表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

茜 あかり~放課後~

「あかりちゃんの言う、先輩が深也なら……どうするの?」

「どういう事?」

 私は首をかしげる。

「えーとね?

 あかりちゃんが、たんに感謝の気持ちを伝えたいのか?

 それとも、告白するのかで、話が変わるの。」

「告白って……そんな?

 わ、私、そんな事考えてなかった。

 ただ、受かりましたって……。」

「茜さん、落ち着きなさい。

 ……山藤さん、かりに告白だとしたら、どう変わるのかしら?」

「うーん、どう説明しよう?

 アイツ、深也ね、この辺りの地域?

 の人なら知っている事なんだけど。

 結構なニュースにもなったし……深也、小学生6年の時、大学生のショタコン女に誘拐されて、襲われたの。」

「誘拐?」

 私と、相子ちゃんは驚いた。

「うん、2人は、私の顔ってどう思う?」

「可愛いと思う。」

「そうね、整った顔立ちだと思うわ」

「ありがとう……でね?

 私も、そういう風に言ってもらえるように、山藤一族?

 って言えばいいのかな?

 みんな、そうなのよ。」

「みんな、顔が整っているって事?」

「そう。

 特に、深也の奴、今も王子みたいなのよ。

 そんな小学生の時なんて、そこらの女の子より、可愛いかったよ?」

「そんなに?」

「一度、見てみたいわね。」

「今度、昔の写真持ってくるよ。

 ……でね、そのショタコン女、ヤバすぎでさ。

 深也、さらって性のオモチャにしようとしたらしいの。」

 当時の事を思い出して、涙目になってる。

「それって?」

「確かに、それは非道いわね」

「うん、さらわれた時は、薬を嗅がされて気絶してたらしいんだけど、女の家に着いた頃、深也、目が覚めて逃げようとしたの。

 そしたら、その女、逃げられないように……深也の両膝の上辺りに、包丁で刺したの。」

「うそ?」

「……その話、ニュースで見た記憶があるわ。

 もちろん、名前は伏せられていたけど。

 それに実家から近くだったから……そう、山藤さんのいとこの方だったのね?」

 茉莉花ちゃん、涙が流れるのを耐えて、凄く目が真っ赤だ。

 昨日、泣きたい時は、泣いてもいいんだよって、言ったのに泣かないなんて……そうか、自分じゃないから、泣けないんだ?

 相子ちゃんも、うつ向いて、何かに耐えてる。

「……。」

 私は、何も言えなかった。


 ◇◆◇


 私達は、一度席を立ち、購買の自販機に飲み物を買いに向かった。

 茉莉花ちゃんは、ブラックコーヒー。

 相子ちゃんは、無糖のストレートティー。

 私は、ホットのミルクココアにした。

 今、私達は、学食のテーブルに座っている。

 ココア、甘くて、温かくて、美味しい。

 茉莉花ちゃんは、『ごめん、もうちょっとだけ、つきあって』と言った後、黙ったまま、グラウンドを見ている。

「本当なら。」

 茉莉花が、グラウンドを見つめたまま呟く。

 私と、相子ちゃんは、茉莉花ちゃんを見る。

「本当なら……中学の時も、そして今も、深也は、あそこにいてサッカーをやってると思うんだ。

 小学生の時、深也、サッカーチームに所属してた。

 私達家族は、試合の度に、応援してたの。

 凄く上手かったよ。」

 茉莉花ちゃんは、寂しそうに微笑み、私達を見る。

「チームで、1、2を争ってた。

 まあ、争ってたそいつとは、ポジションが違って、ウマが合って、今も、深也に付きまとってうるさいけど、ね」

「なに?

 それ、俺の事?

 何の話をしているんだ?」

 茉莉花ちゃんの言葉に、急に割り込んできた男の人の声。

 聞こえた方に向くと、練習用の黒トレーナーを着た人が、自動販売機の前で、汗をタオルで拭きながら、スポーツドリンクを飲んでいる男の子がいた。

「よっ!

