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87.雪女のボディガード

 俺と晴生は宣伝の仕事を終えて正午になったので自分達のおばけ屋敷がある教室に戻っている最中だった。その最中午前の部の終了と昼休憩を告げる放送が校内にかかった。


学校の生徒はそれぞれの教室へ戻っていき、来校者は学校を出て行く者、昼飯を持参し滞在可能な空きスペースで食べる者など様々な人がいた。

そのため教室に向かおうとしても人がごった返しておりなかなか前に進めなかった。


根気よく進み続けているとようやく教室に辿り着き、廊下にはさっきまで受付の仕事をしていたであろう刹那が並んでいた人達に「午前の部は終了となりましたので、午後からまたお越し下さい」と並んでいた人達を帰しているところだった。


その中には先程自分達が宣伝中に見つけた人達や晴生の声を張った刹那を利用した宣伝でやって来た人達もいてそいつらは特に肩をガクシと目に見えてわかる程残念な様子をしているのを見て、俺は内心「ざまぁみろ!」とほくそ笑んでいた。刹那にああいった奴らに関わるようなことがなくてよかった。

とはいえ午前中でおばけ屋敷に入ってくれた人の中でも受付に引かれた人は一定数いそうではあるが。


なんだかんだ午前中では入りきれない人達が出てくれるほどおばけ屋敷に客が来てくれたのでこちらとしては嬉しいことに限りない。一部のやって来る理由だけが解せないが。


俺は帰っていく人達を首を左から右へスライドさせるように眺めて刹那の視線に戻す。刹那は教室にいる誰かと窓を開けて話していた。


あれは・・・!?


楽しそうに話している刹那の背後から男性の手が明らかに不自然な位置へと手を伸ばしている。その方向は刹那の腰部、いや、もう少し下辺りに手を伸ばそうとしている。

ちなみに刹那は気づいている様子はない。


・・・あの野郎。


俺は早足で刹那のもとへ向かっていく。

まだ多くの人が廊下に集まっていたがその人ごみの中に押し入っていく。幸いにも距離的にも人の密的にも間に合いそうだったので助かった。

俺は手に持つ看板を伸ばして伸ばす手と刹那の腰の間に割り込ませる。


「なっ!?」


邪魔されるとは思ってなかったのか目を丸くしてこちらに顔を向けたまま固まっている。

俺は目の前の呆けた面を拝みながら、注意を促す。


「お客様、うちのクラスの雪女にそのような手で触れられるのは困ります」


その声に気づいた刹那は咄嗟に俺の後ろまで下がり、俺に隠れるようにして俺の服の裾をきゅっと掴む。

遅れてやって来た晴生や近くにいた同じクラスの男子と一緒になって取り囲む。


刹那に手を出そうとしたことを怒ってはいるが、別に糾弾しようなどとは考えていない。

未然に防ぐことができたので後はこいつを立ち去らせればいいと思っていたのだが、


「お客様、今すぐここから立ち去っていただき、学校からも出て行ってくれると助かります。別にあなたを咎めようなどは一切考えていません。できることなら私達もご一緒して校門までご案内しましょうか?」


男性は自分の立場を理解してくれたのか首を小さく縦に振ってくれた。付き添いとして石田を含む複数の男子達が行ってくれた。


愛華に「先生呼んだけどどうする?」と聞かれたので、俺は今もスマホを眺めている晴生に言った。


「晴生、動画撮ってたんだよな?それを先生に見せてもらった後に文化祭の出禁にしてもらうように対応してもらおうと思うんだけど」


「あぁ、バッチリ撮れてる。俺もその方がいいと思う」


と晴生も同意してくれた。


なんで俺が動画を撮っていたのかわかったかというと、俺が動き出して、横目で見た際晴生はスマホを取り出す動作をしてたからだ。

晴生はこういう時の行動で俺みたいに情動に流されるのではなく、あくまで冷静に動く。

それは普段のお悩み解決でもよく気をつけていることとして聞いていたからだ。


「先生が来たら、情報提示と対応頼むな」


「こっちでそういうのやっておくから任せとけ、お前はフォローに入れ」


「わかってる」


対応は晴生に任せて、刹那の手を引っ張りおばけ屋敷の中に連れ込む。

今は昼休み中のためカーテンと窓を開けて換気をしているため、まだ冷房がひんやりと効いた部屋に太陽に光が明るく差し込んでくる。


俺は刹那を教室内にあったイスに座らせて、尋ねる。


「刹那、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ。永遠が、皆が守ってくれたから」


と特に心配はないと笑顔を作る刹那だが、無理矢理作られたものでどこかぎこちない。声も少しだけ震えておりいつもと比較すると弱々しい。


にしても本当に困ったものだ。

ただでさえ刹那がかわいい美少女で、おまけに雪女の格好をしているからとはいえそういった好奇な目線で見られていることですら嫌気が差してしまうというのに、触ろうとしてくるのは流石に勘弁してほしい。


同じ男としてそうなる気持ちは理解できなくはないが、ちゃんと相手のことを考えてほしいものだ。刹那が辛くなるだけじゃないか、と心の中で毒づく。


「無理はしなくてもいいぞ。ここにはさっきのような奴は入ってこないから」


「ううん、いきなりのことだったから本当に少しだけびっくりしてるだけだから。ちょっとまだ緊張してるかもしれないけれども、そこまでひどく心配するようなことじゃないよ」


「そうか、だけど自覚してないだけで精神的にはきてるだろうから、ここでちゃんと休もう」


俺は座る刹那の前にしゃがんで刹那の手をそっと包み込む。緊張で体を強ばらせていた余計な力が抜けていくのが見ているだけでわかった。


「少しの間、こうしてよっか」


「うん、ありがとう」


少しは安心してくれたのか刹那は優しい笑みを浮かべていた。




「お待たせ」


あの後落ち着きを取り戻した刹那は服装を制服に着替え直し、昼飯をほんのちょっとだけ食べた。

晴生がしっかりと対応してくれたみたいで、あの男性は出禁になったらしい。

校門でそいつが再び何食わぬ顔で入ろうとした際、係員によって入場拒否の対応がなされるであろう。


昼休憩の時間も終わり、校内放送では「ただ今から午後の部を開始いたします」がかけられるのと同時に喧騒さが一気に戻ってきた。

俺は刹那の左手を手に取り、


「それじゃあ、行くか」


「うん!」


刹那の輝かしいキラキラの笑顔を見ながら午後の部を回り始めるのだった。

読んでいただきありがとうございます!


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