一章 五話
沖田は甘味処で団子を咀嚼しながら人通りを睨みつける。
その大きな体でなおかつ警官であることから街ゆく人々は恐々と沖田を横目に歩き、あるものは身に覚えがなくとも疾しさを感じたようにそわそわしている。団子を頬張りながら昨日の英弌のことを考えていた。明日子に追い出すと言われ流石の英弌でも堪えたようで顔が曇るのを見ていた。
しかし、それで思いとどまるような男だったら沖田は何度も手を焼いていないだろう。追い出されることを悩む暇があったら余計なことに首を突っ込んでいるだろうと。皮肉にも何度も英弌をしょっぴいている沖田こそ、この東郷において英弌をわかっているといっていいだろう。自分には兄はいても弟はいなかったため、もしいたらこんな感じなんだろうなと思いつつもあんな弟いてたまるかと首を横に振る。
そんな沖田の前に頭の中から出てきたかのようにその英弌か目の前を横切る。しかも少女の手を引いて、だ。
「おい英弌!」
叫びだす沖田の声に英弌は振り返るが、
「沖田それお願い!」
と走り去る。
追いかけんとする沖田の前を怒気を含んだ形相の男が二人横切る。
英弌の"それ"とはこれか?
「おいあんたら!」
とその二人を引き止める。
「なんかあったようだかちょっと聞かせてくれないか?」
二人の男は英弌たちの向かった方向と沖田を交互に見たあと邪魔者を見るような目で沖田を睨み、一人の男が突然拳を振りかぶり沖田に殴りかかる。それを沖田は軽くいなし体勢を崩したところで地面に抑え込む。もう一人の男の方を沖田はみる。先ほどの場所から沖田へと小刀を握りしめ向かってきている。
抑え込んだ状態では避けられまい。
そう考えたであろう男の首元にはサーベルが突き立てられていた。その一瞬のうちに沖田はサーベルを抜き、もう半歩でも動かんとすれば斬るとでも言うように睨みつける。そうして膠着したところを沖田は小刀を握る手を蹴り獲物を地面に転がしたあと気を取られた男の腹に拳を叩き込む。その体躯から繰り出される一撃に胃の中身を吐き出しながら崩れ落ちる。
ーーまた厄介なことにクビつっこんだなーー
二人の男を縛り上げた沖田は宿から追い出される英弌を想像した。