茜 あかり
私は、茜あかり。
この春から公立鷹ノ坂高等学校に入学した新1年生です。
中学生の時、いじめに合いいじめに合い不登校になりかけた事がありました。
辛い目に合いましたが、私の場合、担任の先生が親身になって、いじめを止めさせてくれたので、なんとか卒業するまで頑張れました。
高校は、先生の助言もあり、他県の高校……この鷹ノ坂高等学校に入学出来ました。
でも、入試試験の時、早めに家を出たけど、まだ嫌がらせを陰でしていた人達が、待ち伏せをしていて、それに気づいた私は遠回りしている間に、余裕で間に合うはずだった電車に乗り遅れ、あわや入試を受けられなかったかもしれませんでした。
遅刻しましたが……受けさせてもらえて良かった。
教室を案内してくれた男の先輩が優しく、応援してくれたので、入試も落ち着いて答えを書く事が出来、お礼がしたいのですが、当時、先輩は風邪をひいていて、風邪マスクをしてたので、顔を覚えていません。
名前も聞く事が出来ませんでした。
……いじめで人付き合いが下手になり、直ぐに謝る癖もついて、散々です。
高校に入ったら、絶対友達作るんだ。
後、先輩に会いたい。
この気持ちが、なにかわからないけど、せめてお礼がしたい。
あの時は、ありがとうございました、と。
両親と離れ1人暮らしを始めて数日、入学式に向かいました。
両親は、『行けなくてごめんね』と連絡があり、仕方がないのですが少し寂しいです。
クラスを確認し、教室に入り出席は名簿順だった為、窓側2番目の席に座りました。
今までは『あか』の文字で1番目が多かったのですが、前の席、愛川さんという女の子が座っていました。
話そうとしたのですけど、緊張して声がかけれません。
困っていたら、振り向いた愛川さんが話しかけてくれました。
どうやら、愛川さんも声をかけるのに緊張していたそうです。
仲良くなれそう。
でも、愛川さんお嬢様みたいで、とても綺麗。
頑張って聞いてみたら、やっぱりお嬢様だそうです。
その為、この高校に友達がいないそうで困っていたみたい。
それから先生が来て、先生の自己紹介を聞いて、担任の先生が女の先生で良かったーと思っていたら、入学式の為、体育館へ向かいました。
校長先生の話が短かったです。
教室に戻り、私達の自己紹介を名簿順にしていきました。
最後の山藤茉莉花さんという子の自己紹介が面白かったけど、みんな、山藤さんの見た目で、笑うのを遠慮してました。
……私もです。
天罰でしょうか?
席替えが行われました。
残念ながら、愛川さんとは席が離れ、隣に山藤さんが座られました。
中学で私をいじめていた人を思い出し、少し怖いです。
山藤さんは何故かこちらを、チラチラと見てきます。
この後、先生からの報告や、注意などを告げ、今日は解散となりました。
終わり次第、山藤さんが話しかけてきました。
「あのさ、さっき順番に自己紹介したけど、あらためて、私、山藤茉莉花。
よろしく!」
あれ?
笑顔可愛い?
あ、返事しなきゃ。
「えっと、私、茜あかりです。
よろしくね?」
返事をかえしたのが、山藤さん嬉しかったのかな?
話し始めた山藤さんは、凄く早口で、いろいろ言ってくる。
え~と?
別にグレても、不良でもなくて?
茉莉花って呼んでほしくて?
なにか、いろいろ私の呼び方言ってたような?
……とりあえず、『あかあか』はやめてほしいな?
あ、愛川さんが後ろに立った。
愛川さんに注意されて、山藤さん落ち込んだ?
たまに暴走するみたい。
凄く凹んで机に突っ伏している。
えっと、友達作りたかっただけだよね?
……その気持ち、凄くわかる。
どうしたら立ち直るかな?
あ、そうだ!
「あの……茉莉花ちゃん?」
「今、なんて?」
凄い勢いで起きあがり、手を握ってきた!
立ちなおり早くない?
「え、えっ?
茉莉花、ちゃん?」
満面の笑顔でよろこんでるけど、凄く顔が近い。
……あれ、誰かと雰囲気が似ているような気が?
マジ天使って、そこまで?
あ、愛川さん、山藤さんに、頭チョップした。
ゴスッって?
痛そー?
山藤さん、うずくまって頭押さえてる。
恨めしそうな涙目で見上げてるの山藤さん、ちょっと可愛い?
