100.違うの、悪いのは・・・
前回から引き続き刹那視点です。
私は重苦しいドアを背中で押し、ガチャンと音が鳴りきるまで体重をかけた。そのままの体勢のまま私は動くことができず立ち尽くすことしかできなかった。
なんで私がこのままなのかというと永遠がドアを開けてきて自分がこれから泊まることになる相手を知られないようにするためである。
昨日、親と電話したところ愛華の家にしばらく泊まらせてくれることになった。
昨日まで知らなかったが、私のお母さんが愛華のお母さんと昔からの友達だったらしく私達、娘達の知らないところで秘かに連絡を取り合っており、海外で仕事をする私のお母さんは愛華の口からもたらされる学校生活の情報がそのまま私のお母さんまで横流しされていたようだった。
それを聞いたときはいくら私が永遠から離れなければならないという考えのことでいっぱいだったといっても自分を虫眼鏡で隅々と見られていたようで穴に入りたくなるほど恥ずかしかった。
そんなことはさておき、これから私が泊まる先、つまり愛華の家に私の荷物を運ぶために朝早くから愛華のご両親が車でわざわざ来てくれることになっている。
愛華のご両親の車は吹奏楽部で楽器移動する際に保護者の協力をお願いすることが多々あるのだがよく手伝ってもらっているので部員はじめ当然永遠も記憶に確実に残っている。
私は永遠にどこに行くかは具体的に言っていないので少しでもボロを出せば特定し、辿り着くのも簡単である。
そのために私は、この家のドアに背を・・・預けて・・・突っ立ている・・・
「んなわけ、ないよ・・・」
もう限界だった。
必死に我慢してきた、いや我慢しきれてなかったかもしれないが、たまりに溜まった涙がポタポタとこぼれ落ちた。
拭おうとしても私の両手は荷物で塞がっており押えることは許されない。嗚咽だけは、永遠がドアを挟んだ背後にいるかもしれないと口を固く閉じて、息を止めたりして懸命に押し殺して聞かれないようにしたが、それをするだけでもはや精一杯で涙を留める術は一切なかった。
「嫌、だよ・・・」
首は項垂れて真下に視界が映ると真っ白だったはずのアスファルトは黒く染まっていた。そしてその視界もすぐにぼやけて見えなくなってしまった。
「離れたくないよぉ、っ・・・やだ・・・うぅ、あぁああぁあ・・・とあ・・ぁあぁあ・・・・・」
私がここから動きたくない理由はただ一つ、この家族と過ごした、永遠と過ごした家から出ることが心の底から嫌だった。
でも私にはそんなことを思ってはならない。だって私が永遠を傷つけて私から一方的に別れを告げて家を出てきたのに私が家を出ることを寂しく辛く、離れたくなくて嘆くなんてそんな資格あるはじがなかった。
なかったはずなのに・・・私は自分が悲劇のヒロインのように振る舞っていて本当に最低な人間だ。
でも・・・
胸が痛い・・・改めてわかった・・・
キュッと胸が締め付けられる・・・私は自分のことしか考えられていなくて・・・
心臓が鷲づかみされているようで・・・やっぱり永遠と一緒にいるべきではなかったんだ・・・
グシャリと潰された・・・ごめんね、永遠・・・
「起きて!刹那!」
「ん・・・誰?・・・!と・・・って愛華だよね・・・」
「!・・・っ・・・よかった・・・目を覚ました・・・」
重たい瞼をこすりながら若干体が痛むのを感じながら起き上がった。
さっき、起こしてくれた愛華の姿が永遠に一瞬見えて期待が膨らんだがそれもすぐ潰されて愛華だとわかってしまった。
自分から切り捨てておきながらそんなありえない希望を抱く自分にますます嫌気が差してくる。私は家の前で泣いて以降記憶がなかったので隣で目を真っ赤にしたまま心配してくれている愛華に現状を尋ねる。
「ここは?」
「私の家よ、刹那の親に頼まれた通り朝早くから車で来たら、刹那が家の前で体育座りして泣きながら寝ていたから流石にびっくりしたわ。とりあえず荷物を回収、運搬してこの部屋に運び込んだってわけ」
促されるように私は部屋を見渡す。薄いピンクを基調とした部屋にカレンダーや壁に貼られたたくさんのアイドルの写真、そして乱雑に片付けられたであろう押し入れからはアイドルグッズであろうものがひょっこりとはみ出している。どうやら愛華の部屋なのは間違いないようだった。
