愛川 相子
「それじゃ、相子ちゃん、茉莉花ちゃん。
また、明日……おやすみなさい」
学食での話を終え、私達より、先に分かれ道に入った茜さん。
ちょっと、寂しそうに挨拶して歩いていった。
「ええ、また明日、おやすみなさい。
茜さん、気をつけてね」
「あかりちゃん、今日はありがとうー。
また明日ー!
楽しもぉー!」
私達の声を聞き、驚いて振り返った茜さんは、嬉し泣きのような顔で、小さく手を振り、姿を消した。
「……じゃあ、私達も帰るか」
「ええ」
山藤さんの言葉に同意し、2人歩き出す。
「…………山藤さん聞いてもいい?」
「なに?」
しばらく無言で歩いていて、話題つくりに、私の秘密に触れる話をする気になった。
「さっき、手を振る前、茜さんに『ごめんね』って思ってたみたいだけど、どういうつもりだったのかしら?」
「えっ?」
突然の言葉に、山藤さんはこっちを見て、驚いている。
ここは、正直に話した方がいいかも。
「驚いた?
私の秘密と言えるか、どうかの私の秘密。」
「……なに、それ?」
意味がわからなかったのか、可愛い顔をしかめてる。
「ふふ、私がというより、祖父や、父、ご先祖様もそうなんだけど、観察力が凄いらしいのよ?
そのお陰で、結構古い時代から、商売に成功して、現在にいたるらしいわ。
人の表情や、しぐさ、声の震えなど、そんな些細な事で、その人が望む事を先読みして、いろんな事をしてきた。
良い事も、犯罪スレスレな事も……そうやって、私の家はのしあがり、生き残ってきたのよ。
そういう事で、さっきの山藤さんの表情とかで、そう思ったのよ。
当たってたかしら?」
「……うん、驚いた。
でも、なんで、私に?」
「……そうね。
山藤さんが、先輩の事を話してくれたからかしらね?
だから……私の秘密も教えておきたかったよ。」
山藤さんが見つめてくる。
私も見つめ返す、嘘じゃないから。
「……わかった。
相子は嘘を言ってない。
そういう事でしょ?」
その答えに、私は満面の笑顔で答える。
「そういう事よ。
そして、山藤さんが、今私が嘘を言ってないと思った考えが、私の読心術モドキの始まり。」
「……なるほど。」
言った事を吟味しながら、頷く山藤さん。
「あかりちゃんには、この事言うの?」
「そうね……明日、言うわ。
でも、あの子に一度、やっているのよね。
読心術モドキ。」
「そうなの?
……いつ?」
思い当たりが無いのか、訪ねてくる。
「入学初日、あなたが、私に『あいあい』と呼んだ後。
あなたは、叩いた私を見ていたから、気づかなかったのね。
ふふ、あの時、『あいあい、可愛い。私も呼びたい』って考えていたわ。」
私は、その時の茜さんの表情を思い出し、自然に笑いが込み上げてくる。
「あかりちゃん、そんな事考えてたの?」
「ええ、間違いないわね。
あの時、私、軽くにらんだら、ビクッとしていたもの。
……でも、昨日の話を聞いてしまったら、少し申し訳ないと思うわ。」
「……どうして?」
「あの子、中学の時、いじめられてたので、人の感情を怖がるクセみたいなモノや、うかがうクセが、有るみたいね。」
「やっぱり、相子ちゃんもそう思う?」
「ええ。」
「……でも、相子ちゃん。
にらんだの、少ししか悪いと思ってないんだ?」
「ええ、だって、呼ばれたくないもの。」
「えーと……そのような呼び方をして、ごめんなさい。」
「謝罪、承るわ。
あと、私、Sっ気なんてないわよ?」
「……今のも、読んだの?」
「まあ、わかりやすいですわね。」
「はぁ、凄いね?」
「ふふ……でも、これでも嫌になる時もあるのよ?」
「そうなの?」
「ええ、でも、今回は私の事はここまでにしておいて、話を元に戻すわね?」
「もと……なんだっけ?」
「あなたが、茜さんに『ごめんね』と心で謝った事よ。」
「あ、そうだった!」
「私は、あなたのいとこ、深也さんでしたか?
あなたからと、茜さんが言ったぐらいしか、その方の情報を知らないですけど……会ってみるまで、どうこう言うつもりはないわ。
あと、今日会った先輩。」
「琢磨?」
「ええ、その方、白上琢磨だったかしら?