「あはは。」
そっか?
困ったら、ハッキリ言っていいんだ……いいのかな?
でも、手は出したら、ダメだよね?
う~ん?
山藤さん……愛川さんの事、『あいあい』って呼んだ!
『あいあい』……私の『あかあか』に合わせたのかな?
ふむふむ?
愛川の愛に、相子の相があいで、『あいあい』!
なるほど、『あいあい』か……可愛いな。
私も『あいあい』呼びたいな。
おさ~るさーんだよ~。
あれ?
愛川さんに、今睨まれた?
……あれ?
私、声に出してた?
でも、山藤さんは反応してない。
やっぱり声出てないよね?
「んじゃ、相子ちゃん?」
「……まあ、それでいいですわ。」
あ、山藤さん、そう呼ぶ事にしたんだ?
いいみたい?
相子ちゃんは、顔を少し赤くなって目をそらした。
これって、いわゆるツンデレ?
「あ、じゃあ、私も相子ちゃんで呼びたい。」
私も便乗しよ!
「ええ、構いませんわ、さきほども挨拶しましたが、改めてよろしく。
茜さん。」
やった!
「それと、山藤さん。
私は普段からこういう話し方ですので。」
「うん、わかってる。
……でも、いつかは、茉莉花って呼んで欲しいな。」
「……努力して、みますわ。」
再び視線そらして、ソッポ向いた。
……ツンデレ可愛いな。
こうして、入学初日に友達2人も出来た。
嬉しいな。
次の日から、休み時間はもちろん。
お昼時間も、一緒にご飯を食べている。
でも、お昼ごはんは購買でパン2つと牛乳を買って来て、教室で食べるんだけど、その間、2人に待ってもらうのが申し訳ないな。
隣の食堂、のぞいたら結構な人がお弁当、持ってきて食べてるみたい。
食堂のメニューも気になるし、戻ったら2人に話してみようかな?
……あ、先輩、いないかな?
探してみたけど、人が多くてわかんない。
あきらめよう、2人も待っているし、早く戻らなきゃ。
ちなみに、買ったパンは、あんパンと、その日の気分でサンドイッチ。
今日は、ハムレタスサンドです。
あんパンと牛乳は、絶対に外せません!
この組み合わせは、ベストマッチだと思うの!
引っ越ししてから、頑張って自炊するようにしてるんだけど……まだ、早く起きるのが、ちょっと苦手で、簡単に、焼いた食パンと焼いた玉子、時間があればオムレツ、なければ焼いたベーコンと、スクランブルエッグ、もしくは目玉焼き、もっと時間がなければジャムだけですましてる。
もうちょっと早く起きれれば、朝食の残りをつめたお弁当を作れるんだろうけど。
そうすれば、お昼時間、すぐに食べれるんだけど。
朝弱いから……相子ちゃん、茉莉花ちゃん、ごめんなさい。
そう思いながら、すでに4日目。
2人は大丈夫だよって、言ってくれてる。
本当、ごめんなさい。
教室に戻って、茉莉花ちゃんの机と合わせて、3人で食べる。
あいかわらず2人のお弁当、美味しそうだな?
相子ちゃんのお弁当は、お手伝いさんが作ってくれてるんだって、バランスよくてきれい。
茉莉花ちゃんは、意外にもって言ったら失礼だよね。
自分で作るだって、可愛いお弁当。
それでいて美味しそう……凄いな。
これには、相子ちゃんも同意している。
茉莉花ちゃん、照れてる。
可愛い。
「そういえばさ?
今日で4日目のお昼ごはんだけど……あかりちゃんのぱんって、あんパンと牛乳は絶対にあるよね。」
机にならべたパンと牛乳を見て、不思議そうに、茉莉花ちゃんは聞いてくる。
「あら?
でも、サンドイッチもありますわよ?」
茉莉花ちゃんの言葉に、相子ちゃんは反論する。
「うん、そうだけど、挟んであるのは違うよね?」
「それは……そうですわね。」
「あんパンと牛乳、好きなの?」
2人は、私を見て聞いてくる。
「うん……そうなの。
だって、あんパンと牛乳って、凄く合うんだもん。
美味しいよね!」
私がそう言って、ちょっと力説すると、2人は目を丸くし、驚いていた。
「……あかりちゃん。
あんたは、刑事ドラマの定番ネタか!」
立ち直った茉莉花ちゃんが、椅子から腰を上げて、突っ込みをいれた。
すると、教室に残っていた人達も、私達の会話が聞こえていたのか、声を出して笑っている。
見ると、相子ちゃんも声には出していないが、横を向いてお腹を押さえ笑っている。
後で、聞いた話。
相子ちゃんは、昔から刑事ドラマが好きで、よく見ているんだそうだ。
茉莉花ちゃんの突っ込みは、たしかにそうだと思い、私も一緒に笑ってしまった。
よく考えたら、中学からここまで、こんなに笑ったの、久しぶりかも?
