55.そういえばまだしたことがない気がする・・・あーんって
店員が注文したパスタとピザを持ってきて机の上に置いてくれた。
机の上に置かれているのは俺が頼んだのは厚切りでこんがりと焼かれたベーコンやチーズがたっぷりとトッピングされた上に半熟卵がのったカルボナーラと刹那が頼んだツナと大根おろしの上に刻まれた海苔が散りばめられている和風パスタだ。
後は、ピザもあるということで、そちらも気になったためマルゲリータも1つ頼んでおいた。
店員が料理の確認を終えて「ごゆっくり」と言って立ち去っていくと静寂が訪れた。
原因なのは十中八九、さっきのが店員に見られたことだ。店の中でイチャついといて何を今更だと反論されるかもしれないが、周りの目を改めて意識させられると、俺達かなり恥ずかしいことやってたんだなぁと体温が熱くなるのを感じた。
まぁ楽しかったけど。
そしてそれは刹那も同じなようで、顔を両手で覆いながら首をフリフリしている。隠しきれてないところは赤く染まっているのが見える。
隠そうとしているのに隠しきれてない刹那がこれまたかわいい。と思わず見入ってしまう。
ずっと眺めていたいがこんなことをしていたらパスタが冷めて伸びてしまう。名残惜しいが食べなければ。
「刹那」
「はい!」
と変に高い声で慌てて返事を返された。
「そろそろ、落ち着いて食べない?」
「ちょっと待って、落ち着くから」
「うん、待つから」
すうー、はあーと店内で深呼吸する刹那。普通に考えて食べる前に深呼吸って何やってるんだ!て話なんだけどな。
「落ち着けた」
それで落ち着けるのな。
「じゃ、食べよっか」
「「いただきます」」
そうして、俺はフォークで半熟の卵を割り、かき混ぜる。全体が上手く混ぜ合わさったので口に入れる。
「おいしいな、これ」
と呟く。
「うん、私もこれ、あっさりしていて食べやすい」
と嬉しそうに刹那も答えてくれる。どうやら、ここを選んで正解だったようだ。
麺が太くてすごくモチモチしており、ソースとよく絡み合っている。これが生パスタというのだろうか。
家で乾燥パスタを水でしばらく浸けた後に茹でたなんちゃって生パスタとはレベルが違いすぎる。
気づけばお互いに半分ずつ食べてしまっていた。
お互いに顔を上げて、「あっ」と声を漏らした。
タイミングが合致しすぎて笑えてくる。
「ちょっと、なんで笑ってるの。ふふっ」
どうやら既に笑っていたようだ。
「ははっ、刹那だって」
と互いに声を潜めながら笑う。
「ピザもあったな、切り分けるからちょっと待ってな」
皿を手元に引き寄せて切り分けていく。生地は薄くてこんがり焼きましたといった感じだ。パスタがモチモチなのに対して一緒に食べることを想定されているかのようだ。さすがパスタ専門店を名乗るだけはある。
「はい、どうぞ」
と刹那に食べるように促し、手に取ったのだが、少し何かを考えるようにして「あっ!」とでも言ってそうな顔をして持っていたピザをこちらに向けてきた。
「はい!」
と腕を伸ばしながらニコニコ顔でこちらを見つめてくる。
なるほど、いわゆる「あーん」というやつだな。だが、甘いな刹那俺達は既に同棲しているといっても過言ではないのだぞ。
もう、そんなことはしたことがあるに決まって・・・・・?あれ?・・・したっけ?
と今までを振り返ったが俺は重要なことにようやく気づいた。
したことがないのだ。「あーん」を。一緒に寝たりはするのに、付き合って初めにやりそうなことを付き合い初めて約3ヶ月未だにやったことがなかったのだ。
と俺が超重大事実に驚愕していると、
「ほら、早く!・・・あーん」
と少し恥じらいながら声を小さくして言ってくるのだが、逆にその声が妙に艶っぽく聞こえてしまい。
俺の心臓が加速する。
思わず刹那の顔を見る、「早く食べてよ」と目で訴えているのがよくわかる。
目線の先にあるピザに注目する。しかし、目に入るのはピザではなくさっきまで触っていた白くて小さな刹那の手。
「は、はやく・・」
ともう羞恥心で限界を迎えてそうな刹那の声にハッとさせられ、俺は勢いに任せて食べた。
うん、なぜかおいしいはずなのに味を感じることはできなかった。だが、とてもおいしかった。
なにこの矛盾。
しかしこれが「あーん」というやつなのか。恥ずかしいが、いいぞ。
俺は皿の上のピザを手に取って刹那の方に向ける。
「ありがとう、刹那。はい、あーん」
と言って刹那の前に差し出す。そして自分の顔が熱いことを瞬時に自覚する。
これやる方もかなりくるんだな。と先程の刹那に共感を抱いてると、
「じゃあ、いただきます・・・んっ」
と恥ずかしそうにしながらも少しずつパクパクと食べ進めていく刹那。
なんかかわいいな。なんか保護欲が駆り立てられるんだが。
その後もパクパクと食べ進めていき、
最後にピザの耳付近が残ったので一口で食べられるようにと軽く折り曲げて食べさせた。
「!?」
のだが、自分の指に異変を感じ思わず手を引いてしまった。
指の先が少し温かい。ピザを持てる面積が小さくなってしまったために俺の指に刹那の唾液が付いてしまった。
なんだろう、すごくドクッ、ドクっと心臓が大きな音を立てているのが自分でもわかる。
俺は今猛烈に悩んでいた。思考をぐんぐんと加速させて今この状況を確認する。
どうするこれを拭くか?でも、ちょっと舐めてみたい変態な自分がいる。これが刹那以外だったら迷わず拭くのだが、刹那だからこそ迷う。
それを拭くということは刹那は汚いと伝わってしまうかもしれないし、かと言ってこれを舐めるのは俺が変態な人だと引かれるに違いない。
そして気づいた、どっちも正解じゃないことに。
どうしよう?と固まっていると、
「ごめんね、汚かったでしょ」
そう言って刹那が俺の指をおしぼりで拭いてくれる。
「はい、終わったよ」
「・・・」
刹那に綺麗に拭かれた指を見つめる。
なんだろ、やっぱり舐めてみたかった。とそんなことを思いながら刹那の顔を見上げるとニヤニヤとしながら、
「舐めてくれてもよかったんだよ」
とやけに色っぽい声言ってくる。
「そっ、そんなわけっ!・・ない・・たぶん」
と強く否定しようと思ったら否定できない自分がいた。
「じゃあ、続きだね、はい」
とまたピザを差し出す刹那に、
「まだ続けるの?」
「そうだよ!まだ、ピザもあるし、互いのパスタもあるからね!・・・・・それとも嫌だった?」
と最後いきなり本当に寂しそうに甘えた声にドキッとして、
「嫌じゃない!・・・けど恥ずかしくない?」
さっきまで1回あーんをするだけでも恥ずかしさでかなり参っていたから問いかけたのだが、
「よし!じゃあやるよ!はい、あーん」
と無視され互いにあーんを再開した。
まぁ、楽しかった。
今回も読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします!
「なんでこんな店の中であーんなんてやってるのよ!しかもめちゃくちゃ反応が初っぽいんですけど!」
「さっきから羨ましがってないで、さっさと食べたら?麺伸びるぞ?」




