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37.俺も人のことは言えねえ

 あれから刹那と手を繋ぎながら学校に登校し始めて1週間ほど立った。

質問攻めはなくなり、クラスも部活でもいつもの日々が戻った。

とはいえ女子からは暖かな視線が、一部男子から羨ましいと鋭い目線が来ているが、なんか慣れ始めてしまった自分がいて慣れってこわいなぁとのんきにもそんなことを思った。


ていうか、そんな視線なんかどうでもいい。

登校中でも大好きな刹那と一緒にいられて、触れることができて、温もりを感じられる。

それに時々体を寄せてきて甘えてくる刹那は、まるで独りで寂しがっている子猫みたいでかわいくてドキドキする。


 そして、今日は土曜日で部活の真っ最中である。

今日はパート練で楽器のパート毎に各教室に分かれて練習している。


ちなみに、ちゃんと部活ではけじめをつけて真剣に練習に取り組んでいる。

流石に俺達のせいで迷惑するのは嫌だし、こういうことにはちゃんと取り組みたい。


これから、練習するのは夏のコンクールに向けた課題曲と自由曲だ。

既に5月中旬で、取り組みが完全に遅い。今年は部活が中止になってしまうことが多すぎたとはいえこれは来年の反省だな。


そして、ブレストレーニング等を済ませた後、楽器をケースから取り出す。


最初は音出しや基本練習、その後個人練習。

そしてパートで合わせる時間を予定し、そこまでには軽く吹けるようにする。


ちなみに、俺は基本練習をじっくりとやるタイプだ。

気づけば、他の皆は既に曲練習に入っており、輝かしいファンファーレが鳴り響く。


 俺はこのパートの中で一番下手くそなのを確信している。

まぁ、色々と問題はたくさんあるのだが、最大の問題は音色だろう。


他の皆の音はキラキラと明るく、澄み渡った音がする。個人差があるが、それぞれの個性が出た、音色、演奏。


なのに、俺の音は暗く、沈み込んでいく。トランペットらしくない音だ。だから、こうやって基礎を大事にしているのだが、直すのは難しい。

「あっ、やばい」

時間を見るとパートで合わせる時間が迫っていたので、曲の練習に切り替えた。




 「ふぅ、疲れた~、永遠、お疲れ」

「あぁ、お疲れ晴生」

「永遠、今日もお疲れ~、刹那待ち?」

「そう。お疲れ愛華」

と部室に戻ってきて楽器ケースを片付けた晴生と愛華がやって来る。


「相変わらずイチャイチャしやがって、なんか最近胸焼けがひどいわ」

「そうだよなぁ、あそこまで見せつけられると、なんか俺も彼女が欲しくなるな」

とニヤニヤする2人。


恥ずかしくなるから、からかうのもやめてほしいものだ。視線には慣れてきたとはいえその事実を口に出されるとまだまだ恥ずかしい。


「まぁいいわ、クラリネットはまだ教室で練習してたからもうちょいかかるかもね」

と愛華がわざわざ教えてくれる。


「了解、気長に待つよ」

「んじゃあ、先帰るわ、またな」

「私も、じゃあね」

「うん、お疲れ」

そう言って部室から立ち去る2人。俺はただ1人残された部室でクラリネットパート、もとい刹那の帰りを待った。


そして5分後、廊下の方から話し声が聞こえてきた。 

やっと帰ってきたかと思い、顔を上げると、刹那は後輩の男子と楽しそうに話していた。


俺はその光景に釘付けになってしまった。

なんだろう、後輩と話しているだけのはずなのに胸がチクりとする。なんらいつもと変わらない日々だというのにも関わらずだ。


黒くてドロドロとしたものが俺の中で渦巻く。そしてそれが今にも俺の中からあふれ出ようとしている。

だけど俺は必死にそれが出ないように抑えた。その度に胸が苦しくなっていくのがもっと辛かった。


ハハっと俺の口から乾いた声がこぼれた。その声は楽しそうに話している刹那達には聞こえていないようで安心して、呟く。


「俺も刹那のことは言えねえなぁ」


刹那には見せたくない、醜いもの。だけどわかってもらいたい。

これが嫉妬だと気づくのに時間はかからなかった。

今回も読んでいただきありがとうございます!

新たにブックマーク登録ありがとうございます!

面白い?続きが気になるかも?と思ってくれた方はぜひブックマーク、評価よろしくお願いします!

今後もお楽しみに!


~今度は永遠のターン、刹那が攻めます?

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