そう思っていたら、茉莉花ちゃんが焦って聞いてくる。
「あかりちゃん?
ご、ごめん、私、なんか悪い事、言った?」
「えっ、なんで?
そんな事ないよ?」
「でも……」
そう言って、茉莉花ちゃんは、ポケットからハンカチを渡してくる。
そこで、私、涙を流している事に気がついた。
相子も、クラスのみんなも、心配している。
私は、茉莉花ちゃんからハンカチを借りて、涙を拭き、中学の頃を話した。
相子ちゃんと、茉莉花ちゃんは立ち上がって、私の横にきて左右から抱きしめてくれた。
「つらかったのね?」
「うん、頑張ったね?
……あかりは、泣きたい時は泣いたらいいんだよ?」
2人の優しい思いやりを感じ、私はしばらく泣き続けた。
クラスのみんなも心配し、泣いてくれている人もいる。
このクラスの人達も優しい人ばかりだ。
この学校にきて良かった。
後から戻ってきた人達も、泣いている私の事を聞いて、心配し声をかけてくれる。
この日から、相子ちゃん、茉莉花ちゃん以外にも、クラスのほとんどの人達と友達になった。
◇◆◇
次の日、昨日の事で、少し恥ずかしいと思いながも、すれ違ったクラスの友達と挨拶し、一緒に登校している。
校門の手前で、先輩がいるかと思い立ち止まり、辺りを見渡していると、私を心配して声をかけてくれる。
友達に断って、先に行ってもらい、校門の前で先輩を探す。
本当、ごめんなさい。
登校時間も、もう少しで終わりとなり、登校する人達も減ってきたが、先輩は見当たらなかった。
「あかりちゃん、おはよー。」
とつぜん聞こえた声に驚き、振りかえれば茉莉花ちゃんが、手を振りながら登校してきた。
「え?
あ、おはよー、茉莉花ちゃん。」
「誰か探してるの?」
あわてて挨拶をかえすと、茉莉花ちゃんが尋ねてくる。
「えーと、うん、そうなんだ。」
見られてたんだ……恥ずかしいな?
「えー、誰、誰?
私に、教えてー?」
「あはは、ここじゃ……ちょっと。」
そう言うと、茉莉花ちゃんは真面目な顔になり。
「わかった。
今日の放課後でも、誰もいないところで……相子ちゃんは、必要?」
……茉莉花ちゃんって、時々するどいね?
相談してみようかな?
そう思い頷いた。
◇◆◇
放課後、私は2人に入試試験日の事を話した。
……遅刻した理由は、相子ちゃんは気がついたみたいだけど、スルーしてくれた。
その後も、話を続きをきいて、2人は相づちをうったり、心配してくれた。
途中から先輩が教室までの見送りの事や、階段での出来事や、廊下で騒いでしまった時の先輩がかばってくれた話に、突っ込みを入れたり、親近感をもったり、感心したりしている。
話が終わりに向かうにつれ、茉莉花ちゃんが顔をしかめていく。
先輩が、受付けで他の女の先輩達に『山ちゃん』とか、『しんちゃん』って呼ばれてた事を思い出し、そう2人に言うと、茉莉花ちゃんが心当たりがあると言って、逆に質問してきた。
「身長は、どれくらい?
細いけど、結構、筋肉質とか?」
「1つじゃないわね。」
相子ちゃんが突っ込む。
「身長……170センチくらい?
もうちょっと、あったかな?
筋肉質……そうかも、結構、しっかりしてて、力強かったもん。」
私がそう言うと。
「……じゃあ、ほぼ間違いないかも?
その先輩、山藤深也……私のいとこの兄ちゃんかも?」
「……いとこ?」
心当たりの先輩が、まさかの、茉莉花ちゃんの話で、よく出てくるいとこのお兄さんだった。
この後、少し暴走した茉莉花ちゃんを、相子ちゃんがチョップでとめ、涙目で頭を押さえながら、茉莉花ちゃんは先輩の事を話してくれる。