84.満ちる月が眩しすぎて
今回は視点が3回変わります。
沙月→永遠→刹那の順です。
あの後、せっちゃんに引っ張られてリビングから連れ出された私は自分の部屋に向かった。部屋に入って泣き崩れてしまった私をずっと慰めてくれた。きっと私がせっちゃんにずっと抱きついてたせいで涙がせっちゃんの服を濡らしてしまったけれどもそんなことを気にすることもなく、私の背中をポンポンとしていてくれた。
私は嗚咽を交えながらもさっきまでのあふれ出ていた感情をせっちゃんにぶつけた。自分とは何ら関係のない話なのに親身になって聞いてくれた。そして最後に、「大丈夫、沙月のお母さんもお父さんも沙月のことをちゃんと想ってくれているよ」と言われたが、そこだけは私は素直に認めることができなかった。
そしていつの間にか話は終わっていたのか刹那のスマホにふゆ君からの連絡が入ってそのまま帰ってしまった。
そして今、私は両親を目の前にしてテーブルに座っている。
ふゆ君は何を話したのだろうか。あそこまですんなりと帰ってしまったからにはなにか得たものがあったのだろうができればその得られたものを私にも教えてくれたらよかったのに・・・・・
・・・って違うか。元々これは私達家族の問題だから、家族内で解決しろということなのだろう。
とはいえもう自分から言い出すのは怖かった。ふゆ君たちが帰った今、再びさっきのように冷たく返されたら・・と思うと口が全く動いてくれなかった。
「沙月・・・」
静寂な空気が支配する中、お父さんが私の名前を呼ぶ。
「さっきの続き、聞きたかったことがあるのでしょう」
「ご飯の感想とか正直全部言えないかも知れないけど、それでも私達が思ったことを伝えたいし、沙月の頑張りがすごく伝わってきた。そんな沙月の頑張りを伝えてあげたいし、もっと教えて欲しいな」
そう言って私を優しく微笑んでくれるお母さん。隣にいるお父さんもとても優しい目をしていて、なんだか久し振りに温かいなと自分の心が満たされていくのがわかった。今なら家族とちゃんと話せるような気がする。
ありがとう、せっちゃん、ふゆ君。
「今日のご飯どうだった!?」
私の明るい元気な声が家の中で響き渡った。
俺達は、家に帰る前にのどが乾いてしまったと刹那に告げて公園に立ち寄り、自販機でアイスティーを買いベンチで座り込んでいた。ちなみに刹那は隣で缶コーヒーを飲んでいた。
沙月の家でかなり滞在したので今の時刻は20時を回っていた。
高校生とはいえこの時間に用事もなくフラフラするのはよくなかったが、今はなぜか家に帰りたくなかった。
いや、なぜかなんてフィルターで誤魔化そうとしてとしても、ちゃんとその理由は理解できていた。
だけど、認めたくなかった。家に帰ってしまったらそれを自覚してしまうようで嫌だった。
今まで家族のことについて考えることは逃げ続けて何も考えないように過ごしてきた。そして夏休みのお泊まり会で再び前を向いて進み始めると公言してから初めて触れる家族の問題だった。
実のところはそこまで大したことなく、いや、当人達からすれば互いの気持ちの伝え方がわからないというのでかなりの不安な気持ちを抱えているのだろうが、あの3人が正直に話し合えるようにするきっかけさえあればすぐに解決する。あの両親の様子から今頃は親子仲良く互いの話をしていることだろう。
もう俺にはそんな機会が訪れることは未来永劫一切やってくることはない。交通事故で父さんも母さんも、弟も皆死んでしまった。家族のことでたくさん悩んで、ときには喧嘩をしてしまうこともあるだろうけど、たくさん楽しいときを過ごし、そんな温かくて幸せな時間を共有できる・・・・・・そんな時間はもう過ごせない。家族に皮肉の1つも感謝の言葉すら言うことはできない。
「いいなぁ」
無意識に俺の口から発せられた言葉が夜の静かな公園に残る。そんな自分で言ったのにも関わらず呟いた声が俺の耳に入ってくることはなかった。
公園の敷地の外に広がる明かりが照らされてない暗い道のずっとその先を焦点があってないのかぐらぐらと揺れながら真っ黒な世界を目が固定されてしまったかのように見続ける。暗くて光の届かない真っ黒な世界にただ1人、夏だというのに俺の体はどんどん寒くなっていくような気がした。
