茜 あかり~放課後~
「あかりちゃんの言う、先輩が深也なら……どうするの?」
「どういう事?」
私は首をかしげる。
「えーとね?
あかりちゃんが、たんに感謝の気持ちを伝えたいのか?
それとも、告白するのかで、話が変わるの。」
「告白って……そんな?
わ、私、そんな事考えてなかった。
ただ、受かりましたって……。」
「茜さん、落ち着きなさい。
……山藤さん、かりに告白だとしたら、どう変わるのかしら?」
「うーん、どう説明しよう?
アイツ、深也ね、この辺りの地域?
の人なら知っている事なんだけど。
結構なニュースにもなったし……深也、小学生6年の時、大学生のショタコン女に誘拐されて、襲われたの。」
「誘拐?」
私と、相子ちゃんは驚いた。
「うん、2人は、私の顔ってどう思う?」
「可愛いと思う。」
「そうね、整った顔立ちだと思うわ」
「ありがとう……でね?
私も、そういう風に言ってもらえるように、山藤一族?
って言えばいいのかな?
みんな、そうなのよ。」
「みんな、顔が整っているって事?」
「そう。
特に、深也の奴、今も王子みたいなのよ。
そんな小学生の時なんて、そこらの女の子より、可愛いかったよ?」
「そんなに?」
「一度、見てみたいわね。」
「今度、昔の写真持ってくるよ。
……でね、そのショタコン女、ヤバすぎでさ。
深也、さらって性のオモチャにしようとしたらしいの。」
当時の事を思い出して、涙目になってる。
「それって?」
「確かに、それは非道いわね」
「うん、さらわれた時は、薬を嗅がされて気絶してたらしいんだけど、女の家に着いた頃、深也、目が覚めて逃げようとしたの。
そしたら、その女、逃げられないように……深也の両膝の上辺りに、包丁で刺したの。」
「うそ?」
「……その話、ニュースで見た記憶があるわ。
もちろん、名前は伏せられていたけど。
それに実家から近くだったから……そう、山藤さんのいとこの方だったのね?」
茉莉花ちゃん、涙が流れるのを耐えて、凄く目が真っ赤だ。
昨日、泣きたい時は、泣いてもいいんだよって、言ったのに泣かないなんて……そうか、自分じゃないから、泣けないんだ?
相子ちゃんも、うつ向いて、何かに耐えてる。
「……。」
私は、何も言えなかった。
◇◆◇
私達は、一度席を立ち、購買の自販機に飲み物を買いに向かった。
茉莉花ちゃんは、ブラックコーヒー。
相子ちゃんは、無糖のストレートティー。
私は、ホットのミルクココアにした。
今、私達は、学食のテーブルに座っている。
ココア、甘くて、温かくて、美味しい。
茉莉花ちゃんは、『ごめん、もうちょっとだけ、つきあって』と言った後、黙ったまま、グラウンドを見ている。
「本当なら。」
茉莉花が、グラウンドを見つめたまま呟く。
私と、相子ちゃんは、茉莉花ちゃんを見る。
「本当なら……中学の時も、そして今も、深也は、あそこにいてサッカーをやってると思うんだ。
小学生の時、深也、サッカーチームに所属してた。
私達家族は、試合の度に、応援してたの。
凄く上手かったよ。」
茉莉花ちゃんは、寂しそうに微笑み、私達を見る。
「チームで、1、2を争ってた。
まあ、争ってたそいつとは、ポジションが違って、ウマが合って、今も、深也に付きまとってうるさいけど、ね」
「なに?
それ、俺の事?
何の話をしているんだ?」
茉莉花ちゃんの言葉に、急に割り込んできた男の人の声。
聞こえた方に向くと、練習用の黒トレーナーを着た人が、自動販売機の前で、汗をタオルで拭きながら、スポーツドリンクを飲んでいる男の子がいた。
「よっ!
