76.改心してたあいつ
次の日、クラスの話し合いの結果、お化け屋敷の具体的な方針が決まり、クラスの中から各部署ごとにチームを作らせてそれぞれに持ち場を与えて、役割分担することになった。
平たく言えば仕事の投げやりである。責任者を誰もやりたがらないからこれも拒否られるかと思ったが、どうやらお化け屋敷と強く主張した人同士で既に構想やら色々と練られていたらしく「単に責任者と縛られることなく活動したかった」とのことで、ほとんどをその人達に任せることにした。
俺は、各部署間の連携や日程の計画や会計の管理、上からの連絡伝達やお化け屋敷が危険レベルまで達してないかの注意とか書類整理などの裏作業に徹することにした。
部署は主に4つで、客を引き込むために自分達のお化け屋敷の紹介やチラシを作ったり、廊下側を装飾したりする宣伝班、入り口と出入り口近くを担当する班、そして全体や主に中盤を作り上げる班、後は小道具や衣装などの制作班、といった感じで分かれることになった。愛華と晴生は制作班、刹那は宣伝班になった。
しかし、そこはいいのだが、1つだけ懸念材料が生まれてしまった。
刹那の班では石田健介がチームリーダーとなってしまったのだ。いったい誰だと忘れられていそうではあるが一応説明しておく。今はサッカー部のキャプテンとなり、周りからの評判はいい。協調的で友達も多く、勉強もでき、運動神経もよく、顔立ちもイケメンに入る部類だが、
5月に刹那に告白し振られたあげく逆上し暴力を働いた張本人であり、あいつ自身もここしばらく俺と刹那を避けて生活してくれていたのだが、じゃんけんの結果刹那と同じ宣伝班になってしまった。
本当はやつを引き離したかったが、特に理由もなく決まってしまったメンバーを入れ替えるのは職権乱用だし、そもそもクラスにほとんど全投げしている時点で俺にそこまで権力はない。だからここは甘んじて受け入れることにした。
遠目で見ても刹那は動揺やら不安の顔が隠し切れてなかったので、「大丈夫だ」とだけ声をかけておいた。刹那もぎこちない笑顔を浮かべながら、「私は構わないよ」と答えてくれる。
各部署の代表者どうしの話し合いを終えて、俺は石田に「話がある」とだけ伝えて教室に残らせた。向こうもたいして驚いていなかった様子からこうなることは予想できてたみたいだ。
少しの間沈黙が教室を支配していたが、部活の時間が迫っているのでそこまで時間はかけられないと思い、話を切り出した。
「お前、刹那には手を出すなよ」
「わかってる。あの時は本当にすまなかった」
石田は申し訳なさそうな顔をした後、頭を下げた。
その姿には以前とは異なり、自己のプライドの塊であった石田の姿ではなかった。
俺が、そのあまりにも大きすぎる変化に戸惑ってしまっていると、
「まあ、許さなくていい。ずっと恨んでいてくれ。俺もあの後色々と反省やら思うことがあった」
と軽くこれまでの経緯を話された。正直なところ石田への今さらすぎる謝罪への怒りやら突然の変わりようの驚きが入り混じっているため早く教室から出たかったが、しばらくは文化祭で関わることになるので聞いておくことにした。
話をまとめると、俺にぶっ飛ばされた後、サッカー部のキャプテンに就任した石田は今までの自分の考え方では通用しないことを思い知った。しかもその考え方は部活の先輩や同級生にも見抜かれていたらしい。
ていうかその上でキャプテンに選ばれるとは、やはりこいつは色々な面で優秀なやつで、そんな性格の上でも信頼性を得ていたなんてこいつは色々とやばすぎるだろ。と話を聞きながら内心そんなことを主追っていると、そんな俺の心情でも読み取ったのか「といっても暴力を働いたことまでは知らないようだが」と石田は苦笑いしていた。
その後も色々と話を聞き、まとめるならようするに改心したのだろう。そう結論づけることにした。
「まあ、改心したのはわかった。それにあの時の話を黙ってくれているのはこっちとしても助かるからな」
「黙っていたのは、起きた後に教室の配置やナイフが回収されていたり、俺の体が治っていたりと不可解な点がたくさんあったからな。黙った方が都合がいいのだと勝手に判断させてもらった。結果的に自己防衛になったわけだが」
なるほど、ただビビっていたわけではなかったというわけか。やはりこいつは頭はいい。
「そこだけは感謝する。今後もこの話は黙っていてほしい。その上で刹那とはそこまで関わるな」
そこまでという俺の言葉に少しだけ驚く石田。
「そこまで、って少しは関わっていいのか?」
「同じ部署なのだから仕方ないだろう。ここで俺らの都合をクラスに押しつけるわけにはいかないからな。だけど2人きりでは接触するな。それだけだ。後はこっちでお前と2人きりにはさせないように手配しておくから万が一でもお前が手出しできないようにしておく。チームリーダーとして接する分には特に何も言わん」
すると石田はなぜか納得した表情になって、
「わかったありがとう、冬海。そしてなんで夏山さんと冬海だったのか理解できた。これから仕事仲間としてよろしく頼みたい」
そう言って右手を差し出す石田。
「そうだな、仕事仲間としてはこれからよろしく、石田」
そう言い俺は差し出された手を取った。
荷物をまとめて部活に行く前に、なんだか途中から必要ないんじゃないかとも思ったが保険はかけておく。
俺は手に持つスマホを掲げながら、
「さっきまでの会話は録音させてもらったからすまないな」
「それでいい。ちゃんと夏山さんを守ってくれよ」
「言われるまでもない」
「にしても、なんだかんだ関わりを許したりして、他にもお前は何者なんだよとは少し思ってしまうがな」
という問いに、
「別に疑い続けるのは疲れるだけだ。あと俺はただの人間。あくまでもそう主張させてもらう」
とだけ告げて教室を出た。
石田にはおそらくだが自分が何かを隠し持っているというのがわかってしまっただろう。突然すぎる俺の変化、俺も刹那も石田も到底一日で治る怪我のレベルではなかったのにも関わらず無傷だったこと。これらの謎があいつの頭の中にも鮮明に残っているだろう。
とはいえこの話に関しては石田が喋らないことを願うしかない。改心したあいつを信じるしかない。もしこの力がバレてしまったら間違いなく刹那とはいられない。それだけは避けなければならないな。
そんなことを考えながら少し遅れて部活に向かうのであった。
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