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後日談1.攻められても攻めても刹那がかわいい件について

後日談の始まりです。

「ふぅ、これでいいかな」


「うん、綺麗になったよ」


「手伝ってくれてありがとうな。前に刹那がやってくれたから元からそこまで汚れてなかったけども」


「別にお礼を言われることじゃないよ、私がしたくてやっていることだから」


「そうだとしてもだよ。それに今回だけの事に限った話じゃない……今までのことも含めてだからさ」


「わかってる」


 残暑もすっかり消え失せて、朝夜だけでなく昼も少し肌寒くなってきた今日この頃、俺と刹那は俺の家族の墓参りに一緒に来ていた。


 こうして俺がここに来るのも二回目であり、刹那と一緒に来たのは今回が初めてである。


「でもよかった、永遠が何ともなくて……」


 刹那が自分の胸に手を当ててホッと安心したように息を吐く。まるでさっきまで緊張させていた糸をたった今切って緩めましたと言わんばかりに肩の力を抜いている刹那に俺は少し背中がくすぐったくなる。


「あのなあ、別に大丈夫だって前から何度も言っていただろう?」


「そうだけども……やっぱり不安だったんだもん」


「まぁ、それだけ刹那に心配を掛けさせたという自覚はありまくりだから何も言い返せないけども……」


 俺は「少しは信じてくれてもいいのに」という続く言葉を濁しながら持ってきた花を入れ替えていく。

 以前刹那が持ってきた花は数も少ないし、台風の雨風でかなり茎や花弁がやられてしまっていたので前に替えてくれた刹那には少し申し訳ないが。

 とはいえ刹那の主張はもっともなことで心配する気持ちは当然と言われれば当然だ。だってもしこの立場が逆だったら、刹那に何を言われようが絶対に着いていくことになるだろうから。


 俺はこれまで墓参りに来ることができず、ずっと刹那や刹那の両親が定期的に墓参りをして掃除してくれていた。

 中学1年になる春休みに家族をなくしてからつい最近までここに来ることができず、昔一度行ったときは途中で気持ち悪くなって断念してしまった。


 俺は大切だと想う人達が死んでしまうことに耐えられないことに気づき、そういったことを自分では決して認めないように自衛の殻を被って生きていたが、俺はやっとその殻を脱ぎ捨てることができた。晴生に愛華、そして沙月……俺は刹那以外にもそうやって大切だと想うことを認めることに決めた……意外とその結論に辿り着けたことに少し自分でも驚いている。


 そういったことを晴生に言ったら、『はぁ?お前の行動と認識の矛盾は酷すぎるぞ?』と呆れながら俺が過去にしてきてたとことをとても丁寧に幼い子供に諭すように言い聞かせてきた。


 くすぐったくて、思い出すだけでも恥ずかしいので詳細は何も言わないが、晴生曰く、俺がなんだかんだでしてきた行動はちゃんと人のことを考えていないとできない行動だったらしい。


 自分が変わる決意をした夏休みから文化祭、特に沙月との件についてそういった自覚は持ち合わせていたが、まさかその前からもそうなっていたとは完全に意識してなかった。


 まぁ、人に言わせれば、俺は心の持ち方で簡単にどうにでもなるらしい。


「永遠?どうしたの?」


 愛しい彼女に声を掛けられて現実に戻る。その刹那が俺の名前を呼ぶ一声だけでも、鈴のようにシャラんとしていてすごく温かくて胸に染み渡る。


「やっぱり、調子が悪いんじゃ」


「ううん、全然違うよ。ちょっと考え事してただけだから……」


「ふーん」


 いかにも怪しいとじぃっと細めで見上げてくる刹那。細まった目から見える黒く揺れた瞳は決して怒っているというわけではなく少し不安そうな目で純粋に心配してくれてるのだとわかった。


 刹那が俺を心配してくれている、そのことを考えるだけでも心がスッと軽くなって嬉しくなってしまう。自分という存在がかわいくて愛しい刹那から大切にされているのだと肌で感じることができるからだ……とはいっても、刹那にそういう顔をいつまでもしてほしいなんてことではないので俺は刹那の手を握り彼女の白くて俺より小さくて細い指に絡ませていく。


