序章
龍と鋼
とある宿場の土蔵に3人の男がとあるつづらを前に密談を交していた。眼鏡をかけた初老の男は平賀というからくり技師。鉢巻を巻き籠手と具足をつけた男は三好。そして、長い髪を後ろで括りどこか目に炎を宿したような男、坂本龍舞。
つづらを開けるとびっしりと砂のようなものが敷き詰められその上に円状の装置が乗せられていた。
「まだ、触らんほうがいいですよ」
装置に触れようとした坂本を、平賀は抑える。
「そいつはひとを選ぶくせに一度くっつくもなかなか離しちゃくれねぇ」
「夫婦みてぇなもんじゃな」
ぞっとしないですな、と平賀は笑う。
「龍舞!」
と、裸の女性が倉庫の戸を勢いよく開け放つ。
「お竜さん!」
その女性は坂本龍舞の妻である竜であった。竜に駆け寄った龍舞が、着ていた外套を被らせる。風呂上がりなのだろう頭の先からつま先まで濡れていて水滴が滴っていた。
「逃げなさい!公軍に嗅ぎつかれた!」
平賀は面食らって外とつづらを何度も振り向く。三好はすぐさま槍を携え戦闘の準備を始める。
「平賀さん!核鋼だけでも!」
龍舞は叫ぶ。平賀は数秒悩んだ顔をするが、つづらから円状の装置を龍舞に投げつける。受け取った龍舞はすぐさま土蔵から出て走ろうとするがすでに5人の兵士が待ち受けていた。うち4人は腕と足に、1人は全身に“ヨロイ”を甲着ていた。
「海縁隊の龍舞か」
龍舞は答えない。服装とヨロイの形状からして真閃組ではないようだ。土蔵からヨロイを甲着た三好が現れる。外国の技術を取り入れたヨロイであり、その精度には海縁隊として自信があった。しかし、おそらくこの5人以外にもヨロイ兵はいること、なおかつ4人のうちまともに戦えるのは三好のみ。分がわるいなんてものじゃなかった。
「投降は無意味と心得よ」
全身にヨロイを甲着た兵士が薙刀と殺意を龍舞にむける。
なるほど、わしの道はここで終わる…。
ーーいやーー
ーーまだだーー
「そいつはできんのう!」
むしろ龍舞は一歩前に出る。
「わしは天に昇り空の上で龍となって舞う男じゃ!大地の上で死ぬわけにはいかんでな!」
龍舞は円状の装置、核鋼を握りつぶす。
今ここに人類最初の“鋼人”が生まれるのであった。