70.待ってるから
「永遠、両親は今どうしてるの?」
愛華からの問いに何も答えられない俺に疑問を感じている様子だが、質問を続けてくる。
今かぁ、もういないんだけどな。お母さんもお父さんも弟も両親どころか本当の家族はもう誰もいない。
いつまでも答えない俺に苛立ちを覚えてきたのか、下を向いている俺の髪を掴んで顔を上に向かせる。朝起きたばかりで見て以来だったが、その顔は一向に口を開かないことへの純粋な怒り・・・というわけでもなさそうだった。
「永遠、いつまでも黙ってないでいい加減に・・・」
「愛華、黙って」
俺の隣から発せられた怒りをはらんだ刹那の言葉に愛華の言葉は遮られた。俺の髪を掴む愛華の手をはたき落として立ち上がる。
俺の頭は放されたことで自由になったため俺は隣を見上げる。そこにはキッと愛華を鋭い目で睨みつけていた。
「なんで、刹那が突っかかってくるの、私は今永遠に聞いてるんだけど」
刹那ににらみ返す愛華。
バチバチと目線で見えない何かが激しくぶつかり合っている。互いに何も喋らず無言のままなのだが見ていてこちらが怖くなってくる。女子同士の喧嘩って色々とあるんだな。
なぜか刹那が介入してきたおかげで俺の頭はすっかり冷静になってしまった。さきほどまでの焦りや恐怖はどこかに消えてしまった。
「永遠はずっと苦しんできたの、そして今もまだ・・・それを踏みにじろうとするなんていくら愛華でも私は許さない」
怒っているはずなのにとても自分のことのように苦しそうで拳を固く握りしめている刹那。
「そうだね、私は刹那とは違って昔から関わりがあるわけじゃないから永遠が何を抱えていてどれだけ苦しんでいるかなんてさっぱりわからないわ。だけどそれをずっと1人で抱えるべきではないと思う」
「それができてたら永遠はこんなに苦しんでない」
「一回落ち着け」と先程まで傍観に徹していた晴生が2人の間に入る。
その介入にまだお互いに何か言いたげだったが、やり場のなくなってしまった感情をぶつけ先がないようで2人とも顔を背けてしまった。
そんな2人の様子に溜息をつきながら、晴生は俺に淡々とした口調で言った。
「なんで愛華と刹那はお前のことで言い合いになっているのにも関わらず当のお前が何もしないでどうするんだ?お前だってわかっているんだろう?こいつらの気持ちを、自分が何をするべきなのかを」
そんなことはわかってるよ、俺の中で一度冷まされた感情が再燃した。先程まで消えてしまったような感情も消えていたように感じたのではなく、刹那と愛華の口論に意識を飛ばすだけで考えないようにしていた・・・つまり、また俺は逃げるしかなかったのだ。
こんな自分・・ほんとにっ、嫌いだ・・・
「やることなんか、わかってるよ」
俺がそう溢した声に愛華も刹那も驚いた様子でこちらを見てくる。晴生はただ黙って俺を見つめている。
「なんで俺のことなんかで2人が喧嘩するんだよ。俺が乗り越えられてないのが一番いけないことなんて嫌というほどわかってんだよ」
自分が握っている拳に力が入る。
そう、悪いのは自分なのだ。未だに事故のことを乗り越えられずそれを引きずっていること、それを刹那や他の人に押しつけて自分は逃避しつづける、そんな甘えた自分がいけないのだと。
それなのに、俺が確実に悪いのに!・・・2人が喧嘩しているのは見ていて苦しかった。
そうか、言えばいいんだ。言えばこの場は解決できる。喧嘩は収まることだろう。
きっとあいつらは俺のことを想ってくる、ただそれを大切にされてるからだと俺が認識しなければそれでいい。
「そうだよ、俺のことを話せばいいんだろ!いいよ好きなだけ話してやるよ」
と半ばやけくそになって過去を語ろうとする。
「だめ!」
悲痛な叫びが俺が語ろうとしたのを妨げた。そしていつの間にか俺の拳は刹那の両手に包み込まれていた。
「やけくそになってまで、話さなくてもいい!ちゃんと気持ちの整理をつけてから話してよ・・・それで苦しむのは永遠だよ。私は・・・そんな辛い思いまでして・・・皆にわかってもらわなくてもいいから」
と涙を流しながら訴える刹那。
「私も刹那にその点だけは賛成。ずっと苦しんできたことを自分が傷つくやり方で話すのはやめてほしい。時がきたらでいい、そのときにちゃんと聞かせてほしい」
泣いている刹那の背中をさすりながら、「無理に聞き出そうとしてごめんね」と謝っている。刹那も「ううん、愛華は愛華なりに考えてくれてるのはわかってるから、私こそごめんね」と謝る刹那。
そこでパチンと乾いた音が部屋に響いた。
「じゃあ、とりあえずこの話は保留ということでいいな」
「「うん」」と頷く刹那と愛華。
相変わらずこいつらは優しすぎる・・・だけど・・・それでも今言わなくちゃいけないことがある。
俺は「ちょっと待って」と話を切り上げようとする晴生を止めた。
「核心的なことはまだ俺の覚悟が決まってないから言えないんだけど、これだけは言っておこうと思う」
皆が驚いた顔をしてこちらを見つめてくる。刹那は俺の拳を覆うのにさらに力が入っていくのを感じ、「大丈夫、今言えることだけだから」と刹那に優しく伝える。
「今のところ俺は、刹那の両親によって育てられている。高一の時から刹那の親は海外に出て行ってからそこからは刹那との2人暮らし。
そして付き合ってからも刹那の両親にも承諾を得た上で恋人として刹那との同居を許してもらっている。俺はそこまで色々と信頼してもらっているのにも関わらずそれらを無視して大切な刹那を傷つけるようなことは絶対にしない。今の俺でも少なくともこれだけは言える」
「今話せるのはこれだけでごめん」と最後に付け加えながら今伝えなければならないと思ったことを伝えた。
愛華と晴生は「「そうか」」と緊張の糸が緩まったように優しい微笑を浮かべて
「なら私達は勝手にそれを信じることにするわよ」
「それでいい、後このことは他言無用で頼む」
と一応釘を刺しておく。2人のことだから心配はしてないが。
「さて、刹那?彼氏に大切にされているということを言われた感想は?」
とさっきまでの表情とは一転ニタニタと笑みを浮かべてなぜか刹那をからかいだした。
「すごく・・・・嬉しい・・」
そしてそこには苦しさや辛さといった感情ではなく喜びと恥ずかしさが混じったように顔を真っ赤に染めながら目をあちこちとさまよわせる刹那がいたのであった。
今回も読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします!
永遠の悩みはまた今度ということで、
夏休み編は後3話で終わりにします。
次回は・・・
「カラオケだー!」
「はっ!?勉強はどこ行った?」
以下宣伝させていただきます。
新作を短編として出しました!ジャンルはローファンタジーです、たぶん内容的には。
ファンタジーと称しておきながら、日常と戦闘の比率は7:3です。
幼い少女(小学生低学年)黒華と刀哉のほのぼのとした日常を過ごしながら、戦いが入り混じる話となっています!
【短編】 戦いの時だけロリっ娘(マジの幼女)が武器に変化するのですが!?
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ぜひ読んでみてください。反応が良ければ連載してみようかなと思っています!




