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32.永遠への想い

 「いつからそこに?」

「ええと、『あなたを引き取るのを1番に望んでいたのは刹那だったのは覚えてる?』のあたりからかな」


照れくさそうにそう言って、ソファーに座る俺の隣に腰掛ける。


先程のお義母さんの言っていた俺を受け入れるために刹那が両親に言ったお願いの言葉が何度も繰り返されて脳裏に焼き付けられている。


自分がこんなにも愛されていることがなによりも嬉しくて、だけどそれ以上に胸が苦しくて辛くて潰れてしまいそうだった。俺が一番悪かったのにも関わらず刹那に甘えてボロボロに傷つけた自分への怒りが、もう色々な感情がぐちゃぐちゃにかき混ざってしまった。


俺はいきなり刹那を抱き締めた。まるで、子供が悪いことをして怒られた後に許してもらおうとするかのように・・・・


「刹那、ごめん。ごめん・・ごめんなさい・・」


俺は涙を流して嗚咽混じりで謝り続けた。刹那は何も言わず抱き締め返してくれる。


「こんな俺をあんなにも想っていて引き取ってくれて、助けようとしてくれていたのに、俺はそんなことにも気づけなくて、踏みにじって・・刹那を傷つけた・・俺は最低だよ・・・ごめん」


俺は刹那への申し訳なさと自分の不甲斐なさに怒りを覚えて仕方なかった。

後悔で押しつぶされそうだった。

そしてそんな最悪なことを刹那にしてしまったのにも関わらず刹那に許しを得ようとしている自分が本当に嫌だった。


しかし、次の瞬間、俺の顔は刹那によって刹那の胸の中にあった。そして、

「いいよ」


優しく、そして泣いている赤子を慰めるように言いながら、俺の頭を優しく撫でる。


「いいっ・・・の?」

なんとか、声に出して問い返す。


「うん、いいよ。だって永遠のことが私は大好きだから」

きれいで優しい声音で、


「こんな人の気持ちがわからないようなやつだぞ」

そんな誰よりも優しくて大好きな刹那を・・・俺は・・


「ううん、そんなことないよ。永遠は誰よりも優しくて、人の気持ちをわかってくれる。

そんな永遠に私はいっぱい助けられた、いっぱい元気にしてくれた。いっぱい幸せにしてくれた。

私は永遠と一緒にいられて幸せだよ。だからありがとう、永遠」


怒るわけでも、謝るわけでもない、純粋な感謝と好きの気持ち。


それが何よりも温かくて、嬉しくて胸に染みて傷ついた心のひびがなくなっていくのを感じる。

そしてますます刹那のことが愛らしくなる。


もうわけがわからなかった。自分への怒りや刹那への想いがぐちゃぐちゃに入り混じり、俺はただ頭を撫でられながら刹那の胸に顔を埋めて泣き散らすことしかできなかった。

刹那はそんな俺をずっと抱き締めてくれていた。


途中、俺の首も何かに濡れているのが伝わり、刹那も泣いてくれているのがわかった。


ありがとう、刹那。刹那と出会えて、一緒にいられて俺はすごく幸せだよ。必ず俺が刹那を守るよ。



 俺達は涙が枯れるまで泣き尽くして、お互いの顔を見ると、

「目、真っ赤っかだぞ」

「そっちもじゃん」

と笑い合った。











 あれから、俺はお風呂に入り、出たあとはもう夜遅くだったので、夕ご飯は今回は無しにして寝ることにした。


お互いちゃんと自室に戻り、俺はベッドで寝っ転がっていたのだが、

「永遠?」

とドアを開けて入ってくる刹那。俺は起き上がり、ベッドに座り直す。


「どうした?」

「えーと、その、私達恋人になったじゃん・・・だから・・・」

「だから?」

「?どうしたんだ?」


いきなり部屋に入ってきたのに、なんだかずっともじもじさせている。

俺に何か気づいて欲しいようなのだが、俺は何に気づけばいいのかわからない。

てか、恥ずかしそうにもじもじさせる刹那がかわいいんだが。


と刹那の姿に見惚れていたら、気づけばすぐ近くまで来ていて、俺の前で床に座っては上目遣いでこっちを見てきて


「もうなんで、気づいてくれないかな・・・一緒に寝よ」

そんなぶっ飛んだ提案に鼓動が加速するのがわかった。


「えっ!そんな付き合って初日からいきなり?もっとこうなんか段階を踏んでからじゃなくて?」

そうだ、こういうのは順序があるのだろう。それを吹っ飛ばしていいのか?


