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83.言葉にして・・・

 俺はリビングに繋がる戸を開く。するとそこにはもう耐えきることができなくなったのか涙を流しながら驚く沙月とテーブルに座る沙月の両親がいた。刹那はリビングに入るとすぐに沙月に駆け寄り沙月を慰めていた。その様子を見ながら俺は沙月の両親に目を合わせる。


なぜだか知らないが今俺の中にいる感情がぐるぐると支配しているのは沙月のことをしっかり見ない両親への怒りでも、見てくれない沙月に対する同情でもなんでもなかった・・・・ただ、哀しい、そしてなにより・・・そんな気持ちだった。


そんなに俺の顔がひどいのか知らないが、俺の顔を見ている両親が酷く困惑したような顔をしている。

誰も話さない空間がこの場を支配する。聞こえるのは沙月がすすり泣く音と刹那がそれを慰めている声だけだ。


とりあえず話をしないとこの場はどうにもならないので俺から話を切り出す。


「すみません、沙月のクラスメイトとして沙月のお父さんとお母さんに少し話がしたいです」


その俺の申し出に首をゆっくりと縦に振る両親。俺はまず話の機会が確保できたことに一安心しながら、


「少しだけ1人で話してみたい」


と小さい声で刹那に伝えると「わかった」とだけ返事をして沙月と一緒にリビングを出て行った。

去り際に、「大丈夫?辛くなったらすぐに呼んでね」と耳打ちされて俺はそのまま首を縦に動かして「大丈夫」と呟いた。




そして、このリビングには俺と沙月の両親の3人が残された。俺は沙月のお母さんにテーブルに座るように促されて席に着いた。コップにはお茶が既に注がれており、いつの間に入れていたんだ?とも思いながら顔を見上げる。


俺1人の対面には大人が2人、緊張で背中の汗が止まらないことがわかったが意を決して口を開く。


「突然のことですみません。沙月のことでお聞きしたいことがあります」


「いいわよ、元から何かを話したいような様子だったし」


「そうだな、盗聴までして聞きたかったことってなんなんだ?」


と両親から同意を得たのだが、盗聴がバレてる?もしかしてこっちの呼吸音でも聞こえてたのか?というか盗聴だってわかってた上で放置して話してくるのを待つってやばすぎる。目の前で対峙して改めて大人2人の圧力に早くも屈しそうになってしまう。それでも沙月のために俺は言葉を続ける。


「単刀直入にお聞きします。ご両親は沙月のことをちゃんと見てあげていますか?」


その問いに2人は顔をしかめながらも「なんでそう思ったんだい?」とお父さんが聞き返してきた。


「家族間の会話を盗聴させてもらったところ、あまりにも会話がなかったものだったので、気になりまして。先程の沙月の質問に答えましたか?」


「沙月のご飯のことは、いつも通りだったわ」


と淡々に言葉を述べるお母さん。それが一体どうした?とでも言わんとするような顔をしている。

その答えに俺はどこかいらつきを覚えていた。


「その答えが沙月を泣かせたのにも関わらずですか」


その言葉に両親2人は目を細める。しかし何も答えることはなく黙ったままだ。俺は沙月の気持ちを代弁するかのように言葉を続ける。


「沙月はとても明るくて元気いっぱいな女の子なんですよ。今、学校では文化祭に向けて準備している最中なのですが、文化祭実行委員としてクラスの皆を引っ張ってくれています。

一見すると何も悩みや辛いことを抱えていることはないと思わせるほどの振る舞いをしていますが、そんな沙月でも誰にも相談しないで1人で抱え込んできた気持ちがありました。それが・・・」


「沙月のことをちゃんと見てほしい。ということね」


俺が言うのを遮ってお母さんがまるでそんなことは知っているといった顔で落ち着いて言葉を溢した。


「1つだけ、訂正させてほしい。私達は別に学校での沙月の様子を知らないというわけではない。沙月が学校で普段どのように過ごしているのか聞いてるし、今は文化祭に向けて頑張っているのは知っている。クラスの担任が私の同級生でね仕事でなかなか沙月の様子を見れない私達に代わって色々と聞かせてもらっているんだ」


「それにね、私達もね沙月のことをなんとも思っていないわけじゃないのよ。いつも沙月が私達のことを気遣ってやったこともない家事をし始めて、料理もますますおいしくなっていって、掃除もいつも部屋はきれいに保ってくれているし私達が仕事でまともに世話してあげられていないのに、いつも頑張っている沙月のことは見てきているつもりだわ」


沙月のお父さんもお母さんもさっきまでの無表情とは大きくかわりすごく優しく温かい表情をしており、先程までの冷たい印象は消えていた。


そして俺は沙月の両親の言葉、表情を見てやはり沙月はちゃんと両親から愛されているのだなと実感した。


いいな・・・


沙月の両親が初めて俺達と顔を合わせたとき、両親は俺達を睨みつけた後、沙月にはひどく心配しているような目線を向けていた。


沙月が泣いてリビングを出て行こうとした際にも2人はとても困惑しながらも、どこか後悔や申し訳なさといった表情がうかがえた。その顔は沙月は背中を向けていたため見ることはなかっただろうが。


そして沙月のことを語る際の優しそうな微笑み。とても嬉しそうで愛らしい娘のことを真剣に考えていた。


羨ましいな・・・俺にはそのような想いをぶつけられることはないから。だから沙月が家族のことについて悩めることですら俺は話を聞いていて羨望の眼差しを沙月に向けてしまった。


そしてだからこそ、沙月の家族には互いの気持ちが伝わり合ってほしかった。


だから、俺は口を開いた。


「だったら、沙月への気持ちを、普段の学校でも家のことでも頑張っている沙月をちゃんと見ているんだってことを言葉でもちゃんと伝えてあげてほしいんです。その沙月のことを一番に想っていることを本人に伝えることが沙月を心からの笑顔にすることができるから・・・」


その言葉に少しだけ目を見開く両親。

気持ちを抱くことは簡単だ。問題はその後その気持ちをどうやって懇切丁寧に伝えるかどうか。


きっと沙月も沙月の両親も共有する時間が短すぎたのか知らないが、互いの気持ちの伝え方、受け取り方が上手くかみ合っていないのだろう。そしてそのことは両親も気づいていた。だけど今さらどう向き合って伝えればいいのかわからなくなってしまったのだろうと勝手に推測する。


「俺が言いたいのはこれだけです。後は何も言いません。家族の問題に首を突っ込むのは迷惑ですので」


そう言って、刹那に『用事は済んだから帰るぞ』と連絡し上から階段を降りる音を確認して俺もリビングの部屋をでようとする。


「わかった、ちゃんと沙月と話してみようと思うよ」とお父さんが話し掛ける。

俺はその言葉を聞き、


「はい、ちゃんと伝えてあげてください。心からの言葉を愛情を。それだけで沙月はずっと元気でいられると思います。また学校でハチャメチャな沙月に会えることを楽しみにしています。お邪魔しました」


それだけ告げて俺と刹那は白河家から我が家に向かうのであった。

読んでいただきありがとうございます!


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