38.刹那に甘えてしまった
やがてクラリネットパートの話も終わり、その男子や他の皆も帰り、部室にいるのは俺と刹那だけになった。
「ごめん、待たせちゃったね」
「別にいいよ、そっちは楽しそうに話してたし」
とぶっきらぼうに言ってしまった。
そうじゃないだろ!なんで刹那に当たってるんだ!?
と俺が自分の行動を悔やんでいると、
「ふふっ」
刹那が急に笑い出し、ニヤニヤと見つめてくる。
「永遠、優夜くんに嫉妬してるでしょ」
「んなことない!」
と慌てて否定する。
ちなみにさっき、刹那と話してた男子の名前は黒田 優夜。1年生のクラリネット。
刹那の後輩だ。
「またまたぁ~、顔真っ赤だよ。永遠」
小悪魔な笑みを浮かべ、頬をつんつんしてくる。
「違う!」
真っ赤なのは、わかってるよ!だって嫉妬してましたから!
だけど、こんな醜くいものを刹那にさらけ出したくはなかった。俺の勝手な欲望で刹那を傷つけたくはない。
いや、そんなものは建前だ。
ほんとはこれを言って刹那に嫌われたくないだけだ。そう全部自己防衛にすぎない。
そんな自分がどうしようもなく情けなくて唇を噛む力が思わず入ってしまう。
「もう、しょうがないな。永遠は」
子供をあやすかのように言って、俺の背中に手を回し、顔を俺の肩に乗せる。
ふわりとした甘い匂いが鼻を刺激する。
刹那の体は柔らかくて、自分の胸に2つのやわらかいものがそっと当たる。
「私は嬉しいな、永遠が嫉妬してくれて。・・・・永遠は私のこと大好きなんだなって」
と耳元でささやく。
急なささやきに肩がビクッとする。鼓動がバクバクする。顔も熱くなっているのがわかる。
刹那の甘い声と共に耳にかかる吐息がくすぐったい。
「ふふ、ドキドキしてるね、永遠。心臓の音こっちまで伝わってくるよ。
・・・そうやって恥ずかしがる永遠も、
・・・ついつい嫉妬しちゃう永遠も、私は大好きだよ。
だから、自分を責めないの」
とささやかれ、刹那に髪を撫でられる。自分が幼稚園児に戻ったかのような気分になった。
髪に絡ませてくる刹那の指は細くて、少しくすぐったいけれども、すごく安心する。
俺はしばらく、刹那の腕の中で刹那に甘え続けた。
「ありがとう、刹那。もう大丈夫」
「そう、よかった」
と言う刹那。俺はもう落ち着けたから離してもいい、という意味を込めたのだが、刹那は俺を抱き締めたまま離してくれない。
「あのぉ、恥ずかしくて死にそうなんですが」
と恥ずかしさで声が震えそうなのをこらえながら訴えるが、
「い~や」
と一蹴される。
えっ!?と混乱し何を言おうか迷っていると、刹那が思ってもみなかったことを言い出した。
「甘える永遠がかわいいからいけないんだよ」
「なっ!かっかわいい!?」
俺が・・・かわいい!?
「うん、さっきまで私によしよしされる永遠はかわいかったなぁ。私にべっとりしてきて・・・」
「やっ、やめてー」
先程のことを思い出して、恥ずかしい。
うっ、いますぐ穴に引きこもりたい。
刹那のあふれ出る母性に、すごく安心して抗えず、甘えてしまった。うわぁあ・・・・
「これで、形勢逆転だね」
「なんの?」
「前に永遠に甘えさせられたから、その仕返し」
と明るい声でしてやったぞとでも言わんばかりの満足げで言う刹那。
だが、俺もやられぱなっしではいられないので反撃する。
「こっ、こんなの今回だけだ!刹那の方こそまた嫉妬しないでくれよ。うちの部活はほぼ女子だからな」
どうだ!これなら、先日のことを思い出し、これからのことを思い動揺するだろう。
と思っていたのだが、
「大丈夫!そのときはまた永遠にたっくさん甘えて、甘えさせてもらうから!」
とまさかの予想の斜め上をいく答え。
逆に俺が意識してしまった。
体をもじもじさせながら、寂しいと目を潤わせながら上目遣いで甘えてくる刹那の姿が・・・・
はっ!何を考えているんだ俺は!
「まっ参りました・・・」
「ふふっ、じゃあ帰ろっか!」
屈託のない笑顔を浮かべる刹那。
そんな刹那の笑顔につられ、俺も自然と笑顔になる。とはいえ恥ずかしさはまだ残っているが。
まぁ刹那がこうして笑ってくれてるならなによりだろう。
こうして、俺達は既に真っ暗になってしまった道を歩くのだった。
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甘やかされたい・・・