私がジロジロと見ていると、愛華が恥ずかしそうに顔を赤らめながら、「ちょっと、刹那ジロジロ見すぎ・・・恥ずかしいから勘弁して」と言ってきたので、自分の趣味が覗かれて恥ずかしがっている愛華がかわいいなと思いつつも住まわせてもらうことになる私は自重し愛華の顔に再び視線を戻した。
「ここって、愛華の部屋だよね」
「ええ、そうよ。私の家には余分な部屋はないから、せまいかもしれないけどこの部屋を使って頂戴。荷物はあそこ。後で机や敷き布団を持ってくるから刹那はそれを使って」
「うん、急なのにここまで用意してくれてありがとうございます。愛華のご両親もいくらお母さん同士が友達だからってこんなわがまま受け入れてもらって本当に助かりました。ありがとうございます。私できることならなんでもするから・・・」
「はい、そこまで。私達は刹那に家事を手伝うために受け入れたわけじゃない」
私の言葉を遮り迷惑そうな表情を浮かべながら時間を一瞥し「まだ、始業までには時間があるわね」と呟き私に再度向き直り真剣な目で心の内を見通すように言ってきた。
「それで、永遠と何があったの?」
「・・・」
「でなきゃ、家を出るなんてそんなバカなこと刹那が考えるはずがないわよね」
やはり、愛華はいきなり核心を突いてきた。一気に心拍数が上昇するのが嫌でもわかる。でもそれはいつものドキドキとは違う。
まるで事件の犯人が鋭利な刃物を首筋に突きつけられながら、警察に尋問されているような感覚でとても怖いものだった。
私はその雰囲気を圧倒されて何も言うことができなかった。もっとも、雰囲気に負けていなくても私は自分の能力のせいで、能力を通じて知り得たことは自分の言葉で言うことができないのだが。
一向に黙り続ける私を見て愛華が「はぁ~」と深い溜息を吐きながら言葉を紡ぐ。
「まぁ、刹那が怒るのも無理ないわ。刹那が家出することになったのはどうせ永遠が悪いんでしょ。あの不器用め、いつもいつも口数は少ないし、そのくせ口を開いたら生意気なことを言ってくれるし、どうせ刹那が怒っちゃったの仕方ないわあいつ不器用すぎだから・・・」
愛華は口早に永遠を責め立てていた。
どうやら愛華は永遠が私を怒らせたから家を出てきたのだと勘違いしているようで私自身のせいであるとは一切思っていないらしい。そんな私の心境など察することなく愛華が元気に私を励ましてくれる。
「全く、永遠ってやつは刹那を怒らせて何やってんのよ。今日ガツンと私が言ってやるんだから!ほらだから刹那も元気出して!一緒に永遠のやつをギャフンと言わせてやるわよ」
「違うよ・・・」
気づけば口を開いていた。ずっと永遠が悪いように言われていて我慢できなかったのか、それとも自分のせいなのに永遠が責められていることに罪悪感を覚えたのか自分でもよくわからないがこれ以上愛華の話を聞きたくなかった。
愛華は私のいつもと違う雰囲気に気づいたのか「へっ・・・」と驚いて固まっている。
「違うんだよ・・・永遠が、悪いんじゃないの・・・むしろ私の方こそが悪だった。・・・私が永遠をずっと傷つけていた。私には永遠と一緒にいられる資格なんかなかったんだよ・・・」
私は腕で顔を隠しながら、口角は上げて見せて何ともないアピールをする。愛華は「何言ってんの・・・意味わかんないんだけど・・・」と震えた息づかいと共に戸惑いが伝わってくる。
互いにその後に何を言ったらいいのかわからなくなり無言の時間が続いていると、
「愛華!刹那ちゃん!もうすぐ学校の時間よ!そろそろ行きなさい!」
下から大声で愛華のお母さんが呼ぶ声が聞こえてきたことで、ハッとして愛華は荷物を背負い、「とりあえず、高校行くわよ」と声を掛けてきたのだが、私は、
「行かない、行けない・・・」
逃げるように部屋の隅まで移動し体育座りをして首を振った。
しかし、愛華が当然そんなことを許してくれるはずもなく私は愛華に手を掴まれて無理矢理引っ張られて荷物を背負わされて玄関まで運ばれてしまい、靴も履かされて外に出された私は抵抗虚しく高校まで引っ張られてしまった。
なんだかすごく久々に感じた人肌の温もりに懐かしいけど、同時に隣にいるべきはずの、感じられるはずの温もりがそこにはなく改めて自分が選び取った現実を苦く味わっていたのだった。
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