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第七話です。

ケース3:にのみやたいち(1/2)


田中「まったくさぼりすぎです。血税で働いている自覚を持ってください。」

ぼく「ごめんなしゃい・・・」


 車内で田中さんに叱られる。たしかに今回はひどかった。開始10分で退室してしまった。ひなちゃんプログラムベストタイムだ。


田中「次、新しい方ですので気を引きしめてください。」

ぼく「ひゃい・・・」


田中「こちらの方ですね。『二宮太一』さん。年齢51歳、両親なし、職歴なし、高卒、結婚もされてません。」

ぼく「」

田中「Nレベルは5、母親が亡くなってからアパートの家賃滞納が続いています。」


ぼく「・・・無理ゲーじゃね?」

田中「レベル5においては普通レベルですね。」

ぼく「まじ・・・?」


 『3ちゃんねる』でしか見たことがないような人間が現実にいるのだと自覚する。

 Nレベルがマックスの対象者は、死んでいるか生きているのかあやしい存在だと、JNROのほかの職員が愚痴っていたのを聞いたことがあるが、なるほど、ゾッとする。上には上がいる、というかぼくなんかより、よっぽどエリートニートを堪能しているではないか。



 そうこうしているうちに二宮さんのアパートに到着する。


ピンポーン


田中「初めまして二宮様、JNROの田中とこちらぼくです。」

ぼく「どうも」

二宮「・・・どうも」



「・・・・・・」



田中「・・・家にあがらせていただいてもよろしいですか?」

二宮「え?あ、うん・・・」オドオド


 と、押し入るような形で田中さんとぼくはおうちにあがらせてもらう。中はごみ屋敷同然だった。二宮が二人分の座る場所を足で作る。

 思わす嗚咽が漏れそうなのをおさえながら、しぶしぶ座る。田中さんはこんな時でも涼しい顔をしている。


田中「えー、では・・・」


 いつも通りの尋問が始まるかと思ったが、どうやら今回は対象者とどういった対策を立てるかを練るようだ。対象者の現状を聞き、対策を半ば強引に田中さんが決めていく。

 ひきニートにはこういう強制力がなければ行動は起こさない。


田中「・・・こんなところですか。ぼくさんの意見を聞かせてください。」

ぼく「賛成でーす。」ウンウン


 クラス会でもしてるのか、脳死しているとしか思えない返事をする。今回はこれからの対策を決めて終わりである。



 事務所への帰り際ぼくは田中さんに聞いてみた。


ぼく「田中さんはレベル5の対象者を担当したことってあるんですか?」

田中「ありますよ、56歳でしたね。」

ぼく「おー!これは頼もしい!」

田中「一度だけですけどね。」

ぼく「んじゃんじゃ!今は更生して働いてるんですか??フヒヒw」


田中「亡くなりました」


 その答えにぼくは沈黙する。田中さんのその無感情な語り口のせいだろうか、まるで川に水が流れるのと同じくらい当たり前のことのように聴こえた。きっと病気とかだったのかな、などと希望的観測をしてしまう。


 聞きたくはなかったが聴かずにはいられなかった。


ぼく「・・・ご病気だった、とかですよねw」

田中「自殺でしたね。プログラムの中盤、アルバイトを始めたての時、ご自宅の近くの池に入水自殺でした。」

ぼく「・・・」


田中「他人から自尊心を守るためにひきこもる。ひきこもれば自分自身が自尊心を傷つけ始める。」

田中「年齢とともに過敏になるか麻痺していくかどちらかです。」

田中「ひきこもることで麻痺させていた感覚が目覚め、彼はそれに耐えきれなかったのでしょう。」


 あまりにも淡々とした田中さんの分析を聴きながら、ぼくはただ沈黙することしかできなかった。

 田中さんのほうに目をやると瞳はうるんでいるように見えた気がした。いや、そうであってほしかっただけだろう。いつもの田中さんだった。





プロ「久々の大物ね!!!あんたたち!気をひきしめて取りかかりなさい!!!」

ぼく「うええ、くっさいよぉ・・・」

田中「口でなく手を動かしてください。」

二宮「・・・」


 5日後、二宮邸の大掃除が始まった。プロの指導のもとごみ屋敷だった部屋は、なんということでしょう!一日で広々空間へと一変したのだった。

 自分の部屋でもないのに、なかなかどうしてすがすがしい気分になるのはなぜだろう。この手の適性があるのかもしれない。

 

 すると木製の引き出しの中に通帳を見つける。デリカシー皆無のぼくは迷いなく中身を見る。20万円きっかり入っている。


ぼく「なんですか?この通帳?