「ふぇっ!?」


 俗に言う恋人繋ぎをしただけなのだが、これでもかというくらいにわかりやすく驚いて嬉しそうにしながらも恥じらいを隠そうとして隠せない刹那。


 一瞬だけ目を丸くして固まるもすぐに事の状況に気づいて絡めている手をにぎにぎと自ら穴にはまりながら頬を赤らめていく刹那は、本当に純粋でかわいくて愛おしい、それこそ抱き締めたいくらいには……流石にここではできないが。


「どうしたんだ?刹那、そんなに慌てて」


「と、永遠!?こんなところでやるの?はっ、恥ずかしいよぉ……」


 顔を赤く染めながらそう言ってはいるものの手を振りほどこうとはしない刹那。それに口角が斜めに上がっているのは横から見える。



「よし、こんなもんでいいだろう。それじゃ、帰ろう刹那」


「えっ?こんなあっさりと帰っちゃっていいの?もっと話したいこととかないの?……あっ、もしかして私があれだったら少し離れてるからゆっくりしてきたら?家族水入らずも大事だし」


 また、すぐに自分を否定し出す刹那。確かに刹那の言うことはごもっともな事だが、生憎と俺はお墓にその人の魂が宿るなんてことは今は思えない。

 そこにあるのは石に名前が刻まれただけなのだから……しかし、それでも伝えたいことは伝えてみせたつもりである。

 そのことを把握してないのは隣で今も若干慌てている刹那くらいだ。俺は刹那の耳元で息を吐くように囁く。


「大丈夫、もう伝えることは行動で示したから。俺には大切だと思える友達がいて、そして何よりもこんなにもかわいくて、純情で、大好きでたまらない愛しい彼女、皆も知ってる刹那がいるから幸せだって」


「あっ……」


 刹那のふわりと香る甘い匂いがすぐ近くにあるのを感じて、すぐ目の前に刹那の横顔が見えて自分が何気にかなり恥ずかしいことをしているのだと今さら気づいて羞恥心に潰されそうになるが、俺の吐息がくすぐったそうに肩をびくびくさせている刹那を見ると後にも引けないと感じ、俺はそのまま刹那を引き寄せる……ことは流石にこんなところではしないでぷしゅーと湯気でも出ていそうなくらいには顔を真っ赤に染めて照れる刹那が転ばない程度に引っ張って家に帰っていくのだった。




 墓参りを終えた俺達はそのまま家に戻ってきて昼ご飯で刹那が作ったミートスパゲティをおいしく済ませた後、俺は宿題を進めていたところだった。そして一通りやることを終えたところで休憩しようと伸びをしていたときだった。


「永遠、今暇?」


 そう言いながら、ドアをノックしてくる刹那。俺は「いいよ、暇」と返事をした瞬間にドアがガチャリと開かれてそちらのほうを見ると目の前には何やら分厚くて重そうな本、にしてはかなり大きいものを抱えた刹那がいた。


 俺は刹那からそれらを回収して机の上まで持っていった。


 俺は意外と重たかったそれらを置いて、「これは何?」と刹那に尋ねた。


「へへへっ、これはね!アルバムだよ!」


「アルバム?」


「そうだよ!一緒に見よ!」


 そう言っていつ、誰のアルバムを見るのかイマイチわかっていない俺を刹那は気にすることなく目をキラキラさせながら俺の手を引っ張ってベッドに座らせられた。そして、俺の隣に肩をくっつけるようにして座って俺と刹那の膝を半々にしてアルバムを載せた。


「なっ、なあ?誰のアルバムを見るんだよ、刹那」


「えぇ、まだわからないの?永遠らしいといえば永遠らしいけれども、私ちょっと落ち込んじゃうよ。こういうの楽しみにしてたのって私だけなの?」


「ご、ごめん……」


「別にいいもん」


 頬をぷくぷくに膨らませてわざとらしく俺から顔を背ける刹那。拗ねたネコみたいでいじらしくてかわいらしいがどこか寂しそうにも見えるのが余計に心をくすぶってくる。


 俺は赤く膨れた頬を摘まむとふしゅぅー刹那の口から息が漏れ出でて柔らかい刹那の頬を指でぷにぷにと遊ぶ。刹那がこちらに顔を向けてギュッと睨みつけてくるがその瞳は揺れていて全然怖くない。

