51.はよ行けお前ら
ふっ、甘いな刹那。これから何が起こるかもしらないで。
と俺はこれから見れるであろう刹那の慌てふためく姿を想像して内心ほくそ笑んでいた。
俺は刹那の手に指を交互に絡ませながらそっと刹那を引き寄せる。俗に言う恋人つなぎってやつだ。
刹那は「ふぇ!?」と驚いて気の抜けた声を出していた。
ちなみにこれは晴生からのアドバイスである。初め聞いたときは恥ずかしいと思ったが、
急激に刹那との距離感が近づいて今まで以上に恥ずかしく体が熱くなるのがわかるが、それ以上に刹那の温もりや柔らかさを感じることができた。
いいなぁこれ。とそんな感想を抱きつつも、
これで、照れるかわいい刹那が見られるぞ!さぁ、どうだ!
俺はできるだけ平静を装いながら、隣を見ようとすると、
瞬間、腕にやわらかいモノが当たる感触があった。隣に目をやると、腕に組み着いてきた刹那の顔が一気に近くに迫っていた。
俺の血液が沸騰しているんじゃないかってぐらいさらに熱くなって、羞恥心に溢れてしまう。
俺が先に仕掛けたはずなのに、予想外の行動で返されたじろいでしまう。
だってしょうがないだろう!腕には刹那のが当たっているし、絡む腕もなんかやわらかくて夏場で暑いんだけど、なんか別の意味で熱くてしょうがない。
「せっ、刹那!?・・・これは・・・・いったい?」
「・・・」
無言になってしまった刹那。どうやら勢いでやってみたはいいものの恥ずかしすぎてショート仕掛けているらしい。
俺はとりあえず刹那を落ち着かせるために、空いている左手で刹那の頭を撫でる。
「大丈夫か?刹那?」
そこで刹那はようやく現実に戻ってきてくれた。
「なんか、勢いでやってみたはいいけど、永遠が永遠だなぁって」
と何かよくわからないことを言っている。なんだよ!『永遠が永遠だなぁ』って!どうやら頭はまだやられているようだ。
とりあえず、俺は名残惜しくはあるが、組み着いて固まったままの刹那を引き離し、つなぎ方も普通に戻した。
「刹那、いきなりつなぎ方変えたりしてごめんな。どうやら俺達には慣れてなさ過ぎるみたいだし、今回は普通にいかないか?」
「ううん、私の方こそ・・・なんかちょっと張り切りすぎたみたい。私達には私達のペースで行かなきゃね」
「そうだな。そろそろ電車も来るし行きますか」
と自然と互いに手が出て手を握る・・・・
のだが、刹那の指が俺の手に絡んできた。刹那からの恋人つなぎだ。
さっきまで仕掛けた俺が同じことをされてめちゃくちゃドキドキした。
「刹那、大丈夫なのか?」
とあくまで落ち着かせたふりをして刹那に確認する。
「うん、大丈夫。さっきよりかはあれだけど、いつものつなぎ方よりこっちのほうがいいな・・・・いい?」
と上目遣いでお願いしてくる。そんな顔でお願いされたらそうするしかないでしょ!
「わかった」とだけ返事をした後、移動をして、ホームに向かう。
初めはなかなか歩きづらかったが、すぐに歩き方に関しては慣れてしまった。
お互いの肩が触れ、腕だけではあるが、女の子特有?のやわらかさと、刹那の温かさが伝わってくる。
「あぁ、刹那が刹那だ」と思わず考えてしまった。どうやら俺も人のことは言えなかったようだ。
とはいえ恥ずかしすぎて、互いに顔を合わせられず、そっぽを向いてしまっていたが。
ホームで待機していると、電車がやってきたのでそれに乗り込んだ。
夏休みではあったものの、真っ昼間ということで客は満員ということはなかったので互いに席に着く余裕はあった。
電車のドアが閉まり、ゆっくりと動き出し俺の住む町から離れようとしている。
そうやって遠ざかっていく町をただ無言のまま車窓から眺める。
そうしていると、向かい側に座っている刹那に話し掛けられる。
「なんか、こうやって町を離れるのって久し振りだね」
「学校関連を除けばそうだな。とは言っても隣町に行くだけなんだけどな」
「そうなんだけど、私的な用事で隣町に行くことすらあまりなかったからね」
「だな」
俺達の乗る電車がガタンゴトンと進んでいく。あっという間に俺達の住む町は遠くに過ぎ去ってしまった。
「ねぇ」
とどこか寂しそうな声音でポツリと零す刹那。
「どうした?」
「なんかちょっとだけ寂しいなって、いつかはこうやって離れるときが来るんだなって思っちゃって」
「そうだろうな、いつかはやってくる。だけど、ここで過ごした時間は消えないし、ここが俺達の故郷だというのには変わりはない。
それに・・・どんなことがあったとしても刹那とは離れない。もしかしたら物理的な距離はできるかもしれないが、
心の距離は0のままでいよう」
そっと、刹那の両手握る。
刹那は、はにかみながら、
「そうだね、ありがとう永遠。これからもずっと一緒だよ!」
と俺に伝えてくれるのであった。
今回も読んでいただきありがとうございます。
「にしてもあいつら、駅構内だっていうのにイチャつきやがって・・・・なぁ?」
「そうね、もっと場所をわきまえてくれないと。とりあえず爆ぜてほしいわ」




