12.かわいすぎてマジ天使
あの後、俺も親子も理解できずただ呆然として固まっていたが、しばらくすると自転車の練習を再開し、無事乗れるようになって帰って行った。
俺は先の急に襲ってきた痛みの感覚と、目の前の女の子の怪我が治っていることにただ呆然としていた。
気づけば公園には俺1人だった。思わず時計を見る。
「あっ、やべ」
やばい、休憩しすぎた。早く帰らないと。
腰を上げて買ったものを持ち家に向かって早歩きで帰った。
なぜかは知らないが、荷物がさっきより軽く感じた。
家に着くと刹那が既に帰っていた。といっても俺が帰ってくる少し前に帰ってきたばかりらしい。
刹那に買ったものを預け、自室に行き制服を脱いで部屋着に着替えたのち、
食料を片付けるのを手伝おうとリビングに入った。
すると刹那がいきなりこっちに来て、
「手出して」
「えっなんで?」
「いいから早く」
せかされた俺はとりあえず手を前に出した。すると、刹那は手を触ってきて俺の手を観察している。
その急な行動に心臓の音がどっと跳ね上がる。
刹那が俺の手を!
「あれ?なんともない。おかしいなぁ」
刹那が顔を近づけてくる。えっ、だからなんなの?顔近いって。
こちらが耐えきれなくなってしまったので俺は刹那に声をかけた。
「おーい刹那、いつまでこうしているんだ?」
「えっ、あわあわぁ、ごめん」
刹那は気づき、慌てて手を離した。
手から温かさが消える・・・・もうちょっと握ってくれてもよかったかも・・・・
と考えてしまう自分の心を落ち着かせ、問う。
「俺の手を見ていきなりどうした?」
ところが、刹那は顔を赤くして、自分の手を見て固まっている。
「おーい」
「あっ、えぇっとぉ」
なんか知らんがパニクっている。
「いいから落ち着け」
と、刹那の頭を右手で撫でる。
最初はなんか余計にそわそわし出したが、やがて落ち着いたのか刹那が口を開く。
「持って帰ってきた袋の持ち手が赤く染まっていたから、怪我して血でも出たのかなぁって」
「俺は怪我なんかしてないが?」
と言いつつ、側にある持ち手を見る。するとそこには乾いた血が付着していた。
少なくとも俺自身は怪我をしていないはずだ。
あの持ち手も帰るまで離さなかったから、他人が触ることなんかないし・・・と考えていると、
「私、永遠に何かあったのかと不安になって・・」
と、刹那が弱々しく不安そうに言葉を発す。体も少し震えている。
まぁおそらく1週間前に事故があったばかりだからいつもより過剰に不安になってしまうのだろう。
と俺は予想した。
刹那のこの不安を取り除こうと、空いている左手で震える刹那の手を握り、優しく
「大丈夫だよ、俺はちゃんと無事にここにいるから」
少し手を強く握る。不安を取り除けるように。
刹那はただ「うん」と言っただけではあったが、心なしか震えが少し和らいだように感じた。
今は刹那が落ち着くまで、ずっとこうしていよう。
・・・・にしても途中の固まっていたのはなんだったんだ?
しばらくして、ようやく震えが収まり刹那も落ち着いたようだ。それを確認した俺は
「もう、大丈夫だな」
と、両手を離そうとしたら、握っていた手が掴まれて
「もうちょっと・・・だけ・・・」
と離してくれなかった。
!?
そこで、ようやく自分のしていることに気づいた。
やべぇ!刹那の頭撫でてるし、手も握っちゃてるよ!やべぇ恥ずかしい。
心臓がバクバクと大きな音を立てているのがわかる。
さっきまでは無意識だったが、一度意識すると、もう恥ずかしくてたまらない。
髪もさらさらしてるし、撫でるたびに甘い香りがするし・・・って何を考えているんだ!
「なあ、もうさすがに・・・っ!」
身がもたないのでもうやめようと刹那の顔を見たが、絶句した。
まるで子猫が顎を気持ちよさそうに撫でられ、目を細めてごろごろぉとでも言って満足そうな顔をしているではないか!なんだこのかわいすぎる天使は!?
抑えろ、俺。何も考えるな。
その後もあやうく跳びかける理性をなんとか踏みとどませるのにひたすら格闘し続けた。
さらにしばらくたった後に解放され、刹那は上機嫌で料理を始めたが、俺はすっかりダウンし、今日はもう刹那の顔をみると恥ずかしくていてもたってもいられなかったため、やることを済ましたら逃げるようにしてベッドに潜り込んだ。
だって反則だろあの顔は!かわいすぎだろ!
その後も、何度もあの顔を思い出してしまい、なかなか寝付けなかった。




