104.友達
永遠視点に戻りました。話が進みます。
「それで、結局具体的にはどうすんだ?」
「どうするってなにも・・・探すしかないだろ」
「とはいえ、この天気の中で闇雲に探し続けるのは無理があるわ」
「それに、今日の午後からは台風がやってくるからそれまでに見つけないと刹那が危ないよ」
「詰んでるな・・・」
俺の家で沈黙が流れる。刹那を探さなければならないのだが、刹那がどこに行ったのかわからないために4人しかいない現状では探しきれない。
おまけに台風が接近しているという事実が考えをさらに焦らしていく。後から付け足すように聞いた話で愛華によると刹那のスマホや財布をはじめ貴重品は愛華の家に置きっ放しらしい。
その上風邪の治りかけ初日らしく、それまでもあまり食欲もないようで実際にあまり食べてないらしい。それに睡眠不足でいつもフラフラとしており目もほぼ毎日赤く腫らしてるそうである。聞くだけでも刹那の健康状態がよろしくないということは嫌でも理解できる。
などと淡々と語っているように見えるが不安で不安でしょうがない、早く刹那に会いたい・・・その思いばかりが募っていくがここで不安を爆発させてもどうにもならないのはわかっているので自分を落ち着かせる意味でもひたすら今の状況を考えていく。
「とりあえず、台風がこの地域に接近してくるまでに時間がない。今だって雨風もかなり強くなってきて十分危険だ。だからここで考えるよりも外に出て探そう」
こんな感じに何もプランなしの俺の提案に他3人とも「うん」と了承されて、とはいえ俺達も危ないことには変わりないので愛華と沙月は愛華のお母さんと一緒に車で探すことになった。
愛華のお父さん、沙月や晴生の両親は仕事でいなくて、俺の両親もいるはずなく車が用意できなかったため愛華とスマホで定期的に連絡をとるのと一時的にスマホにGPSのアプリを入れて位置情報を特定できるようにした状態で俺は晴生と一緒に歩いて探すことになった。
「とは言ったものの・・・全然前が見えないな・・・」
「同感だ・・・」
家から出て10数分、少し外で歩いただけなのに雨が土砂降りで既に靴の中はびちょびちょに濡れてしまっている。
おまけに進行方向に対して前から強風が打ち付けているため傘を前に傾けているので全然前が見えない。ただでさえ視界が悪いのに傘で前がほとんど塞がれてしまい全然探せてない・・・ていうかそもそも人がいない。当然だが。
「てか、すごくいまさらだがカッパ着とけばよかったな」
「だな・・・持ってないけど・・・」
「同じく、買おうと思ってもコンビニが近くにないからな・・・あったとしてもすぐ壊れそうだけど」
「・・・」
「なぁ、晴生」
「どうした?」
「今まですまなかった・・・」
「・・・」
雨が強く打ちつけており傘からは大きな音が鳴り響く。それらにかき消されない程度にけれども風が攫っていきそうではあるもののそれでもきちんと届くように今までの謝罪の言葉を伝える。晴生はそんな俺の言葉がきっちりと聞こえているようで黙って歩を進めている。
「これまで、ずっとお前らを無下に扱って接してきた。お前らはずっと好意的に接してくれてきたのにだ。俺は家族が交通事故で死んでからそういった友達や仲間をもつことが怖くなったんだ。いつか突然死んでしまって俺の前から消えるのが怖かったんだ」
「今は、怖くなくなったのか?」
晴生からのその問いに俺は首を振る。
「いや、今も怖くてたまらん・・・でもだからこそ今あるこの関係を大事にしたいってようやくそう思える気がしてきたんだ。お前らがずっとそっけなく距離を取ろうと対応し続ける俺にこうやって近づいて接し続けてくれた。今だってこうやって手を差し伸べてくれている。そこまでしてくれているのに俺は、いや違うな、してもらってるからじゃなくて俺がもっと晴生や愛華、トランペットパートや部活の皆、沙月や他のクラスメイトととも仲良く楽しく過ごしていきたいんだ」
自分でもかなり恥ずかしいことを言った気がするが、ここで晴生の方を見なければどこか負けなような気がして隣を見たら・・・・・・ニヤニヤと笑っていやがった。
そんなクソッタレな顔を見せつけられて俺は羞恥で一杯になりつい「やっぱなんでもない!」とにらみ返したのだが、晴生はガハハッと大声で笑い飛ばしながら俺の肩をがっちり掴みながら、当たり前のように言う。
「楽しいことはこれまでも、そしてこれからもだ」
「晴生、お前・・・・・・っておい!傘を放り出そうとするな!濡れるだろ!近寄るな!」
「今さらいいだろ!俺とお前の仲だ、気にすることはねぇ!」
「ぁあ!相変わらずそのダルがらみがウザすぎる!」
ケラケラと屈託のない笑顔を浮かべる晴生、折角俺が決意表明したって言うのに台無しじゃないか。自分で言うのも何だが少しはいい雰囲気だったんじゃないか?それをぶち壊してくるあたり流石としか言えない。