 むしろ頬を指で押したりふにふにと楽しんでいると刹那も抵抗することなくむしろ嬉しそうにしている……気がする。


 触れば触るほど癖になっていてずっと触りたくなってしまうが、俺自身も刹那が持ってきたアルバムが気になり始めたので俺は「ごめん、いじめすぎた」と謝りアルバムを開こうと手をかける。


 刹那は「もぅ、永遠のバカ……」と俺の指が頬から離れて少しだけ物足りず寂しそうにジト目で睨んできながらアルバムをめくろうとする俺の手にそっと重ねてくる。


「一緒にめくろっか」


「うん、それじゃあ、せーの!」


「あっ……これは」


 刹那のかけ声でページをめくった先に目に映ったのは小さな男の子がけらけらと朗らかに笑っている、そしてその隣にいるちょっと恥ずかしそうに照れた女の子が小さいながらもピースをしている写真だ。


「懐かしいな、これ」


「でしょ、あの時から永遠はかわいいかったなぁ」


「おい、それ褒め言葉になってないぞ、男にかわいいは嬉しくないんだよ」


「そう言いつつも、そうやって言ってくれることが嬉しいんでしょ?顔真っ赤だよぉ永遠?」


「くぅ~……うっさい!」


「でも、今こうやって隣にいてくれる永遠の方がずっとかっこよくて大好きだよ」


「なっ!?いっ、いきなりすぎ」


 ニマニマと見つめてからかってくる刹那に俺は恥ずかしさが頂点に達して逃げるように顔を逸らす……なんてことはさせまいと刹那が俺の両頬を押えて無理矢理目線を合わせられる。赤く染めて瞳が蕩けたように見上げてくる刹那を超間近で見せられてあまりのかわいさにどうにかなってしまいそうだった。


 心臓もバクバクで全身も血液が沸騰しているんじゃないかってくらいには熱い。目を逸らすこともできたが、目の前で蕩けたような甘い顔をしている刹那にこれ以上は理性的にもヤバいというのがわかっていながらも離すことができない。


 そんな時だった。


「んっ………………」


!?


 刹那がグッと距離を詰めてきて唇を重ねてきた。俺が驚いて思考も何かも固まった間に刹那は唇を離して先程の距離感に戻っている。


 時間にすればほんの一瞬、ちょっとだけ互いの唇を触れて重ねただけ。それでも確実にその行為はキスそのものでありそのことを処理するのに精一杯でキスされている間のことを意識することができなかった。

 しかし、今も残る刹那のあの柔らかくて瑞々しい感触に刹那の甘い匂い、そして、視界いっぱいに収まった目を閉じた刹那の綺麗でかわいくて愛おしい顔と様々な感覚情報が頭の中で叩きつけるように暴れており、ジリジリと頭が痺れたように動かない。


 しばらく時間が経ってやっと言葉を発せるように俺は慌てて口を動かす。


「せ、せせせせせつなさん!いいいったい、なななななにを!?」


 動揺しすぎて、全く言葉になっていない俺の言葉を刹那は特に気にすることなく、いや耳に入らないようで自分の手を自分の唇に当てながら嬉しそうに先程したキスの感触を思い出しているようだった。


 かわいい……というかなんか色っぽくて……なんかヤバい!


 キスをしたからかもしれないが今の刹那はメチャクチャ大人っぽい色気を滲み出していて、理性がガリゴリと削られている。


 赤く艶々としてぷっくらとした唇、そして、斜めに上がった口角に熱を帯びて蕩けた目。さらには口に当てている白くて小さい手ですらいつもよりも魅力的に見えてしまう。


 刹那は俺の見つめる視線に気づいたのか照れ隠しするようにふふっと笑って「へへ、キスしちゃったね。嬉しかった?」と尋ねてくる。


 そんな予想だにしていなかった刹那の妖艶な微笑みに俺はさらなる追撃をもろに食らい「うっ、嬉しかった……です……」としか言葉を続けることができなかった。

読んでいただきありがとうございます!

面白い?続きが気になるかも?と思った方はブックマークや評価を是非。

今後もよろしくお願いします!


明日、後日談をもう一つ出します!

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