第三話です。
ケース1:こばたとおる(1/2)
~二日後~
着なれない窮屈なスーツを着て「相方」を待つ。どんな人間かいやでも妄想してしまう。
二糸みたいなおっさんはいやだなぁ・・・
ピンポーン
きた。時間ぴったりだ。
ぼく「はーい」
玄関を開けるとすらりと伸びた長身にモデルのような顔立ちのクールビューティが立っていた。田中さんである。
ぼく「た、田中さん!?相方って田中さんなんですか?」
田中「ええ、男女のペアが基本ですので。同僚としては、はじめましてですね」
ぼく「あ、はい。はじめまして!」
田中「では、さっそくいきましょうか」
ぼく「はい!」
こんな美人とペアを組まされるなんて人生ではじめてのことだった。もうここで死んでもかまわないとすら思える。田中さんの運転する社用車に乗り込む。心なしか甘い香りがする。
すると田中さんが分厚くファイリングされたとあるページのプロフィールをみせる。
田中「今日はこの方の更生に当たります。『小畑とおる』さん、Nレベル1なのでぼくさんでも協力できるかと」
ぼく「24歳かぁ、わかいね。」
田中「父は公務員、母は専業主婦。兄弟なし、高校卒業後就職したのち半年で退職、以降再就職なし、就活もしていないようです」
JNROではニートや不登校、ひきこもりの深刻度を5段階に分けているらしい。
これをNレベルと呼んでいる。
ちなみにぼくはレベル5から這い上がった猛者なのだと二糸は言っていた。知る人ぞ知る「にーとまん」はエリートニートである。
では出発しましょうか、と田中さんはそういって車を走らせ始めた。
田中「つきました。このお宅ですね。お母様がいらっしゃるのでまずはお母様からお話を伺いましょう」
ぼく「え、あ、そうだね。フヒヒw」
小畑ママ「うちのとおるはとっても賢いんです!高校でもトップでしたし、東大に行かせるはずだったんですぅ!」
小畑ママ「部活はやめさせて、塾にも通わせて、とおるは必ず幸せになるはずだったのに・・・どうしてこんなことにぃ!」
田中「なるほど、わかりました。とおるさんとは普段会話はされていますか?」
小畑ママ「いえ、さいきんはあんまり」
田中「顔も合わせていないのでしょうか?」
小畑ママ「いえ、夕食は家族で食べてます・・・。そのときに・・・」
田中「外出は月にどれくらいされていますか?」
小畑ママ「日中は出てきません・・・深夜に外出はしているみたいですが一週間に一度くらいです」
田中「ぼくさんはどう思いますか?」
ぼく「んあぇ?」モグモグ
田中「話、聞いてましたか?」
ぼく「え、あ、うん。と、とおるくんが話せるみたいなら直接話してみないとわからない、かなぁ?フヒヒw」
茶菓子をほおばりながら、家のインテリアを見ていると、田中さんが意見を聞いてきた。ママさんの話はほとんど聞いてなかった。というか涙声でしゃがれてほとんど聞き取れなかったので適当な返答をする。
なによりも今はスーツがきつい。
田中「そうですね。話せなくはないようですし、ご本人の部屋まで案内いただけますか?」
小畑ママ「え?・・・はい」
ママさんがそう答えるとぼくたちは立ち上がり、とおるくんのいる自室の前に案内された。
田中さんがドアノブに手をかけ・・・部屋の扉を開けた。開けてしまった。
ぼく「ッ!?ちょっ!!!」
田中「なんです??」
とおる「!?」
カーテンを閉め切り真っ暗な自室にうっすらとPCのディスプレイの光に照らされた青年が、まるで宇宙人でも見たかのような驚いた顔でこちらを見やる。
数秒とたたないうちにその驚きの表情は消え、怒りの感情があらわになる。
・・・ヤバい、と思うと田中さんの手を引いて、自室の「領域」から勢いよく外に出す。
「領域」に残ってしまったぼくは、怒りに我を忘れたとおるくんに思いきり押し飛ばされる。
ぼく「うわっ!!」
倒れながらぼくはPCの画面に目をやってしまう。男のさがだろう、エロ動画でも見てるのかと思ったからだ。ぼくが床にしりもちをつくと同時にドアがバタンッ!!と壊れんばかりの勢いで閉ざされる。
とおる「うワああアあァあ!!!くるなア!!!!クソ糞くそ糞クソクソくそォ!!!」ドンドンドン!!
