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109.叛逆

 泣いた、たくさん泣いた。そりはもう目からも鼻からも涙が出るくらいにはメチャクチャに泣いた。

 意識が戻って目を覚ましたばかりでろくに刹那はまだ体を動かせないというのに俺は刹那のそんな事情など顧みることなく今までため込んでぐちゃぐちゃに混ざり合っていた感情を全て刹那にぶつけてしまった。


 俺はもう刹那が無事に生きていてくれたこと、再び会えたことにもう嬉しくて嬉しくて、そしてたまらなく愛おしくてしょうがなかった。


 俺は自分の内から溢れ出る感情のままに、刹那の存在を確かめたくて、この1週間で欠けていた心の穴を埋めたくて、もっと刹那を感じていたくて抱き締めた。

 久し振りに抱き締めた刹那の体は以前よりも痩せ細っていて、下手に力を入れてしまったらポキリと折れてしまいそうなくらいで、そのことが余計に俺の感情の放出を加速させた。


 俺は刹那の胸に顔を埋めて『っ刹那、・・・刹那、うぅっ、刹那ぁ・・・』と嗚咽を交えながら彼女の名前を呼び続けた。

 刹那は最初こそはそんな俺のいきなりすぎる行動に戸惑ってはいたものの特に突き放したりするようなことはしないで受け入れてくれていた。


 刹那は次第に体の運動感覚を取り戻したのか重たいはずの腕を動かして俺の背中と頭に手をやった。

『よしよし・・・とあ・・・だいじょうぶ・・・だよ・・・私、永遠のおかげで・・・今ここに・・・こうやっていられる・・・から』


 刹那の小さな手に頭や背中に伝う細い指先の感触、雨風に晒され続けていたことなんて完全に忘れており互いに冷え切っていたが、それでも十分に温かく心地よいものだった。


『よかった・・・よかったぁ・・・無事で・・・生きていてくれて、ありがとう・・・うぅ・・・せつなぁああぁああ』


『あり、がとう・・・私を、助けてくれて・・・永遠とまた会えて・・・嬉しいよ・・・私』


 しばらく互いに感謝の気持ちを伝え合いながら、この1週間にあったことの話など一切交わすことなく互いの存在を確認し合うのだった。

 お互いに、主に俺が落ち着いた後は愛華と連絡を取り直してここまで迎えに来てもらうように愛華のお母さんに頼んだ。

 幸いにも俺が墓地までに最初に来た道の方は車も通ることができ、そして土砂崩れも起きていなかったので無事に迎えに来てもらえた。


 愛華や沙月、そしていつの間にか合流していた晴生から『連絡してるのに無視しやがって!心配したんだ!・・・』などと散々に怒られて絞られて・・・と色々と締め上げられたが『刹那も無事だ』という俺の一言で糾弾は中断されることになり今度はその矛先が俺から刹那に向かうことになった。


 電話先ではガミガミと言葉絶え間無く漏れ出て刹那は申し訳なさそうに顔を歪めながら『はい、はい、・・・ごめんなさい』と弱々しく謝り続けていた。


 そんな刹那の顔は見たくはなかったというのが俺の本心ではあるもののここはそのまま放っておくことにした。刹那がしでかしたことは紛れもない事実で多くの人に迷惑がかかってしまった。だからこれを庇うとか無かったことにすることはできない。

 心苦しいが、それだけ刹那のために身も心も削って心配してくれている人がいるのだということだ。きっとこのことを実感できるのが幸せなことなのだろう。


 その後無事車に乗り込めた俺達は病院に向かって刹那に異常が無いか確認してもらった。一時的ではあるものの俺が能力を用いて治したとはいえ、刹那は呼吸もせず、心肺停止にまで追い込まれていた。

 何らかの後遺症があるかもしれないと思い検査を受けてもらい、特にそれらしきものも発見されなかったので、無事家に戻れることになったそうだ。刹那が愛華の家に持っていた荷物も全て我が家に戻ってきて気づけば翌朝、台風も通りすげてカラッと晴れ晴れとした空が広がっていた。


 なんか、俺の説明が継ぎ接ぎだったりまるで他から聞いたみたいだと思った人がいるかもしれないが、事実その通りで俺は愛華のお母さんの車に乗り込んで病院に移動している間に今まで張り詰めていた緊張からようやく解放されることができたからなのかプツリと意識が切れて眠ってしまったらしい。

 俺はそのまま1日中眠りこけて気づいたら1週間前の家の状態に元通りだった。


 寝ている間俺は色々とおもちゃにされていたらしいがそれは俺以外の5人のみぞ知る話だ、俺には知る権利などありはしなかった。


 唯一気がかり・・・というか気になっていることは車の中で寝ていたわりには随分と寝心地が良かった気がする。座って寝ていた感じはしなくて、頭には柔らかい感触があったような気がするんだよな。

