第一章 二話
「はぁ」と、沖田宗介はため息を漏らす。その原因となる二つのことに頭を悩ませていた。
一つは士族による反抗活動である。古い時代より各地でその権威を奮っていた士族にとって富国を掲げる昨今の中央政権による武家解体の動きはあまりあるものであった。
特に昨年政府により士族は廃刀鎧令と家禄の廃止によりその特権と武士によっての象徴といえるその刃とヨロイを奪われることとなったことで燻っていた怒りはついに反乱という炎となり今年の初め、10年前の維新活動家の1人斎郷隆盛の元に集まった士族らによる内乱が勃発したばかりである。その規模こそまだ西南地方内で留まっているが反乱勢力と思われる不審な輩が葦原各地でみられるようになった。先ほど港で逮捕した男もその一人だろう。
ーーいらない仕事が増えるなーー
争うのは結構だかこちらにまで迷惑をかけてくれるなと沖田は日頃から苛ついていた。西南地方だけではなく国中の士族(全てのではないが)たちが集結し、決起したところで統一され整備された中央政府軍に勝利する見込みは限りなく少ないだろう。
10年前の革命のようにはいくわけもなく、事実その戦火がいまだ西南地方で留まっているのがその証拠である。
だからこそ彼らの動きが怪しいのだ。要人を人質に取るつもりなのか、はたまた東郷で破壊工作でも行うつもりなのかなんらかの逆転の一手を打たんとしていると警察組織は考えていた。
そのような張り詰めた空気が沖田には鬱陶しかったのだ。
そしてもう一つが。
「またお前か」
警察署から出てくる大人になりつつもまだ生意気さを残す少年、英弌を見てため息をつく。これがもう一つの原因である。「沖田ぁ」とこちらに向かってくる英弌に対し沖田は右の五指で英弌の頭をつかみ思い切り締め付ける。
「いでででで!」
「また余計な仕事を増やしやがったな!」
長い髪を後ろで縛り浅黒いその顔には呆れと怒りが混じっていた。英弌より頭ひとつ分背が大きく肩幅の張った沖田という男が掴むだけでもそれは万力のようなものであっただろう。じたばたしながら英弌は沖田の締め付けを振り解く。
頭を抑えうずくまる英弌を沖田は見下ろす。この英弌という少年が沖田の、というか警察の世話になるのは初めてではなかった。この東郷でなんらかの騒動が起こると飛んできては余計なお世話をかけてくるのだ。ある時はひったくりを相手に町を二つほど追いかけ回し。またある時は家事現場に飛び込んでは逃げ遅れた子供を抱えてきたこともあった。
英弌にとっては人助けのつもりだろうが沖田のような警察の人間にとっては迷惑な人間が増えたと同じことだ。そんなこともあってか警察内では英弌を要注意人物のような扱いになっており、しかも運悪く沖田がその御目付役のようなものになってしまっていた。
「ほらいくぞ」
そしていつものように沖田が英弌の服の襟をつかみ下宿先まで引っ張っていくのである。