第四話です。
ケース1:こばたとおる(2/2)
JNROに勤務して10日が経つ。
今日は初日にしくじった小畑家の息子とおるくんへの再訪問である。例の一件の後の調査によるとNレベルはフェイズ3まで上昇。親権者のみの解決不可とのことである。
そしてぼくもこの10日間なにもしていなかったわけではない。なれない週5勤務でへとへとになりながらも、相方の田中さんのことも理解しつつ、『最速のコバルトブルー』が立てた過去スレを漁ってみたりもした。どうやら元陸上部で親のことをあまりよく思っていないらしい。
まあ全くの別人なら徒労に終わるわけだが、しかし頭はいいのだろう、どのスレも読みやすく興味深い内容だったのは事実である。
田中「行きましょうか」
ぼく「ええ、行きましょうとも!」
ピンポーン
ガチャリ、と開いた玄関にはその暗い雰囲気のせいだろうか、まえに会った時より痩せたように見える小畑ママがいた。
小畑ママ「帰ってくださいッ!!!かえれぇぇぇェェェェ!!!!!!」
ぼくら二人を見やると途端に人が変わったように荒れ始めた。
歓迎はされないと思っていたが、ここまでだとぼくもさすがに委縮してしまう。すると遅れて小畑家の大黒柱、小畑パパが現れる。
小畑パパ「ほら、落ち着いて、私が相手するから・・・」
田中・ぼく「申し訳ございません」
小畑パパ「いえ、こちらこそ見苦しいところを見せてしまいましたね」
小畑パパ「とりあえず上がってください」
お言葉に甘え、もう一度小畑邸に足を踏み入れた。
客室に案内されるとぼくは真っ先にトロフィーに目をやった。
「全国中学校陸上競技大会準優勝」「U-18陸上競技選手権入賞」・・・ビンゴである。希望は確信に変わる。
小畑パパ「ああ、すごいでしょう?とおるが獲った賞はすべて客室に飾っているんですよw」
ぼく「ええ、とってもすごいです。ぼくなんてこんな立派なトロフィー、一度ももらったことがないですよw」
小畑パパ「とおるは優勝できなかった『無能』のトロフィーなんか飾るな、なんて言うんですけれどね・・・w」
田中「どうしてです?全国大会に出場するだけでも大したことじゃないですか。」
小畑パパ「陸上をやめてからかなぁ、大した怪我でもないのに辞めてしまって、受験勉強に専念したのですが、プライドが高いせいかうまくいかず・・・」
小畑パパ「じぶんは『無能』だ、なんだと口にするようになりまして」
怖いくらいに計算通りだ。いやスレッド通りか。こんなまじめな状況の中でぼくは、個人的な出来事を書くのは控えよう、などと考えていた。
周りの意見を長めに聴くようにしようという作戦を田中さんにも言っていたせいか、一時間以上話し込んでしまった。
ぼく「それではとおるくんの部屋の前まで案内していただけますでしょうか?前回のような無礼なことは決していたしませんので!」
小畑パパ「・・・わかりました」
そしてもう一度この部屋の前に立つ。田中さんには手出ししないようにパパさんと階下にて待機させている。
深く深く、深呼吸する。・・・そしてぼくは扉の向こうにいる彼に声をぶつける。
ぼく「最速のコバルトブルー!!!聴こえているか!!!!」ドン!
とおる「!?」
ぼくには視えている、今の『小畑とおる』という男の表情が。たとえ彼が扉の向こうにいたとしても。
彼の文章、かすかだが彼の本心、24年という短い半生。そのわずかな断片にぼくはふれてきたのだから。
ぼく「ぼくはにーとまん!!!スレッドの海を超えてここに爆誕だァ!!!」
とおる「・・・」
ぼく「機関がこわいか!才能に追われるのが!捨てた自分に責められるのが怖いかッ!!」オラァ!
ぼく「鍛え上げた足で今まで逃げ続けてきたものなァ!?」
とおる「ッちがう!!!!」
狙い通り、『最速のコバルトブルー』では自分は見えない、よって計算高い彼は煽られることはない。
だが、ここにいるのは『小畑とおる』、自分に迷い続けているだけのただの若者なのだ。
そしてプライドが高すぎる奴ってのは煽られるともろい。
ぼく「今のお前じゃあ、ド素人のぼくにだって勝てないだろうよ!!」
とおる「くッ!!!」
ぼく「陸上なんてただ逃げるように走るだけだもんなぁ?!ww」
とおる「てめぇっ!!!!!」
彼の本当に好きなものをぼくは知っている。好きなものにどれだけ執着しているのかを。
扉は勢いよく開かれる・・・映るのは形容しがたい感情に顔を歪め、汗や涙だので十分に濡らし、怒りをついに露わにした、夢を追いかけていた青年だ。
ぼく「逃げ足でぼくに勝てるやつはいないさ」
とおる「・・・あんたが『にーとまん』なのかよ」
ぼく「このわがままボディにすら君は勝てないんだよ」プヨプヨ
このときばかりはこのだらしないからだが役に立った。腹部のあり余ったぜい肉たちをぷるぷると揺らしてやる。
そして何を思ったのか、彼にケツを向け、ぼくはがに股で全力☆煽りダンスを始める。
ぼく「ぬなッ!?!?」ビリブリュッ!
ぼくのスーツの間から元気よく顔を出したパンティーは部屋からこぼれるエアコンの冷気にさらされた。
とおる「『にーとまん』、イメージ通り過ぎるぜ・・・」
支離滅裂な感情は笑顔に変わり始める。というより彼はあきれ始めているようだった。
二週間後、ご両親の報告によると外出も以前よりも増え、社会人の陸上クラブに入会したらしい、経過観察でもNレベルは著しく下がっているようだ。就職とまではいかなかったようだが、ニートやひきこもりが、数日で急変して解決することはない。
ゆっくりでも彼は走りだすことができたのだろう。ぼくらはまた止まってしまわないように祈るだけだ。
ぼく「フヒヒwその後はどうだい?『最速のコバルトブルー』くん?w」
とおる「その呼び方はやめてくれ。まあまあってとこさ・・・」
ぼく「そうかw・・・あ、そうそう君は『有能』なんだと思うよ」
とおる「ッ?・・・おれ、なんて・・・」
ぼく「だって君はぼくに自信をくれたんだからw」
なんて臭いセリフを吐いて、お腹のかわいいベイビーをつまんで揺らす。
プログラム最終段階の、他人に興味を持たせる常套句らしい。マニュアルセリフなのだが恥ずかしすぎて、つい冗談めかしてしまう。
とおる「・・・はい!w」ニコッ
今回はおそろしいほどに、運よくことが進んだとは思うが、自信につながったのは事実だ。願わくば『小畑とおる』という人間をまた更生させることがないことを望もう。
そしてぼくのパンティーが二度と辱めを受けないことを。
つづきます。