 まぁ、すごく安心して眠ることができたから特に思い返すのはやめよう・・・また気になったら晴生あたりに聞くことにしよう。どうせニヤニヤ顔で見られるのは明らかだろうけど。




「永遠、今時間空いてる?」


「うん、空いてるよ」


 俺は刹那に呼ばれて促されるまま席に着く。互いに正面に向き合う形になっている。

 刹那と懐かしの朝ご飯を・・・の前に俺達にはまだやらなければならないことがある。

 というかむしろこれからが本題、事の核心である。


 刹那の表情が強ばっている、両手も握りこぶしで固く握られており、体も震えている気がする。


「・・・」


「・・・」


 互いに無言のまま時間がすぎる。刹那は顔を上げて言葉を発しようとして口を開きかけては閉じて、顔を俯かせる。その度に刹那の顔が苦痛にも歪んでいく。下唇をぎゅっと噛んでいて目元はゆらゆらと揺れている。


 そんな刹那を目の前で指をくわえて見ているしかできない自分が嫌でしょうがなかった。できることなら今すぐにでも手を伸ばして刹那の元に駆け寄りたい、抱き締めたい。少しでも不安を拭ってやりたい。

だけど、俺自身そういうことをする覚悟もないのが現実であった。


 机の下に両手を置いているから刹那からは見えていないだろうが俺の両手は刹那と同じく固く握られていた。力を抜けばすぐにでも震えが全身に伝播してしまうくらいにはブルブルさせていた。


 怖い、刹那がなんで俺から距離を取ろうとしたのか・・・その理由を知るのが今はただただ怖くてたまらない。

 想像する、刹那が蔑むような顔で「嫌い、あなたのせい」と言われるのが怖くてたまらない。刹那がそういうことは言わないだろうし、俺を好きでいてくれているという自覚は持ち合わせている。だから家を出て行こうとした理由はまた別の問題があるのだろうと推測はできるのだが、それでも不安は拭えない。


 そんな時だった・・・。、


「永遠・・・」


 刹那が名前を呼ぶ。決心がついたのか俺をまっすぐ見つめる黒い瞳には綺麗で吸い込まれそうになる、そしてそこには迷いはもう見られない。俺は息をのみ首を縦に動かす。すると刹那は両手で頭を抱えだした。


「!ううぅっ・・・ぐっ・・・あぁあぁ・・・はぁ、はぁ・・・うっ、うわあぁあぁぁああ!」


「刹那!」


 目のまでいきなり悲痛な叫びを上げる刹那に我慢の限界を迎えて席を立って側まで駆け寄る。そして「大丈夫か?」と手を伸ばそうとしたのだが、


「っ!・・・まっ・・・・・・てぇ・・・」


 刹那の声が俺の動きをピタリと停止させる。頭を必死に押えて荒い呼吸を繰り返しながらも言葉を吐き出す刹那。


「はぁ、はぁ、はぁ、・・・うっ!・・・ぐぅぁああぁぁ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・わた、しもね・・・持ってるの、うぐっ!・・・あぁぁああぁあぁあぁあ!」


 両手で自分の頭を押させつけて全身を震わせながら何かと戦いながらそれでも言葉を紡ごうとする刹那。目元からは涙がこぼれ落ちてぐちゃぐちゃに歪められていく光景が俺の心をズタズタと引き裂いていく。俺はもう我慢できずに動こうとしたときだった。


「のう、りょく・・・」


「えっ?・・・今なんて?」


「うぐっ!・・・はぁ、はぁ・・・私も・・・あぁあぁ!・・・能力、者・・・みたい・・・だからね・・・いや、やめてよ・・・いやぁあぁあああぁあああ!」


 頭が真っ白になる。俺は必死に言葉を並べてくれた刹那の声を並べ直す。


『私も、能力者みたい』って、そんなバカな!今までそんな素振り一度も!・・・刹那の痛々しい悲痛の叫びを上げながら俺はただその場で突っ立ったまま立ち尽くすことしかできなかった。



 痛い・・・痛い・・痛い・痛い痛い痛い痛い痛い痛い!・・・・・・

やめて!そんなに激しく脳を叩かないで!死んじゃうから!

話をしようと口を開いた瞬間に襲われた頭痛・・・今、永遠に自分が能力持ちであることを伝えた瞬間今まで頭を叩いてたものが人肌感じられるものから固く冷たい、そして激しく重い金属製のトンカチで殴られた私の頭蓋骨は粉々に砕け散った・・・。

警告だ・・・これ以上踏み込めば本当に死ぬ。というか意識が途切れる。今にも途切れてしまいそうだった。

保たせないと・・・私だってこれ以上逃げるわけにはいかない。激しい頭痛と闘い続けながら言葉を紡ぐ・・・そんな時間を過ごすことになったのだった。

読んでいただきありがとうございます!

面白いかも?続きが気になる?と思った方はブックマークや評価を是非。

今後もよろしくお願いします!


後3話で最終回!

ここからが永遠と刹那の歩み寄るための本当の戦い。

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