そんな時だった。
ふいに俺の手が握られる感触があった。
俺はさっきまでの世界から現実に引き戻される。優しくそっと包み込んでくれていたのは言うまでもなく隣にいた刹那だった。
「せつ・・・な?・・・」
と俺が顔を横に向けて見る。刹那は優しく微笑みを浮かべてただ、
「大丈夫、永遠は独りじゃないよ」
そのたった一言と手を握ってくれるほんのちょっとした行動だけで俺の心はスッと軽くなって温まっていくのがわかった。それと同時に目頭も熱くなってくる、涙を流すのは刹那の前だから恥ずかしいという理由で必死にこらえた。
「・・・」
「・・・」
お互いに何も話さない。夏の夜とはいえムシムシとした風によって揺れる木の葉の音や虫の鳴き声が聞こえる程度だった。だがしかし、別に今は話す必要がなかった。昔から俺は独りじゃない。
俺のことを大切に想ってくれる刹那が、育ててくれる義両親が、まだちゃんと認められたわけではないけど俺が酷い扱いをしてもそれでも歩み寄ってくれる友が、それらのことが刹那の手の温もりを通じてはっきりとわかる。
いない家族への気持ちは今度ちゃんと墓参りに辿り着けたら伝えることにしよう。近いうちに必ず。
「いいなぁ」
沙月の家を出た私達は公園のベンチに座って飲み物を飲んでいると、永遠がぽつりと呟いたのが聞こえた。私は隣に座っている永遠の方を見る。その表情はどこか寂しそうな様子で遙か彼方、絶対に届くことはない遠い場所を見ていた。
「せつ・・・な?・・・」
私は、自分の名前を呼ばれてはっとする。気づいたら私の手は残暑残る季節だというのにひどく冷たかった永遠の手を包んでいた。そして、今永遠が感じているであろう感情をどうにかしてあげたくて、永遠にそんなことを考えてほしくないから私は、
「大丈夫、永遠は独りじゃないよ」
そう言った。すると永遠の瞳に光が戻ってきたのと同時に潤んでいくのがはっきりとわかった。永遠はそれを悟られまいとこらえていたがバレバレだった。
ここでそれをツッコむのは流石に野暮なので私はただ無言のまま永遠の手を握る。さっきまで冷たかったはずの永遠の手は人肌の温もりを感じられるようになって、自分よりも大きくて筋肉質ではないけどもゴツゴツと固いところもある。
「・・・」
「・・・」
互いに無言の時間を過ごす。何も喋らないけれど特に気まずいとかそういったことは感じなくてむしろ心地よい。それはきっと永遠も同じだろう。
たぶん永遠は沙月が羨ましかったんだろうなと思う。家族を亡くしてしまった永遠だからこそわかる。家族と当たり前の日常を楽しく過ごすこと。それだけじゃない、たまには喧嘩にもなってしまうこと、悩みがあること、一見悪いことのように思えることですら永遠には目を閉じたくなるほど眩しい光景だったのだろう。
だから羨ましがった、だけどそれ以上に家族ともっと仲良くしてほしかった・・・もう家族と笑い合うこともできない辛さを知っているから。
こんなことを言っているが、私には当然そのことに実感を覚えるなんてことはできない。私が今思っていることなんか表面的で全然理解できていないに違いない。
それでも私は今できる限りで永遠に寄り添って支えていきたい。大好きな永遠が私にしてくれたそれ以上のことを返してあげたい。
「でも、ちょっといいかも」
さきほど永遠が沙月の両親と話している間沙月と一緒にいて、慰めていたのだがぼやけてはいたが沙月の家族の様子のイメージが思い浮かんだのだ。目の前にいる沙月の両親の目はとても優しそうで、だけど何を言ったらよいのかわからず戸惑っている感じだった。だから私はなんとなくではあるが大丈夫だろうと沙月が不安がる傍らそんなことを考えてしまっていたのだ。
私は空を見上げる、そして私の両親がいるであろう方角を見据えながら。
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次から文化祭に戻ります(永遠と刹那がイチャイチャと・・・)
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