いや、晴生と交わす言葉はこれでいいのだろう。
今も隣でガヤガヤと言い続ける晴生にいつも通りを感じながら俺はそんな晴生の言動に感謝の気持ちを抱きながらも「こっちばっか見てないで周りを見渡せ!」と言って距離を離す。離された晴生はニタニタと笑いながらも「しょうがないなぁ永遠は~」とふざけたことを言っている。
酷い風雨が続く中、誰もいない住宅街をガヤガヤと騒ぎ立てながら俺達は歩き続けるのだった。
「もしもし、俺も晴生も生きてるぞ愛華」
『そう、ならよかったわ』
電話の向こう側では車のカーナビと接続してあるようで愛華のお母さんも沙月も『よかった』という声が聞こえてきており、ホッと息を吐く声が漏れ出ている。
「それで、そっちはどうだ?」
『全然、ダメよ』
「こっちもだ、今はコンビニにいて電話のために雨宿りしている。これが終わったらまたすぐに探しに行くよ」
『そう、気をつけてね。台風もだいぶ迫ってきてるから。少しでも危ないと判断したらすぐに連絡すること!』
「あぁ、わかってるよ、晴生にもちゃんと言っとく」
『えぇ、よろしく頼むわね・・・にしても刹那はどこに行ったのかしら・・・私は永遠の家に行ったと思っていたのに』
愛華の発言に「えっ?」と間抜けな声が発せられる。今の俺と刹那の状態を知っている愛華がそんなことをなんで思えるのか疑問に思い「どうしてそんな風に思ったんだ?」と聞き返した。すると、愛華はうーんと言うのを躊躇い時間をかけながらも最終的には口を開いた。
『昨日、実は刹那と喧嘩・・・いや、私が一方的に刹那を問い詰めていたんだけど。私がもう我慢できなくて刹那に【俺の方こそが・・・刹那と一緒にいる資格がなかったんだよ・・・】って永遠に何言わせてるの?って言っちゃったの・・・』
愛華の声が震える。
『それでも、刹那は何も口を開くことはなかったんだけど、かなり青ざめて様子で今までも追い詰められた様子だったのにそれにさらに追撃をかけちゃったの・・・ごめんなさい・・・・・・それで今朝実は置き手紙があったんだけどその内容が・・・謝ってきます・・・ていう一言だけあって・・・てっきり私は永遠本人に謝りに行ったんじゃないかって思ってたんだけど刹那はいないし・・・』
刹那が謝りに行く?俺本人ではないとしたらどこに行くのだろうか?と内心で疑問を浮かび上がらせていると電話口で愛華が言葉を続けた。
『だからね、刹那が出て行ったのは私のせいなの・・・私がさらに刹那を追い詰めるなんてことをしたから・・・だからごめんなさい・・・永遠・・・』
泣いているのか、それでも必死に押し殺そうとする愛華の涙声がスピーカー越しに聞こえてくる。
詳細はよくわからないし、それを問い詰めようとは思わないが愛華は愛華でこうなってしまったことに罪悪感を感じておりそれが自身を苦しめているのだと思った。
「愛華は悪くない」と言おうと思ったが俺なんかが言っても慰めにならない、それよりも刹那を探し出して愛華の前に連れてきた方がいいと思った俺は、スマホを晴生に預けて愛華のケアは任せて、刹那が誰に謝りに行ったのかに集中することにした。
刹那が謝る相手・・・俺ではないとすると他は一体誰になるのか、一瞬部活やクラスメイトのことも頭に浮かんだがこんな台風接近間近の中で出て行くにしては関わりが薄すぎる。こんな状況下でも出て行くのだから、相当関係が濃い相手なのは間違いない。
そして、愛華から責められた後に出て行った・・・俺に関する内容で・・・だけど俺の元には来なかった・・・。
頭を悩ませるが正直全然わからない・・・
そんな時だった、沙月の声が電話越しで聞こえてきた。
『そういえばさ、永遠の家族亡くなった後、なんで刹那の家に引き取られるようになったの?』
その言葉にまるで電流が走ったかのように何かが閃いた。もう一度自分の中で噛み砕くように沙月の言葉を脳内で再生する。
刹那が俺を引き取った・・・
それはつまり俺の家族から俺を預かったことになる。それは俺のことが好きだったからという理由が一番だとは思うがそれ以上に自分が引き取ると言いだした責任が重くのしかかっていたはずだ。
それに加えて、刹那は家で出て行くときに自分が悪かったのだと責めていた・・・。
!
気づいたときには俺の体は駆け出しており、傘を差すことなく外に出ていた。後ろから晴生が何か叫びながらやって来ているが、そんなことには構っていられない。
未だ憶測の域を出ないものの愛華から聞いた話や刹那の性格を考えればあそこに行くに違いない。そう確信していた。
今、行くよ刹那。
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今後もよろしくお願いします!
思えば今年は台風の話題がほとんどなかったですね・・・