「段階も何も私達既に一緒に住んでるんだから、関係ないでしょ」

「確かに」


と真っ赤にしながらも恥ずかしさを誤魔化すためか少し語気を強めて俺の考えを一蹴する刹那。

そして納得してしまう、俺。だって既に同棲してるもんな。


「でも、いいのか?俺だって男だぞ、刹那はかわいいしそんな女の子と一緒に寝て理性が飛んだら、何をしでかすかわからないんだぞ。お前を傷つけるかもしれない」


俺だって一緒に寝たい。

大好きな刹那ともっと長く近くいたい。だけどそんな欲望で刹那を傷つけたくない。


「大丈夫だよ。永遠を信じてるから。それに、もしそうなっちゃたとしても大好きな永遠からだったら受け入れるよ。それでもだめ?」

刹那が顔をさらに近づけてくる。


「でも・・・」

「私、永遠への気持ちをずっと隠してきて、迷惑になるかなってたくさん我慢した。だけどその度に胸が苦しかった。張り裂けそうだった。我慢できないでちょっと泣いたときもあった。

両想いだってわかったから、もうこんな苦しい思いはしたくないよ。永遠ともっとすごしたいよ」


甘く、弱々しい声で目を潤ませながら言ってくる。


刹那はずっと自分の気持ちを迷惑になるだろうと隠してきたのだ。

まぁ、それは俺も同じなのだが、刹那は俺を家族に向かい入れた責任がある。それもあって余計に自分の気持ちを押し殺してきたのだろう。俺はいつもそんな刹那の優しさに甘えてばかりだな。


「いいよ」

「いいの?」

「俺も刹那ともっと一緒にいたいから」

「ありがとう!」


とさっきの顔から一転少女のように晴れやかな笑顔になる。

かわいい。そう、刹那にはやっぱり笑顔が一番だよ。


俺達は電気を消して、ベッドに横になる。とはいえもともとは一人用なので、俺は刹那がちゃんと寝られるように間を空けているため、少しはみ出している。


ちなみに背中合わせだ。なぜかって?恥ずかしいからに決まってるであろう!

振り向いたらかわいい美少女の顔がすぐ近くにあるんだぞ!ドキドキに決まってる。


しかし、刹那は不満だったみたいで、


「永遠~なんでこっち向いてくれないのー」

「むっむり、恥ずかしいよ。てか刹那は平気なのか?」

「なわけないじゃん。でも永遠ともっといたいから」

「なっ!」


急に甘い声に変わったことに思わず肩をびくっとさせてしまう。


「あれ、照れてるのかな?」

「てっ、照れてないし」

「動揺しすぎ、じゃあこうしよっかな」


と言って刹那は背中をくっつけてきた。

「な、何を!?」

「ふふっあたたかいなぁ。永遠は」

と嬉しそうな声を出す。


「だから、離れろって」

「いやだ~」


やめるよう促すのだが全く意味を成さず、小学校低学年のような幼い声で言ってくる。


「刹那!」

「・・・すぅー~」

「寝るの早!」


あれから何度か声を軽く掛けても起きることはなかった。


やばいやばい、どうするんだ俺。


刹那の寝息が音を立てるのと同時に背中が膨らんだりへこんだりするのが伝わってくる。

離れようにも、これ以上俺が動くと自分がベッドから落ちてしまうし、かといって、刹那を動かすと、起こしてしまうので、それは気が引ける。


ええい、冬海永遠!男だろう!・・・・と自分を叱責する。

そして俺は諦めて寝ることにして目を閉じるのだが、


「寝られるわけがねぇ」

とぼやきながら、刹那の寝息と背中で俺の鼓動はバクバクと音を立て続けるのであった。

今回も読んでいただきありがとうございます。

新たにブックマーク登録ありがとうございます!

今後もよろしくお願いします!


自分が相手のことを傷つけてしまったとしても相手が気持ちとともに全て受け止めて許してくれる・・・そんな甘い世界がいったいどこにあるのだろうか・・・


いいなぁ・・・

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