二宮「ッ!!!」

ぼく「いて!なにするんですか!!盗ったりしませんよ!!」


 二宮さんが勢いよくぼくの手から通帳を奪い取る。まあ自分の通帳を見られたらそりゃ怒るか、などとやらかしてから理解する。


 つぎは田中さんがぼろぼろになった料理本を拾い上げる。


田中「二宮さんお料理に興味あるんですか?」

二宮「かなり、むかし、もうなにも」オドオド

田中「アルバイト先、ファミリーレストランの厨房とかどうですか?」

二宮「いや、おれは、できないし」オドオド

ぼく「ぼくも最初はなにもできませんでしたよ」

二宮「で、も、」アウアウ

ぼく「こういうのは深く考えるより安直なほうがいいんですよwフヒヒッw」


 田中さんのファインプレーに乗っかり、ぼくはコネのあるファミレスに二宮さんを誘導できた。


 それが功を奏したのだろうか。一週間後、スムーズに二宮さんのアルバイト先を斡旋することができた。



佐藤「ついにクビになったかwwwぼくよwww」ガハハww

バイト「ぼくさん、お久しぶりっす。だいぶ雰囲気変わりましたね。」

JK「ぼくさんが美人さん連れて帰ってきたー!!」

田中「・・・。」


 久しぶりに訪れた元アルバイト先へ行くと、意外にも歓迎されて驚いた。バイトをしているときはミスばかりしていたからいい思い出なんてないはずなのに。


ぼく「ぃ、いや佐藤に頼みがあって・・・」



かくかくしかじか・・・・・・



佐藤「ぼくの頼みじゃあ断れないっちゃwww」ガハハww

ぼく「ほんとか!?ありがとう!!」

田中「よろしくお願いいたします。」


佐藤「おけまる水産wwこの人がバイトで雇ってほしい二宮くんね、よろしくwww」ガハハww

二宮「あ、あの、うん、よろしく、おねがい、します」オドオド

ぼく「それじゃあ少しずつ、頑張ってください!!」

二宮「は、い」アウアウ


 さすが飲食店の店長というだけあって、佐藤は51歳のニートという爆弾をまえにしてもいつもの調子を崩さない。正直、ここでのバイト経験がコネとして活きるとは思わなかった。

 最初はどうなることかと思ったが、かなりスムーズではないか。たかが数字にびびっていた自分がばかばかしい。このまま順当にいってくれれば万事解決だ。



田中「・・・。」

ぼく「?田中さん、どうかしました?」

田中「いえ、大丈夫なのでしょうか?あの職場で。」


 前回のレベル5の方を想起しているのだろうか。ファミレスを後にした田中さんの言葉からは、いつもより慎重な様子がうかがえた。

 ぼくのお墨付きだ、と自信満々に言って田中さんを安心させることに試みる。まあ、感情を出さない人だから全然効果は見られないが。経過観察はいつものケースよりは多めに取る予定だ。




カランカラン


JK「あ、ぼくさんと田中さーん!!いらっしゃいませ~!」ニコニコ!