あの無礼者が、あなたのいとこを優先するように、私も茜さんを優先するつもりよ。」
「無礼者って」
山藤さん、苦笑している。
深也さんを大事に思うはわかるけど、あのような態度を取る人は、私、許せませんよ。
「無礼者でしょ?
山藤さんが、私達を信頼して話してくれたのに、私達が、単に面白がって聞いたと思っているところ。
茜さんの心の傷を見抜いたのは、素晴らしいですが、あのような一方的な態度では、申し訳ありませんけど、無礼者と付き合いのある……あなたのいとこには、マイナスの感情しか出ませんわね?」
「じゃあ、深也に、あかりちゃんを会わせないつもり?」
「いいえ、茜さんが、感謝の礼を伝えたいなら、邪魔にするつもりはないわ。」
私は、首をゆっくりと振る。
「とりあえず、私は見守るつもり。
その後、あなたが望む通り、2人がつき合えば、それはそれで、いいんじゃないかしら?」
「うん。」
「心の傷、お互いにおぎなえればいいわね……でも、あなたは、それでいいの?」
私は、じっと見つめる。
「ん?
当たり前でしょ?
そう思っての行動だし、それ以外になんかある?」
山藤さんは、首を傾げる。
私は、軽く息を吐き、答える。
「いいえ、あなたがそれでいいなら、私はそれで……私、茜さんが大事だと言いましたけど、あなたの事も、同じくらい大事だと思っていますわよ。
忘れないでね?」
「あ、ありがとう。
へへっ、嬉しい……ここまで、気にかけてくれるなら、そろそろ茉莉花って、呼んで欲しいな?」
顔を赤くして、嬉しそうに笑う。
「そうね……考えておくわ?」
「やったー!
進歩ありー!
んじゃ……そろそろ、私、こっち!
あとで、明日の事、電話するからー!
また、あとでー、バイバーイ。」
私の返事に、ガッツポーズし、バンザイして飛びはねる。
別れ道になり、離れていくが、振り返ってその場で、また飛びはねて両手を高く振る。
本当、元気ね?
明日、楽しくなりそう……ええ、楽しみだわ。
帰ってから、しばらくして山藤さんから、連絡があり、待ち合わせの場所と時代を言ってきた。
携帯電話に出た時の、山藤さんの緊張した声に、私が出た安堵のため息が可愛いかったわ。
おやすみなさい。
次の日になり、待ち合わせの場所にたどり着いた時には、2人は既に来ていた。
……待ち合わせより10分早いのに、もう来ているわ?
茜さん、意外にも青のジーンズ系の裾の長いジャケットに、黒の長袖シャツ、ダークブラウンのパンツね。
似合っているわ……可愛いわね。
山藤さんは、なるほど、制服の着くずしで可愛いと思った着方しているだけあるわね。
アッシュグレーのパーカーに、カラープリントされた青のTシャツ、赤系のミニスカートに黒のタイツに赤の靴。
オシャレね……似合ってる。
ちなみに私は、ゴシックまではいかないけど、白のフリルがたくさんついた黒メインのワンピースに、青のストレッチジーンズを合わせている。
寒さ対策に、青のショールを羽織っている。
……やっぱり、三者三様ね?
私がついたのに気づいて、2人は手を振っている。
ウィンドウショッピングに、お食事と、食べ歩きながらのデザート、買いたい物があれば買ったりと、いろんなところをまわり、楽しんだ。
2日目も、カラオケや、ゲームセンター、本屋にと、昨日まわらなかったような、場所をまわって、お互いの趣味や、興味のある物、上手なモノや、苦手なモノ。
時に、男のグループに声をかけられては、断ったりして、2日にかけ遊びまわった。
最後に、ファミレスによってゆっくりとドリンクを飲みながらのデザートをつつき、話は盛り上がる。
楽しかったけど、話がある程度終わった時点で、山藤さんが、いとこの話をもってきた。
「ねぇ、あかりちゃん?
明日、昼休みか、放課後に、深也呼び出すから、会わない?」
「えっ、明日?」
山藤さんの言葉に、茜さんは驚く。
「そう……あかりちゃん、会いたい先輩、深也だってわかったんだから、早めにお礼いったら、楽じゃない?」
「それはー、そうかも?」
「ん、だから、どうかな?
私もついていくよ、もちろん!」
「ええ、私もついて行くわよ。」
「……わかった、よろしくお願いします。」
茜さんは、頭を下げ、お願いした。