ドアの内側から青年の耳障りな奇声と、今にもドアを蹴破ってしまそうなまでの怒りが家中に響く。ママさんは顔を覆い泣いていた。
戦犯の田中さんにどうすんだよ!と文句の一つも言ってやりたくなったが、当の本人は驚くほど涼しい顔をしている。勢いよく着地した自分のプリケツを撫でながら起き上がる。
ぼく「いてぇ・・・」
田中「対話はダメみたいですね。」
ぼく「あ、あんたなぁ・・・!」
小畑ママ「でてってェ!!!でてってよオ!!!!!!」
ぼくが糾弾するよりもはやくママさんのとおるくんに負けずとも劣らない、もはや悲鳴のような甲高い声が突き刺さる。
ぼくは平謝りしながら、田中さんの手を引いて逃げるように家を出た。バイトで謝ることはたくさんあったが、二度も逃げるように家を出る経験をするとは思わなかった。
ぼく「はぁはぁ・・・なんであんなこと・・・」
田中「まさかNレベルが上がっているなんて思いませんでした。私のミスですね。」
田中さんは冷静だ。まるでバグってしまったゲームデータを正常に戻すプログラマーかのように。その悪びれもしない態度に怒りがわいてしまう。
ぼく「あんたわかってんのか!・・・ひきこもりに、ていうか健全な男子の部屋にいきなり入ったらああなるでしょ・・・」
田中「?」
勢いづいた怒気はは第一声でどこかに飛んでいく。田中さんは理解できていないようだ。
ぼく「田中さんはいつもこういうやり方で更生させるんですか・・・?」
田中「いえ、以前は相方のサポートをメインにしてましたので、一人で執務するのはほとんど初めてです。」
ぼく「」
田中「今回は仕方がないですね。日を改めて後日伺いましょう。」
そういって田中さんは停めておいた車に向かって歩き出す。車に乗り込むとまたファイルを開く。
田中「次はこちらの方です。彼女は更生プログラムの終盤ですので経過観察ということになります。」
ぼく「はい・・・」
正直今の一件でぼくの精神は疲弊しきっていた。ぼくがプロフィールをぼんやりと眺めていると田中さんが車を走らせる。
ぼく「あと何人くらい訪問するんですか?」
田中「今日は彼女で最後になります。」
ぼく「案外、少ないんですね・・・」
田中「対象者の方にもご予定がありますからね。訪問が終わっても書類をまとめたり計画書を作成したりと忙しいですよ。」
ぼく「そうなんですか・・・」
いろいろあったが初勤務はおわった。のっけからもう、続けられる気がしない。クールビューティだとは思っていたが、田中さんがあそこまで薄情だとは思わなんだ。
ぼく「クロー、ごはんだよー」
クロ「にゃーん」
ぼく「・・・おてっ!」
クロ「にゃん?」
ぼく「フヒッwごめんごめんwはい、ごはん」
クロにご飯をあげながら、今日のことを思い出していた。こばたとおる、か。小畑邸は金持ちそうだった。
インテリアも高級そうで統一感あったし、たぶんとおるくんの功績であろうトロフィーがたくさん飾ってあった。そして最後に見たとおるくんのPCのディスプレイ。とおるくんもネラーなのかと思うと勝手な親近感がわいてくる。
ぼく「今日のことでスレ立ててたりしてw」
特定厨というわけではないが、なんとなく調べてしまう。帰巣本能というのだろうかニートスレを見ていると落ち着くのだ。
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[謎の機関に攻めこまれた]
1 名前:最速のコバルトブルー
部屋まで侵入してきやがった、お前らも気をつけろ!!
2 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
Gか、侵入されたら1000匹はいると思っていい
3 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
それJにでも立てろカス、ここニート板やぞ
4 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
組織の侵入を確認!プランデルタに移行するッ!
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13 名前:最速のコバルトブルー
俺は生粋のニートだぞ!にーとまんが前にスレ立てしてた
JNROが攻め込んできたんだよ!
14 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
なにそれ、じぇんろ?
15 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
>13ニートをステータスと勘違いする奴www
16 名前:ニートまんこ
そういえばあれ以来、あんまし見なくなったな。にーとまん
17 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
>16ちゃんと更生(抹消)されたんだろ
18 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
それっぽいのはたまに来るなぁ、だまってれば帰るが
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みつけてしまったかもしれない。こばたとおる、でコバルトということなのだろうか。そうこうしている間に日付が変わっているではないか。
明日も出勤ということもありぼくは素早く布団をかぶるのだった。
つづきます。




