22.一緒に
そして、夜。刹那お手製のハンバーグを堪能し、風呂に入って自室に戻った。
いやぁほっぺたが落ちそうなぐらいだったなぁ。とハンバーグの余韻に浸る。
「・・・さて」
俺は一息ついて、思考を切り替える。さっきの会話を振り返る。
危なかった、なんとかごまかせただろうか。
そう、俺のこの能力にはきちんとデメリットは存在する。
他人の傷を治すにはその人が経験した痛みをほんの数秒に圧縮されたものを追体験しなければならないのだ。
そこで感じる苦痛は死すら生ぬるいと思うほどである。実際は怪我の程度と時間によるんだが、重傷でも軽傷にしろ俺が治すためには何倍ものの圧縮されたものを味わなければいけない。
優しすぎる刹那にこのことを伝えればきっと、自分を猛烈に責めて自分を押しつぶしてしまうに違いないから。
だから伝えなかったんだが相変わらず刹那は優しすぎるし、なにより勘が鋭い。
しかし刹那にこのことは知られてはならない。刹那が笑ってくれるならそれでいい。
その結果俺が苦しむことになったとしても。
翌朝、俺は刹那に今日は休んだほうがいいと言うのに対して、刹那は大丈夫と気丈に振る舞っていたが、家から出ると昨日のことを強く意識し出したのか、足が止まってしまっていた。
「っはあ、はあぁ・・・」
呼吸も荒い、足だけでなく体全体も生まれたての子羊のように震えている。
「刹那、無理をするな。今日は大人しく休もう。俺も側にいるから」
と刹那のもとに駆け寄って言う。
「・・・大丈夫・・・動けるから・・・・あっ」
と言って足を前に動かそうとするが、上手く前に出せなかった。
それどころか体勢を崩し前に倒れそうになる。
なんとか間に合い無事刹那を抱きかかえる。
「ほら、そこまで無理してまで行く必要はないよ。ちなみにさっきから能力を使っているけど、回復してないし、いくら体は治せても心の傷までは治せないよ。」
「なっ?そう簡単に使っちゃだめって言ったでしょ!」
「す、すまない。でも俺は苦しい思いまでして学校に行って欲しくはない」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「だめなの!」
刹那が声を張り上げる。
「昨日みたいに永遠に私ばかり助けられるのは!永遠に守られているだけの私が嫌なの!」
そんなことはない。
いつも俺の方が刹那に助けられてばかりだ。俺ができることは何かないのかと考える。
「でもやっぱり私のわがままだよね。ちゃんとわかってるんだ、あの人に会うのがただただ怖い。
また何かしてくるんじゃないかって」
俺にできそうなこと・・・・見つけた。
「今日はやっぱり・・・」
俺は震える刹那の左手を優しくだけど強くぎゅっと握る。
「へっ?」
刹那は驚きの顔をしているがそこは無視する。
「わかった。そこまで思ってくれているのなら刹那がやりたいことをしよう。俺も協力するよ、俺がこうやって手を握っているから」
「・・・うん」
刹那は立ち上がり、俺の手を強く握る。俺もしっかりと握り返す。
1歩ずつ小さくはあるが、ゆっくりと確実に前に進む。
家の敷地外まで後3歩・・・2歩・・1歩・
外に出れた。
「がんばったな」
そう言い俺は空いている左手で刹那の頭を撫でる。
「!?」
刹那は顔を赤くはしているが、なんか嬉しそうだ。
「まだ、行けるか?」
「うん、大丈夫。永遠がいてくれるから」
「っ!おう。・・・・ゆっくりでいいからな。無茶はするなよ」
「・・・ありがとう」
こうして俺達はゆっくりと学校へ向かっていった。
だがしかし、今の俺は尋常じゃないほど焦っていた。
勢いで手を繋いでしまったし、先程の刹那の言葉で鼓動がどっと跳ね上がった。
やばいドキドキがとまらない。
刹那の方を見る。顔はまだ赤いが真剣な顔をしている。恐怖と必死に闘っているようだ。
流石にその邪魔はできないな。握っている手を優しくそれでもぎゅっと握ってあげる。
後は、己の闘いである。いつまで平然としていられるか。頼む!学校まで持ってくれ。
今回も読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします!
永遠の能力を箇条書きにてまとめます。
・自他ともに外的損傷を修復することができる。
・他人の怪我の場合は他人が負った怪我を自分に移すことで修復する。
・そのため、他人の怪我を圧縮された形で痛みを経験しなければならない。
・経験する圧縮された痛みは当人の怪我の具合と経過時間によるが、感じる痛みはほんの一瞬と はいえ当人が経験したものより何十倍にもなる。
・他人の怪我を修復したときのみ、修復した怪我具合で自己の身体能力等が向上する。
ひとまずはこんな感じの認識です。