マリちゃん、今の俺の事だろ?」
そういって、私達のところにやってきた。
「……あんた、なにサボってんよ?」
茉莉花ちゃんが、グラウンドと男の人を交互に見て、嫌そうに言う。
「別に、サボってないよ。
今日の俺達2年以上のメニューは、外でランキング。
今、グラウンドにいるのは、1年の奴ら。
ちなみに、ノルマ終わって、休憩中な訳。
それよりも、質問に答えてほしいな?」
そこで、私と相子ちゃんを見渡し、笑顔になる。
「初めまして、君達、マリちゃんの友達?
俺、白上琢磨、2年だよ。
……なんで、マリちゃんが、君達に、しんちゃんの事、話してんのか知んないけど?」
男の人……白上琢磨さん、優しかった口調が、冷たいモノに変わった。
その目つきも冷たく、私にはとても心が痛かった。
相子ちゃんも、少し振るえている。
「ん?
んー、君、そっちの人?
君、名前聞いても……いいかな?」
「……え?」
白上さんは、私を見て何かに気づき、何かを考えている。
冷たかった目つきも、口調も元に戻っている。
「なんで?
アンタに、関係無いでしょ。」
「いやい、関係有るでしょ?
しんちゃんの事なら、特に」
白上さんと、茉莉花ちゃんはにらみ合う。
「まっ、いいか。
あんまり、時間無いし戻るわ。
……その前に、君?」
白上さんは、私を見る。
「私、ですか?」
「うん、君、名前。」
「あの私、茜あかりです。」
「茜さん、か……君なら。
……じゃあ、君達、またね。」
私の名前を聞いて、納得して部活に戻った。
……私、まったく納得どころか、訳がわからなかったです。
「はあぁ、よかったー。」
茉莉花ちゃんが、深いため息も吐きながら、テーブルにのびてる。
「めちゃ、怖かったー。
もー、タイミング、悪すぎ!
なんで、いるのよ。」
上体を左右にゆらし、悪態ついている。
「山藤さん、あの人なんなのかしら?
説明してくださる?」
「私も、聞きたい」
「……だよね?
長くなるよ?」
上体を起こし、苦笑しなから、つめよる2人に頷き、私達も頷きかえした。
「アイツ、白上琢磨は、さっき言ってた、深也が小学生の時のサッカーチームのライバルで、クラスメイトにして仲のいい友達。
サッカーのライバルと言っても、技術や、基本能力、体力などのライバル。
ポジションが違うしね。
点を取るのが、アイツで、チームのバランスを取るのが、深也。
2人いればこそ、チームは強かった。
なのに、深也の事件が起こって、全部壊れた。
誘拐の直前まで、2人は一緒に帰っていて、別れた後、すぐに拐われた。
ある意味、この事で、アイツが1番怒って、落ち込んで、悔しがってる……性格が歪むくらいに。
まあ、今は昔みたいな、つき合いは出来る様になったけど。
さっき2人に見せた殺気?はそのなごり。
私が、2人に深也の事を話していたの聞いていたんだと思う。
……たぶん、私が話題つくりで、話していたと思ったんだと思う。
んな、訳無いのに……ごめんね?
凄く怖かったでしょ?
前……中学2年の時、転校してきて、その事を知らないで、全力で動けない深也をボロクソに言ったヤツがいたんだ。
アイツ、琢磨はブチキレて、ボコボコに殴った……全治3ヶ月。
後で、聞いた私もザマァって思ったよ。
まあ、それは置いといて、両膝刺された深也は、サッカーどころか、歩く事も、しばらく出来なくなった。」
それを聞いて、私は疑問に思う。
「えっ?
でも、先輩、試験の見送りの時、普通に歩いていたよ?
