第一章 超鋼「黒鉄」
第一話
「英弌直ったか?」
奉公先の二周りほど歳の離れた男が作業小屋に入ってくる。その男の甲着ていたヨロイの動きが悪くなっていてその修理を英弌に押し付けてきたのであった。ちょうどその作業用ヨロイのあちこちに油を刺し終わったところだ。背中に背負うカラクリの構造はまだよくわからないがある程度の点検くらいはできるようにはなっていた。英弌は不機嫌を押さえ込み男のしょいこにカラクリを固定し、カラクリから伸びる補助骨格を二の腕と籠手に取り付け続いて腰と太ももにも取り付ける、これでヨロイの甲着は完了する。
「お、あんがとな」
男は礼を言うとそそくさと小屋から出て再び作業に取り掛かる。小屋の工具を片付け小休止を挟み英弌も小屋から出る。鼻に潮と油の匂いが吸い込まれ、船から荷を積んだ箱やら俵やらをヨロイをつけた男たちがあっちへこっちへと担いでいる。
ヨロイ。
戦乱の時代より強者のみが甲着ることを許され、全身を覆う装甲と霊鋼によって作られた補助骨格によって身に付けた者の身体機能を高め、その装甲はあらゆる刃をものともせず戦場に立つものを畏怖させた一騎当千の兵器。それを造れる技師と甲着できるものの数が国としての強さの指標のひとつとされてきた。もっともいまこの港のヨロイをすべてがそのような血生臭いものではなく一般人向けの作業用ヨロイでありこの港じゃ主に積荷の運搬に使われている。
「おい!お前!」
突然怒号が聞こえ振り向くと1人の男が警官に追いかけられていた。しかもこのご時世に刀を腰に抱えていた。たとえお偉いさんであっても往来を帯刀して歩くなど逮捕してくれといってるようなものである。帯刀した男は走りながら辺りを見渡す、するとなにかを見つけ方向を変えた。その視線の先には母親と手を繋いでいる少女、人質にしようというのだろう。
ーー俺の前でーー
ーーそんな真似をやめろーー
英弌は、足元の石ころをその男に投げつける。石をぶつけられた男は悪意と刀の切っ先を英弌に向け刀を抜き真向に斬りかからんとする。しかし英弌は男に向かって駆け、右手で刀を振りかぶる手を抑え左手で胸ぐらを掴み、足を払い男の体制を崩し馬乗りになる形で押さえ込む。その瞬間男の手を地面に叩きつけ刀を離させ、その顔面に一発ほど拳を叩きつけんとしたところ英弌の体は何者かに抱えられ後方に引っ張られる。さっきまで英弌が馬乗りになっていた男に三人ほどの警官が囲みサーベルの切っ先を向けられ無理やり立ち上がらされ拘束されている。
英弌は、人だかりの中から先ほどの少女を見つける。母とおもしき女性に抱きかかえられしがみついている。
ーー俺はまた、英雄に近づけたーー
満足げに立ち去ろうとする英弌の眼前にサーベルが立ち塞がり、
「君もきてもらおうか」
と唖然とする間もなく警官2人に両腕をつかまれ英弌もまた連行されていったのだった。