43.優
時は8月前半、気づけばコンクールは終わり、先輩達は引退し2年生と1年生の新体制による部活となった。
結果に関してはまあそういうことだ。金賞ではあったがそこで終わった。
俺も今までお世話になった、特に同じパートの先輩方には感謝を告げた。なぜか途中で刹那に関する話題に切り替えられたが。
新たな体制となった今、刹那が部長となったのだがなかなか苦戦中である。なかなか足並みが揃わず、方向性がバラバラでまとまりがない。練習もどこか抜けたところがあったりしてそれが音にも現れている。
それでもなんとか部活を回していって今日はお盆休み前最後の部活を終えた日の夜である。
「はぁー」
と深い溜息をつく刹那。俺の隣でソファーに座り込んでいる。
どうやら部活を上手く回せていないことに悩んでいるようだ。
俺は何を言えば良いのだろうか?幹部でもない俺には部活を背負う気持ちには寄り添えない。生半可な気持ちでは首を突っ込めない。
と俺が何も言えずにただ座っていると、
「ごめんね、永遠。ずっと溜息ついてばかりで」
「ううん、大丈夫。部活のこと?」
「うん、そう。私がちゃんとしていないから・・・」
とまた下を向く刹那。
ううん、確かに刹那の仕切りはまだ頼りないし部長として至らない点もたくさんあるのは俺からも見てわかる。
だが、それ以上にこちら側に問題があるだろう。完全に刹那や幹部任せな態度がある。またコンクールという1つの大きい山が終わり気を緩めすぎる人もいるだろう。
かくいう俺も少し気が抜けてしまっている。本当にごめんなさい。
「先輩達がこれまで作ってきた部活なのに、私じゃあ、みんなを引っ張っていけない・・・」
と自分を責め続ける。声は弱々しく肩を震わせている。
俺はほんとに最低だな。
人がこんなにも悩み苦しんでるのに、ましてその人が一番大切な人であるのにも関わらずだ。
決めたじゃないか、守るって。なのに俺は安全地帯で何をしているんだ。
部員の一人として部長を、彼氏として刹那を支えなければならないんじゃないのか。
「刹那」
刹那が顔をはっとこちらに向ける。その瞳には涙が溜まっており、
見ているだけで胸が締め付けられて苦しくなる、そんな表情だった。
刹那に歩ませるばかりじゃない、俺が前に歩まなければ。
「刹那にばかり部活を押しつけてごめん。部活が上手くやれてないのは主に俺達部員の方が悪い」
目を見て伝える。
「そ、そんなことない!私が悪いの。皆は悪くないよ・・・」
と皆を否定しない刹那。
「確かに刹那や他の幹部にもリーダーとして至らない部分が多くあるのかもしれない。そしてその至らない部分が何なのか俺にはわからないし、力になれなくて本当にごめん」
「そ、そんなの永遠が謝ることじゃ・」
と続く言葉を遮り、
「謝ることだよ。だって部長をこんなにも困らせているのは俺達部員が主な原因なのだから。コンクールが終わって、先輩も引退して確かに気が抜けちゃうのは悪いことだとは思わないし、仕方ないとは思う。ずっと気を張り詰めすぎるのも良くないしね。だけど、部活が新体制になって自分たちが作っていかなきゃならないのにも関わらずそれらを部長や幹部に投げやりしてる。そんな怠慢な態度ではいけないんだ、部活は皆で作り上げていくものだから」
「でも・・・」
と下を向き、まだ何か言いたげなことがありそうな刹那。
さっきよりも震えが逆に加速している気がする。
下を向いているために完全にはわからないが、心のどこかでまだずっと自分を責めてる、そんな表情だった。
刹那のその異常なほどまでの他人への優しさはよくもわるくも優しすぎた。
その優しさに多くは俺も他の皆も救われてきたのは違いないが、だが、自分が悪いと押し込めて周りの状況を歪めて捉えてしまう・・・・それはおそらく、
「刹那」
と言い俺は刹那の肩に手を回しそっと引き寄せる。
「友達を否定するのが怖いか?」
「!?」
刹那が目を丸くてこちらを見つめてくる。
「今回のは、明らかに部員側が悪い。それを刹那だってわかっているはずなんだ。そうだろ?」
「・・・そ、そんなことは」
少し間が空いて否定しようとする。
「刹那は優しい。誰にでもすごく優しい。
自分を傷つけてまで他人を守れるその温かさに俺は何度も救われて、
そんな刹那のことが俺は好きだ。
だけど、その人の悪かったり、明らかに違っていることまで庇うのはその人への優しさにはならない」
「・・・」
「人にダメなことをダメだとちゃんと伝えられるのもまた立派な優しさだ。でもこれはかなりの勇気がいることだ。相手は傷つけるかもしれないし、言っている自分も苦しい。仲違いになってしまうかもしれない。相手が自分のことを嫌いになるかもしれない。それでも自他ともに良いところ悪いところを認め合っていかなければならないと俺は思う」
「うん」
首をコクりと動かす刹那。
「それでもやっぱり怖いものは怖い。そのときはちゃんと今度こそ刹那を俺が支えるから。理不尽に刹那にひどいことを言わせない。もちろんそれは俺だけじゃない、他の皆だってそうだ。皆が刹那を支えてくれる。刹那1人じゃない」
あれ?なんか話がずれてきたような?
とも思いつつも、
「とにかくだ、ちゃんと良い所も悪い所も認められるのが優しさなんだと俺は思う。だからちゃんと皆で部活のことを考えよう」
とよくわからないことを何もしてこなかった癖して言ってしまい、思わず恥ずかしくなる。
「ふふっ、ありがとう、永遠」
と言って抱き締められる・・・えっ?となんでと思っていると、
「さっき永遠も言ってたでしょ。人のダメなところをちゃんと伝えるのはすごく怖くて勇気のいることだって。」
背中に手を回されて、刹那の顔は俺の右肩の上にある。
「永遠が勇気を出してちゃんと私に伝えてくれたから。永遠の体すごく震えてたよ。だからありがとう。って」
まじか、気づかなかった。刹那が震えているのはけっこう気づけるのだが、自分で言ってる癖して自分もそうなっていたとは。
しばらく刹那に抱き締められて、震えが止まり一旦体を離す。
「私、ちゃんと目を逸らさずに考えてみるね。ちゃんと皆で」
「うん、俺もちゃんと1部員として協力するよ」
「ふふ、ありがとう」
と俺達は微笑み合った。そこには霧の晴れたすごく爽やかな笑顔だった。
「なんか、少し落ち着いたら眠たくなってきちゃった」
と言い、俺の肩に頭を乗せて目を閉じる。
「ちょっとだけだぞ」
「うん、ちょっとだけ・・・・」
ここでは寝てほしくはなかったが、このまま寝かせることにした。
きっと疲れが溜まっていたのだろう。その負担を少しは降ろさせることはできた・・・とは思う。
俺は起こさないようにそっと頭を撫でながら、
「おやすみ」
と1人囁くのだった。
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もしかしたら夏休みの話が一番長くなるかもしれない・・・・