歩くの凄く早くて、私小走りだったし?」
茉莉花ちゃんは、私の言葉に頷く。
「うん、深也、傷が治ってから、リハビリ1年半、凄く頑張った。
普通の生活が出来るくらいは。
サッカーや、走り回るスポーツは、今でも全部無理。
全力で走ると、しばらく歩くのも辛くて、痛むらしい。
そのぶん、出来る事をやりまくって、手は器用だし、頭は元々かしこかったけど、更によくなったし、下手したら、私より、女子力高いかも?
今は、めんどくさがってしないけどね。」
「もしかして、私……先輩に無理させた?」
私は、たぶん不安で、顔を青くしているだろう。
「大丈夫、あかりちゃん。
今では、深也、毎朝軽いジョグと競歩くらいを混ぜて、走ってるから、主に体力つくりだけど。」
「それに、茜さんの見送りは、先生が指示したのだから、茜さんが気にする事ないんじゃないかしら?」
「そうだよ、相子ちゃんの言うとおり!
だから、あかりちゃんは気にしちゃ駄目!」
相子ちゃんの言葉に、茉莉花ちゃんも同意して、慰めてくれた。
「そう、かな?」
「そうよ。」
「そうだよ。」
2人は頷く。
ある程度の話は終わり、今日のところは遅くなったので、帰る事にした。
「ねぇ、明日、明後日、高校生になってから、初の土日だけど、2人とも用事あったりする?」
帰り道、茉莉花ちゃんが私達の予定を聞いてくる。
「私は特に無いわよ?」
私は、勉強の予習をするくらいかな?
「私も……無いかな?」
「じゃあさ、じゃあさ、どこか遊びに行かない?」
「いいわね?」
「どこにいくの?」
「そうだな~?
2人とも、この辺りの事、ほとんど知らないんじゃない?」
「ええ、そうね。」
「私も、そうだね。
……欲しいもの、あるけどいい?」
こっちきてから、私、スーパーぐらいしか、行ってないんだよね?
「あ、でも……他にまわるところ有るんだったら、別にいいよ?」
茉莉花と、相子ちゃんが顔を見合わせている。
あ、2人ともため息吐いてる。
「あのね、あかりちゃん?
別に、行きたいところあるなら、いくらでも言っていいんだよ。」
「そうね……茜さんは、もっと我が儘を言っていいと思うわね?」
2人は、なにか思うところがあるのか、考えている。
「あ、あの?
2人とも、どうかしたの?」
「よし、相子ちゃん!」
「わかっているわ、山藤さん。」
2人は、再び、顔を見合わせて頷く。
「よっし!
2日間、色々まわって、色々食べて、色々買うわよ!」
「ええ、茜さん!
お金の心配はいらないわよ!
明日から、お楽しみましょう!」
ええー?
2人ともなにを言っているのー?
「あはは。」
「「今から、お楽しみに!」」
「……はい。」
2人が息が揃うとこうなるんだ?
このあと、私は、2人と別れ、買い物をしてから、アパートに戻った。
先輩の事がわかった。
まさか、日頃、茉莉花ちゃんから時々話に出てくる、いとこのお兄さんだったとは。
不思議な縁も、本当にあるんだ。
近くのスーパーによって、明日の食パンと切れかけたジャム、その横にあったあんこのジャム?ペーストも珍しさから買ってしまい、夕食の材料もふくめ、少し重くなったが、頑張って帰宅し、夕食を作って食べ、宿題をすませ、お風呂に入る。
お風呂といっても、シャワーでしっかりとすませた。
節約の為、お風呂は、週に1回、または疲れた日、汗をたくさんかいた日にしている。
本来なら毎日入りたいけど。
帰ってから、ずっと思う。
こっちに来て良かった。
相子ちゃん、茉莉花ちゃん、深也先輩に、今日ちょっと会った先輩の友達……白上先輩。
白上先輩、怖かったけど深也先輩の事を思っての行動だから、そう思うとやっぱり優しい人ばかりだ。
大事にしたいな……。
もう、あんな思いやだよ……。