 マリちゃん、今の俺の事だろ?」

 そういって、私達のところにやってきた。

「……あんた、なにサボってんよ?」

 茉莉花ちゃんが、グラウンドと男の人を交互に見て、嫌そうに言う。

「別に、サボってないよ。

 今日の俺達2年以上のメニューは、外でランキング。

 今、グラウンドにいるのは、1年の奴ら。

 ちなみに、ノルマ終わって、休憩中な訳。

 それよりも、質問に答えてほしいな?」

 そこで、私と相子ちゃんを見渡し、笑顔になる。

「初めまして、君達、マリちゃんの友達?

 俺、白上琢磨、2年だよ。

 ……なんで、マリちゃんが、君達に、しんちゃんの事、話してんのか知んないけど?」

 男の人……白上琢磨さん、優しかった口調が、冷たいモノに変わった。

 その目つきも冷たく、私にはとても心が痛かった。

 相子ちゃんも、少し振るえている。

「ん?

 んー、君、そっちの人?

 君、名前聞いても……いいかな?」

「……え?」

 白上さんは、私を見て何かに気づき、何かを考えている。

 冷たかった目つきも、口調も元に戻っている。

「なんで?

 アンタに、関係無いでしょ。」

「いやい、関係有るでしょ?

 しんちゃんの事なら、特に」

 白上さんと、茉莉花ちゃんはにらみ合う。

「まっ、いいか。

 あんまり、時間無いし戻るわ。

 ……その前に、君?」

 白上さんは、私を見る。

「私、ですか?」

「うん、君、名前。」

「あの私、茜あかりです。」

「茜さん、か……君なら。

 ……じゃあ、君達、またね。」

 私の名前を聞いて、納得して部活に戻った。

 ……私、まったく納得どころか、訳がわからなかったです。

「はあぁ、よかったー。」

 茉莉花ちゃんが、深いため息も吐きながら、テーブルにのびてる。

「めちゃ、怖かったー。

 もー、タイミング、悪すぎ!

 なんで、いるのよ。」

 上体を左右にゆらし、悪態ついている。

「山藤さん、あの人なんなのかしら?

 説明してくださる?」

「私も、聞きたい」

「……だよね?

 長くなるよ?」

 上体を起こし、苦笑しなから、つめよる2人に頷き、私達も頷きかえした。


「アイツ、白上琢磨は、さっき言ってた、深也が小学生の時のサッカーチームのライバルで、クラスメイトにして仲のいい友達。

 サッカーのライバルと言っても、技術や、基本能力、体力などのライバル。

 ポジションが違うしね。

 点を取るのが、アイツで、チームのバランスを取るのが、深也。

 2人いればこそ、チームは強かった。

 なのに、深也の事件が起こって、全部壊れた。

 誘拐の直前まで、2人は一緒に帰っていて、別れた後、すぐに拐われた。

 ある意味、この事で、アイツが1番怒って、落ち込んで、悔しがってる……性格が歪むくらいに。

 まあ、今は昔みたいな、つき合いは出来る様になったけど。

 さっき2人に見せた殺気?はそのなごり。

 私が、2人に深也の事を話していたの聞いていたんだと思う。

 ……たぶん、私が話題つくりで、話していたと思ったんだと思う。

 んな、訳無いのに……ごめんね?

 凄く怖かったでしょ?


 前……中学2年の時、転校してきて、その事を知らないで、全力で動けない深也をボロクソに言ったヤツがいたんだ。

 アイツ、琢磨はブチキレて、ボコボコに殴った……全治3ヶ月。

 後で、聞いた私もザマァって思ったよ。


 まあ、それは置いといて、両膝刺された深也は、サッカーどころか、歩く事も、しばらく出来なくなった。」

 それを聞いて、私は疑問に思う。

「えっ?

 でも、先輩、試験の見送りの時、普通に歩いていたよ?

