ご飯の用意できてるからね」
それだけ言い残し刹那は部屋のドアを閉めてリビングに降りていった。
いつもの「おはよう!」という元気はつらつな挨拶も一切交わすことなく、取り繕われた陰りある笑顔で起きたかどうかの確認をされて、久々に俺は残暑残る中冷たくて寂しい朝を迎えたのだった。
「・・・」
「・・・」
刹那が起こしに来た後、俺は刹那の部屋から出て自室に戻り着替えを済ませて朝ご飯を食べた。
もちろんご飯の最中は一言も言葉が交わされることはなかった。箸や皿がカチャカチャと無機質な音だけがこの寂しい空間に鳴り響いた。
互いに目を合わせないように俯いて食事に集中するふりをし続ける。
俺はチラチラと合間を縫うように視線を向けたが、一度も視線が刹那と合うことはなかった。
当然こんな状態で、いつものように2人で過ごすなんてことはできるはずもなく、洗い物を済ませた刹那が「やることあるから」とだけ告げて自室に戻っていった。
「何があったの?」と聞く暇すら与えられることなく俺はリビングに取り残された。
俺はなんとなく自室に戻る気はなく、それに自室に戻ろうとして部屋からばったり出てしまった刹那と会ったらうまく話せる自信が今の俺にはない。
俺は寂れたリビングに置いてあるソファに座った。
昨日はここで刹那と楽しくテレビを見ながら談笑してたのにな。
昨日の刹那の影が一瞬映ってはすぐに消えた。
「とりあえず、何が起きたのか整理しないと・・・」
自分に言い聞かせるように呟く。
昨日、俺は刹那の怪我を能力を用いて治療した。
そしていつも通り刹那に能力の軽はずみな使用について心配されて怒られる・・・・そう、ここまではいつも通りだったのだがここからがいつもとは全く異なる光景だった。
心配するように俺の手を握ってきた刹那が一瞬驚いた顔を浮かべて固まったと思ったら、急に何度も謝りだして、その理由を尋ねて、刹那が答えようとしたとき刹那は頭を痛そうに両手抑えて、痛々しい声を上げた後意識を失ってしまった。
意識を持たせられないほどの激しい何かが刹那を襲っていたことになる。
昨日の出来事を一通り振り返ってみたが、全くわからなかった。
刹那は昼も、夜もご飯の時だけ降りてきてはご飯を作り食べてはすぐに自室に戻っていく一日を過ごした。
今日は付き合ってから初めて別々で寝た。
そして翌朝、俺はあまり寝られなかったが、今日から学校が始まるので重たい瞼をこすりながら階段を降りると信じられない光景が目の前に現れた。
玄関には大きなスーツケースにパンパンに詰め込まれたリュック、そして制服を着た刹那が靴を履いていた。
明らかに学校に行くだけじゃない格好に俺は驚きのあまり固まってしまい、何も言い出すことができなかった。
するとそんな俺の様子を見て、刹那は悲しそうで、苦しそうで、辛そうで、今にも泣きそうで・・・それでも愛おしい存在を優しく大切に見つめるような顔で俺に伝えた・・・今、一番聞きたくなかったその言葉を・・・
「私、今日でこの家から出てくね・・・永遠と付き合うのも・・・今日でおしまい」
読んでいただきありがとうございます!
文化祭も終わってほのぼのな日常へ・・・とはいかずに最終章の始まりです。
最後まで書き終えたので、毎日投稿していきます。
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