ぼく「やあ、二宮さんちゃんと来てる?」ニチャアw

JK「来てますよぉwぼくさんより使えるっす、ってバイト君、昨日言ってましたよおww」

ぼく「うぐっ」


 バイトはやはりあたりが強い。経過観察は今回で6回目になるが、2週間もたっていない。慎重に慎重を重ねているのだ。おかげで二宮さんとももうすでに打ち解けたような気もする。ぼくも元レベル5だからシンパシーを感じるのかもしれない。


 そしてファミレスの休憩室で、対談する。ありきたりなマニュアル質問を終えると、つい元従業員だったぼくの失敗談を延々と話してしまう。


ぼく「これwwこのメニュー作ってるときに店長の顔面に卵ぶつけちゃってwwフヒヒッww」

二宮「デュフッwwそ、うなんだ、やらかしすぎ、でしょw」

ぼく「まだまだあるんですよーwフヒッww」


田中「あの、そろそろ・・・。」

ぼく「えー、わかりました」

二宮「あ、ありがとう」

ぼく「いえいえ、それではがんばってください!」

田中「頑張ってください。」


順調である。二宮さんにも出会った時の暗い雰囲気は消えつつあった。笑顔も見ることができるようになった。


JK「ぼくさんとどんなことはなすんですかあ?」ニコニコ

二宮「ぼ、ぼくくんの、ばいと、してたときの、はなし、とかかな?デュフw」

JK「ぶははーwおもしろそーww」

佐藤「こらー!JKwwさぼるなあーww」ガハハww

JK「わーwすいませーんww」


 ほかのメンバーともうまくやってるみたいだ。今日は出勤していなかったようだが、前々回の経過観察では、鬼門だったバイトのやつも認めてくれているようだった。


 二宮さんを見ていると、過去の自分はもしかしたらこんな風に映っていたのかもしれない。なんて思ってしまう。ぼくは田中さんに急かされ車に乗り込む。





 12回目の経過観察ではもう十分に社会復帰しているといっていいくらいだった。


 まさかNレベル5の生死も危ういひきニートがわずか2か月程度で、ほぼ社会復帰するとはだれも思わなかっただろう。彼の底にはまだあったのかもしれない。明日を生きようとする根気が。


バイト「いらっしゃいm・・・ああ、ぼくさんと田中さん、例のあれっすか」

ぼく「う、うん。二宮さん、ちゃんと来てる??」

バイト「ぼくさんとちがって無遅刻無欠勤っすよ」

ぼく「うっ、ごめん」

バイト「ほら、早く仕事始めたらどうすか」

ぼく「うん!」


 前まではただきつく感じていただけの、バイトの辛口も今はなぜだか今は暖かく感じる。そして13回目の経過観察を始める。2か月前のエリートひきニートだった彼の面影はどこにもない。



ぼく「えー、コホン。最近のお加減はいかがでしょうか?」

二宮「ははwぼくくん無理に作らなくてもいいよw」

ぼく「いやあ、本当に素晴らしいです。この短期間でここまで更生する方はいませんよwフヒッw」

二宮「ぼくくんと田中さん、それに同僚の皆さんのおかげだよ・・・」

田中「いえ、あなたの実力です。誇りに思ってください。」

二宮「実力、なんて・・・何もできないクズでしたから、救ってくれてありがとう。」


ぼく「フヒヒッwぼくも元レベル5、末期ニートだったんですよーw」

二宮「どうりで他人の気がしなかったわけだ・・・w」


 などと笑い話をしながら、ぼくは彼の更生の成功をかみしめていた。きっかけさえあれば誰だって、どこからだってもう一度歩き出せるのだ。

 アルバイトの失敗談は語りつくしても尽くせなかったのでキリのいいところで早めに切り上げる。



ぼく「では、このあとも頑張ってください!」

田中「頑張ってください。」

二宮「はいっ!」




 心地のいい返事を聞いて、田中さんと車に戻る。今はとてもほがらかな気分だ。車に乗り込むと浮かれ気分で田中さんと話す。この後の仕事を無視して田中さんをカフェにでも誘いたい気分だ。


ぼく「いやあー、2か月前はどうなるかと思ってたのが、これですよ!うまくいくもんですねえ!」

田中「・・・」

ぼく「ん?なんか食べたいものでもあったんですか?w」


 二宮さんの経過観察は終わったというのに、後にしたファミレスをバックミラー越しに眺めている。つられてぼくも振り返ってみてみると、これから出勤であろうJKが裏口に向かっていくのが見えた。




田中「いえ、うまくいきますよね、きっと。戻って報告書をまとめましょう。」

ぼく「?そうですね!ゴー!!」


つづきます。

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