81.作戦決行前
「それじゃあ、行こっか」
と沙月の手を引っ張って学校を出る刹那。沙月は無理やり引っ張られて多少困惑しているもののそこには迷惑がっているといった様子はなく、逆に楽しそうだった。そんな様子を微笑ましく思いながら俺もその後ろに続く。
部活を終えた俺と刹那は、沙月に吹部の活動が終わるまで待ってもらい一緒に沙月の家に向かうことにした。
刹那曰く「沙月もわがまま大作戦!」とそのストレートすぎる行動名に刹那はふんっと胸を張っていたが、沙月も流石にそこは若干引いてた。そんな刹那もかわいいかったが。
そして帰り道、
「にしてもさ、せっちゃんもふゆ君もさあ、なんで私の悩みが家族だってわかったの?」
「今さらだけどさ」と付け足しながら疑問を口にする沙月。
俺はその純粋無垢な沙月の何気ない質問に申し訳なくなりつつも答える。
「沙月、お前は気づいていないかもだけど、スマホの充電が切れてるだろ」
驚いた顔をしつつも沙月は自分の荷物からスマホを取り出し、電源が着かないことを理解しながらも、俺の意図が読めず首を傾けていた。
「実は、昨日の様子から沙月が何かしら家族とあるんじゃないかって思って、沙月にスマホを返す時に俺のスマホと通話状態のまま返させてもらったんだよ。そこで、昨日の会話を盗聴させてもらいました。本当にプライベートに土足で踏み込むような真似をしてすまない」
そう言って俺は頭を深く下げた。
誰がどう見ても俺の行為はやばい。沙月の落ち込み具合からスマホをその日は見ないだろうという願望をもとに、そのままスマホ家族との関わる場所や沙月の独り事が拾われるであろう場所に放置されることに賭けながら咄嗟に思いついたことを実行したのだが、願望通り沙月はスマホを開くことはなく、そのまま家族との会話の一部始終も聞くことができてしまいなんか上手くいってしまった。
この倫理観ゼロの盗聴行為にも何も弁明することはない。俺が目を瞑りながら頭を下げていると、
「あだっ!」
俺の頭に何か叩かれたような衝撃に思わず頭を上げてしまう。そこには笑顔で手をパーにしてこちらに向かって手をフリフリさせている。
そんな様子を見て、少しだけ痛む頭を抑えながらも沙月に手刀をたたき込まれたのだと認識した。
「盗聴は解せないけども・・・
・・・ありがとう」
と目尻を下げながらニコリと微笑みながら沙月は言った。その素直な感謝に俺は少し恥ずかしくなり目を逸らしながら、
「そうか、電話代は後日請求してくれ」
とだけ言っておいた。しかし、刹那が入り込んできて、
「沙月!永遠だけじゃないから私だってそのぉ・・・」と自分も同じ事をしましたと言わんばかりに語ろうとする刹那の言葉を遮り、
「刹那にはさっき酷いこと言っちゃったから。それでお相子にしてもらってもいい?」
と申し訳なそうに謝る沙月に刹那は「何か言われたっけ?」と首を傾げている。そんな刹那が面白かったのか沙月はクスッと笑って、
「私がさ、『自分のやったことが素直に誰かに褒めてもらえるせっちゃんには私の気持ちなんてわかんない!』なんて言っちゃてさ。せっかく私に歩み寄ろうとしてくれるせっちゃんを拒絶して、逆ギレしちゃったから」
と独白する沙月に刹那はクスッと微笑みながら、
「全く気にしてないよ!私なんかそうやって沙月が悩んでいるのに全然気づけなかった」
「私の方こそごめんね」と謝る刹那を見て、改めて刹那はこういう子だったなと思った。人を思いやる優しさ、相手が自分を傷つけてきたとわかった上でも相手を許し、自分の過失を謝る。
相手だけのせいには必ずしない。そんな刹那を見て胸がキュッとするのを感じた。
「とりあえず本題に入っていいか?」
と女の子同士で楽しく話しているところ申し訳なく思うが、そろそろ沙月の家に着くので2人に声をかける。
振り返った沙月の顔は緊張しているのか、俺の言葉を聞くとともに顔を強ばらせた。
しかし、既に意を決していたのか真剣な表情で「いいよ」と告げた。
「俺達はこの後、沙月の家に行って沙月が作ってくれたご飯を食べながら沙月の両親を帰って来るのを待つ。そして沙月は両親を一緒にご飯を食べるように誘い、ご飯の感想をねだるといった感じでいいか?」
「うん」と黙ってこくりと首を動かす。
正直、わがままを言うことに俺達が一緒にご飯を食べる必要はあるのかとも思ったが沙月曰く、「親の前で上手くわがままをちゃんと言えるかわからないし、冷たくされたときがちょっとやばいかもしれない」と寂しそうな笑顔で語っていた。俺はそんなことを言う沙月に、
「沙月の両親は沙月が思うよりも沙月のことを想ってくれていると思うよ」
と言った俺の言葉に目をパチパチとしながら、すぐに寂しそうな顔に戻り、「そんなことはないよ」とだけ言って儚げな笑みを浮かべては前を向いて歩き始めた。
そして沙月の家で沙月が作った料理をおいしく味わいながら両親の帰りを待った。刹那とはまた異なった味付けだったがとても味わい深いものであった。とはいえこれでもどこか満たされない気持ちになるのは刹那の料理がやっぱりいいなと思っているからだろう。俺の胃袋は完全に刹那の手の中である。
そして、俺と刹那が食べ終えた後、皿洗いなどを済ませたところでちょうどその時、外で車が駐車するような音がしたのがわかった。その音に、「帰ってきた」と小さく呟き手にギュッと力を入れて握っているのがわかるが、それを見た刹那が「大丈夫」と優しく沙月の手を包み込んでいた。
そしてドアが開く音がする。沙月は「おかえり」と声をかけるのだが、「ただいま」と返ってくることはなかった。何の言葉も聞こえてくることがなくリビングに沙月の両親が入ってきた。
流石沙月の両親というだけはあって色々なところが似ていた。両親ともに平均からはかなり小さいであろう身長。小柄ではあるが、その顔つきは大人らしい気品ある表情だった。
沙月とは違ってすごく落ち着いて冷静さを持ち合わせているような雰囲気である。性格に関しては娘とは反対のようだった。そんな両親は俺達を見て驚いた顔をし、その後目を細めていた。
まあ、普通に考えて夜に知らないやつが家にいるのだから当然の反応だ。そんな両親に対して若干引きつらせながらも俺は、
「お邪魔してます。沙月と同じクラスの冬海永遠です。こっちは夏山刹那です」
と言うしかなかった。
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