74.さっさと帰ろう
刹那からは『もう部活終わったから、先に帰ってるね!』とスマホに連絡が入っていたので音楽室の方を見やると電気はついてなかった。
俺は荷物をまとめて教室に一緒に残っていた文化祭実行委員の白河沙月に声をかけた。
「ずいぶんと、遅くなってすまない」
「そんなことで、悪く思わないでもいいのにぃー」
と沙月はなぜかハイテンションだった。そうこの白河沙月という少女は話すのが疲れるほどのハイテンションぷりだった。とはいえ人としては好ましいほうではあるだろう。そんな彼女に苦笑いしながら、俺は確認するように再度真っ暗になってしまった窓を見て、
「ここから家は近いのか?よければ送っていくけど」
「何ぃ?まさか・・・・浮気!?」
と「私に惚れちゃいました!?」とでも言ってきそうな顔をしながらニヤニヤとしている。
「そういう事じゃない、女子が1人で遅くに帰るのは危険だからっていう意味だ。刹那を悲しませることは絶対にしない。最もお前にも彼氏がいたりしてめんどくさいことになりそうだったら別で帰るけど」
「なら、お言葉に甘えさせてもらうね。確かに少し不安なところはあるし。後、残念なことに彼氏いないんだよぉ。」
しくしくとでも効果音がつきそうな動作をわざとらしくやっている沙月に、
「だったらさっさと帰るぞ」
「少しは慰めてくれても」
「彼女持ちが慰めとか嫌味だろ。後はお前のペースに乗せられるのがムカつく」
「はあぁ!なんだとぉ!爆ぜろぉ!」と教室を出た俺に続いてガミガミと言葉をまくし立ててくるが、下駄箱まで無視を決め込むことにさせてもらった。
スマホを開くと刹那から連絡が入っており、『部活には来れなさそう?』『部活終わっちゃったから、今日は先に帰ってるね』といった内容だった。
刹那には、『部活にいけなくて、先に帰ってもらってごめん。少し遅くなりすぎたから実行委員の沙月を家に送ってから帰って来る』という連絡を送った。
するとすぐに既読がついてスタンプが1つ送られてきた。こちらをじいーっと見つめてくる茶色のくまのスタンプ。
ははっ、これは相当妬いていらっしゃる。と微笑ましくも思いながらも、
『他意はない。ちゃんと説明する。だからそっちもな』とだけ返信しておいた。
これまたすぐに既読がつき、今度はしょんぼりと体育座りをしたウサギのスタンプが送られてきて急な変わりようにぷっと少しだけ笑った後にスマホの画面を落として、靴に履き替えた。
そして帰り道、すっかり暗くなってしまった道を沙月と歩きながら、刹那のことを聞いてきていた。
「でさぁ~、ふゆ君はせっちゃんのどこが好きなの?」
なんでそんな事聞くんだよと思いながら隣を見ると街灯で照らされた顔を見るとニマニマしていやがった。
相変わらずムカつくやつではあったが、きっとこの明るくてあどけない少女らしい笑顔が学校でも人気なのだろう。刹那には及ばないけどな。
「誰がお前に教えるか」
「ぇえ!、少しぐらい教えてくれてもいいじゃん!けちぃ!」
と口を尖らせてふてくされてくるが、
「お前に話したら確実にネタにされるだろ」
という俺の発言に、またニヤニヤ顔に戻して、
「よく、わかってんじゃん。いやぁ、この話をせっちゃんに聞かせたときの顔を真っ赤に染めて恥ずかしがる顔が見たかったのになぁ」
まさかの横流し発言。言い渡さなくてよかった。刹那が恥ずかしい以前に俺が恥ずかしいからぜひともやめてほしいものだ。
「にしてもせっちゃんの言うとおり意外と優しい人なんだね。押しつけられた仕事とはいえ投げ出すことなく取り組むし、こうやって私を夜送ってくれる行動力もある。今までせっちゃんからの惚気話だけが情報源だったけど、流石部活で副部長を務めているだけはあるね」
「はぁ!?お前、俺がそういう役職になっているってこと最初から知ってたの?」
「知ってたよ」
「だったら、なんでさらっと責任者として認めたんだよ。仕事投げ出してたかもしれないんだぞ」
「だって、ふゆ君、刹那に見放されたじゃん」
「見放されたって言うの、やめてくれません?」
とんでもないことをさらっと言う沙月に過激な発言はお控えいただくようお願いする。ていうか見放されてない・・・・・よね・・・・?
平静を装っていながらも実は内心ビビりまくっていると、隣で不思議そうに、
「にしても、私はてっきり『永遠は渡さない!』ってヤキモキするせっちゃんを個人的に期待してたんだけどなぁ。なんで認めたんだろ。部活のこともあるのに・・・」
まぁ、そう思うのは仕方のないことだろう、吹奏楽部という立場やそもそも彼氏である永遠を彼女でもない沙月のもとに送り一緒に活動させるのはいまいちピンときていないのだろう。とはいえ・・・
「一応、なんとなくだけど、俺のために刹那がこういうことをしてくれてるんじゃないかなって思う」
と独り事のように呟く俺に、「何のために?」と不思議そうに首を傾けてくる。
「いや、詳しくは言えないんだけど、俺が今まで逃げてきたことと向き合うためかなって勝手に予想してる。まぁ詳しくは聞かないでくれ」
「まっ、そういうことならいいや。もしかしたら仲がやばかったから売られたのだと・・・」
安堵する沙月。
「そういった意味では売られてないから安心しろ」
「結局は売られているけど」と俺は付け足して苦笑いする。
その後も適当な話題で話ながら、沙月の家に送って俺は一人で家に帰った。幸いにも少し遠回りする程度で済んだので助かった。
沙月の家は普通の2階建ての一軒家だった。少しだけ気になったのは家には一切明かりがついていなかったことだ。真っ暗だったからかもしれないが、どことなく漂う雰囲気はとても寂しく冷たいものだった。
まあ、両親は仕事中なのだろう。俺は人気がない理由をそう心の中で結論付けた。
「せっちゃん・・か・・・・」
沙月が刹那のことを「せっちゃん」と呼んでいたことからかなり仲がいいのだなと思う。クラスでも多くの人と関わっているし。
それに対して俺は、刹那を除けば部活、その中でもトランペットの愛華と晴生くらいかなと思うとなんか寂しくなってきた。
早く帰ろ・・・・
なんだかすごく刹那に会いたくなった俺は歩くペースを速めることにした。
読んでいただきありがとうございます。
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