第五話です。
ケース2:しおたひな(1/2)
田中「今日はこのお宅です」
ぼく「はーい」
バイト時代は不規則な時間の勤務が多かったが、二か月もすれば勤務形態にも業務内容にも慣れていく。田中さんの無感情すぎる性格にも慣れた。規則的な生活に戻り、美人と行動を共にすることで、ぼくの性格まで変わったような気がする。
更生プログラムに組み込んだほうがいいな、これは、うん。
田中「対象者の家庭は母、息子、娘の母子家庭ですね。そのうち対象者は娘さんになります。」
ぼく「ふむふむ・・・」
田中「今から10年前に離婚、旦那の倒産が原因とのこと。」
ぼく「ほおほお・・・」
田中「娘さんのNレベルは1、小学6年生、1年生の冬から学校に通っていません。」
ぼく「レベル1かぁ、なるほどぉ・・・え、小6?てことは12歳??(ロリキター!!)」
田中「ええ、そのはずです。息子さんは中学2年生ですね。おそらく父親g」
ぼく「いや、え?それって中学校行けるんですか??」
田中「入学はできますよ。義務教育なので。」
ぼく「そ、そうなんですか・・・」
田中「しかし、入学したとしても今のままでは“中学生”にはなれないでしょうね。」
JNROは不登校児も担当している。むしろ若ければ若いほど難易度が下がるため積極的だ。鉄は熱いうちに、という考えなのだろう。
ぼくももちろん不登校を経験している。しかし高校からだ。田中さんは、人格形成が定まっていないから楽だ、とは言うが、小1から小6まで不登校のサラブレッドに、たかだか1年程度の不登校児のひよっこが理解してやれるとは思えなかった。
ピンポーン
田中「JNROの田中とこちらがぼくです。」
ぼく「どうも」
ママ「あら、時間ぴったりね。じゃ、あがってもらえる?」
少し古めの五階建てマンションの二階の一室。
この方が今回の対象者『塩田ひな』ちゃんのお母さん、バツイチである。ニコニコと快活そうで、ぼくと同じ30代とはとても思えない美人だ。
ママ「いま、お茶出しますねー」
そういって出されたお茶と茶うけが目の前に出される。ぼくは迷うことなくもぐもぐと食べながら、田中さんのママさんへの尋問タイムを眺めたり、部屋を見渡す。
すると、ふすまのすき間から小さな瞳でこちらをのぞく女の子がいた。おそらくあの子が「塩田ひな」ちゃんだろう。
ぼく「フヒヒッw」
ぼくが微笑みかけると、恥ずかしがり屋なのか隠れてしまった。尋問がひと段落したところでママさんが娘さんを呼び出す。
ママ「ひなー!おいでー!」
ひな「・・・」タッタッタッ
ママ「おー、よしよしー」ナデナデ
ひな「だれ・・・?」ギュッ
ママ「んー、ひなのお友達になってくれる人だよ~」ニコニコ
肌は白く母親に似て美人な娘さんは、ふすまの向こうからひょこっと出てくると、すぐにママさんの後ろに隠れ、おびえたまなざしでぼくらを見やる。
今のやり取りだけでもわかるがそこまで重症のような感じはない。むしろ見ていてほほえましい温かい家庭といった印象だ。ぼくは友好の証として先ほどのように微笑む。
ぼく「フヒヒww」
ひな「ママ、こわい・・・」ギュッ
ママ「え?あ、ごめんなさいねぇw」クスクスw
田中「ひなちゃん、はじめまして。田中って言います。よろしくね。」
ひな「おねえちゃん、美人・・・」ジーッ
ママ「あらあら」ニコニコ
格差は否めないが、自分の顔立ちは十分理解しているつもりだった。しかし、こんな小学生にまで格差をまじまじと見せつけられると案外傷つく。ショックと傷心によってこの場にいることがいたたまれなくなる。
ぼく「田中さん、ぼく外に出てますね・・・」
田中「ええ、そのほうがいいでしょうね」
とどめの一撃を田中さんに決められ、泣く泣く退室の道を選んだ。
軽くマンションの周りを歩いていると、すでに懐かしい思い出の恩人がいた。
ぼく「佐藤、ひ、ひさしぶり」
佐藤「んぉ!?ぼく!ぼくじゃないかwwwおひさーww」ガハハww
ぼく「悪いな、あの時は急に辞めて・・・」
佐藤「んにゃ!もう謝ってもらってんだから終わりさwww」ガハハww
ぼく「そ、そうかwなんでこんなとこに?」
佐藤「ここのスーパーの肉がなw安いんだあ、これww」ガハガハww
そういって佐藤は背後にあるぼろぼろののれんを下げた、こじんまりとしたお店を親指で指さす。たしかに大きくふくれた買い物袋を下げている。さすがはファミレス店長だけあって、こんな穴場も知っているというわけか。
佐藤「お前、がんばってるんだってなww友として鼻がたけえよおww」ガハハノハww
ぼく「ぇ、そんなことないさw」
佐藤「スーツも似合ってるしなぁwww」ガハハww
ぼく「そうか?wきつくって仕方ないけどなwwフヒヒッw」
佐藤「なんか困ったことあれば言えよおwww」ガハハww
ぼく「お、おうwありがとうw」
しばらく談笑したあと、じゃあの、と佐藤がいつもの調子で笑いながら、手をひらひらと振る。本当に佐藤は優しい。優しすぎるくらいだ。悪い奴に騙されないか不安になるくらいに。
ぼく「フヒッ・・・w相変わらずだな、あいつはw」
佐藤「あ、そうそう!お前よく笑うようになったなwww」ガハハww
帰り際、わざわざ振り返って佐藤が言った言葉にぼくは体が熱くなる。恥ずかしいとかではなく、ただただうれしかった。
ぼく「どうでした?」
田中「おおむね良好でしょう。他人と接しなさ過ぎて小学6年生にしては言葉が少したどたどしいですが、お母様とはスムーズな会話ができています。」
ぼく「そうですかぁ、田中さんはなつかれてもらえました?w」
田中「ええ、私と話すことで対人慣れさせていこうかと」
田中「ぼくさんも一応、ついてください。この世は女だけではありませんので」
ぼく「」
勝てない。ちょっと嫌味な質問をしたつもりだったが、ノーダメージな田中さんだ。もっとも彼女が傷ついてるとこなんて見たことないが。深海の底に沈められた沈没船の気分だ。
田中「このあとも2件訪問があるので、気を抜かないでくださいね」
ぼく「はい・・・」
久々の佐藤との再会に感慨深い思いを感じながらクロのご飯を準備する。
ぼく「クロ、ごはんだよー」
クロ「にゃーん」
つづきます。