 歩くの凄く早くて、私小走りだったし?」

 茉莉花ちゃんは、私の言葉に頷く。

「うん、深也、傷が治ってから、リハビリ1年半、凄く頑張った。

 普通の生活が出来るくらいは。

 サッカーや、走り回るスポーツは、今でも全部無理。

 全力で走ると、しばらく歩くのも辛くて、痛むらしい。

 そのぶん、出来る事をやりまくって、手は器用だし、頭は元々かしこかったけど、更によくなったし、下手したら、私より、女子力高いかも?

 今は、めんどくさがってしないけどね。」

「もしかして、私……先輩に無理させた?」

 私は、たぶん不安で、顔を青くしているだろう。

「大丈夫、あかりちゃん。

 今では、深也、毎朝軽いジョグと競歩くらいを混ぜて、走ってるから、主に体力つくりだけど。」

「それに、茜さんの見送りは、先生が指示したのだから、茜さんが気にする事ないんじゃないかしら?」

「そうだよ、相子ちゃんの言うとおり!

 だから、あかりちゃんは気にしちゃ駄目!」

 相子ちゃんの言葉に、茉莉花ちゃんも同意して、慰めてくれた。

「そう、かな?」

「そうよ。」

「そうだよ。」

 2人は頷く。


 ある程度の話は終わり、今日のところは遅くなったので、帰る事にした。

「ねぇ、明日、明後日、高校生になってから、初の土日だけど、2人とも用事あったりする?」

 帰り道、茉莉花ちゃんが私達の予定を聞いてくる。

「私は特に無いわよ?」

 私は、勉強の予習をするくらいかな?

「私も……無いかな?」

「じゃあさ、じゃあさ、どこか遊びに行かない?」

「いいわね?」

「どこにいくの?」

「そうだな~?

 2人とも、この辺りの事、ほとんど知らないんじゃない?」

「ええ、そうね。」

「私も、そうだね。

 ……欲しいもの、あるけどいい?」

 こっちきてから、私、スーパーぐらいしか、行ってないんだよね?

「あ、でも……他にまわるところ有るんだったら、別にいいよ?」

 茉莉花と、相子ちゃんが顔を見合わせている。

 あ、2人ともため息吐いてる。

「あのね、あかりちゃん?

 別に、行きたいところあるなら、いくらでも言っていいんだよ。」

「そうね……茜さんは、もっと我が儘を言っていいと思うわね?」

 2人は、なにか思うところがあるのか、考えている。

「あ、あの?

 2人とも、どうかしたの?」

「よし、相子ちゃん!」

「わかっているわ、山藤さん。」

 2人は、再び、顔を見合わせて頷く。

「よっし!

 2日間、色々まわって、色々食べて、色々買うわよ!」

「ええ、茜さん!

 お金の心配はいらないわよ!

 明日から、お楽しみましょう!」

 ええー?

 2人ともなにを言っているのー?

「あはは。」

「「今から、お楽しみに!」」

「……はい。」

 2人が息が揃うとこうなるんだ?


 このあと、私は、2人と別れ、買い物をしてから、アパートに戻った。


 先輩の事がわかった。

 まさか、日頃、茉莉花ちゃんから時々話に出てくる、いとこのお兄さんだったとは。

 不思議な縁も、本当にあるんだ。

 近くのスーパーによって、明日の食パンと切れかけたジャム、その横にあったあんこのジャム?ペーストも珍しさから買ってしまい、夕食の材料もふくめ、少し重くなったが、頑張って帰宅し、夕食を作って食べ、宿題をすませ、お風呂に入る。

 お風呂といっても、シャワーでしっかりとすませた。

 節約の為、お風呂は、週に1回、または疲れた日、汗をたくさんかいた日にしている。

 本来なら毎日入りたいけど。

 帰ってから、ずっと思う。

 こっちに来て良かった。

 相子ちゃん、茉莉花ちゃん、深也先輩に、今日ちょっと会った先輩の友達……白上先輩。

 白上先輩、怖かったけど深也先輩の事を思っての行動だから、そう思うとやっぱり優しい人ばかりだ。

 大事にしたいな……。

 もう、あんな思いやだよ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