第二話です。
ケース0:ぼく(2/2)
~3日後~
ピンポーン
来た。政府の方だろう、書類にあちらから使いをよこすと書いていた時間ぴったりだ。
正直、大家の取り立てなんかよりよっぽど怖い。
ぼく「はーい」
ガチャリとドアを開けると自分より長身のスラリとしたモデルのような顔立ちの女性がスーツ姿で立っていた。美人だった。
田中「私、日本ニート更生機関JNROの田中と申します。ぼく様のお宅でお間違いなかったでしょうか?」
ぼく「あ、はぃ、ぼ、ぼくです。」
田中「かしこまりました、では『サンプル提供』にご協力いただけるということでよろしいでしょうか?」
ぼく「え、ええ」
田中「ありがとうございます。車を用意していますので、こちらで目的地へご案内いたします。」
ぼく「わ、わかりました・・・」
こんな美人と会話するのは初めての経験だったので、自然と声がうわずり、震えてしまう。
そしてぼくは促されるまま車に乗った。運転手は別にいてドラマで見るようなごついSPのような男だった。アンケートのようなものを書かされながら車に揺られ、郊外から少し離れたところにある施設に到着した。
施設では田中さんに案内されながら、科学者か何かだろう、唾液だの血液をとられたり、わけのわからん問題を解かされたりした。
田中「こちらで最後になります。私はここまでですので」
そういって施設の一番奥の部屋の扉の前に案内され、田中さんはすっと消えてしまった。開けろ、ということなのだろうか?疑う余地もなくぼくはノブに手をかける。
ガチャリ・・・
??「やあ、よくきたね!」
扉を開けると一人の60前後くらいだろうか、きっと上の地位なのだろう恰幅のいいスーツ姿の男が机を挟み向かい合せたイスに座らずにブラインダーの間から外を眺めている。
ブラインダーの隙間から漏れる光に頭皮はきらめき、幻想的だった。
ぼく「あの・・・」
二糸「ん?ああ、そうか君は初めましてかw私は二糸直三!日本ニート更生機関JNROの最高責任者であり、更生労働省長官さ!」
ぼく「そ、そうなんですね。あのぼくはどど、どうs」
二糸「まあ、座りなよ!いろいろ取られて疲れただろうw」
二糸の年齢にそぐわない元気のいい声に気圧されながらぼくはゆっくりイスに腰掛ける。
二糸「まぁ、最後は面接だ。君からいろいろ聞きだそうと思ってねw」
ぼく「はぁ・・・」
面接といってもいわゆる圧迫面接ではなかった。ただニート時代なにをしていたか、立ち直るきっかけは?とかありきたりな質問ばかりだった。
一時間ちかく談笑をまじえながら質問攻めだったが二糸の人柄からだろうか苦ではなかった。
二糸「お疲れ様!今日のプログラムは終わり!協力ありがとう!」
ぼく「ぃえ、こちらこそ」
二糸「それじゃ!結果は数日後、ぼくくんあてに郵送するね!」
日は落ちてあたりはすっかり薄暗くなっていた。そして田中さんが来た時と同じ車の前で待っていた。
田中「お疲れさまでした。ご自宅までお送りいたします。」
ぼく「おねがいします」
車に揺らされると一瞬で寝落ちしてしまった。面接のせいだろうか、なつかしいものばかりが夢に出てきたのを覚えている。
クロ「にゃーん」スリスリ
ぼく「つかれたぁ、あんなに話したのも久しぶりだったなぁ」ホッ
一か月後、ぼくはいつものルーティンをこなしている。ニートに毛が生えただけの日常だ。
ぼく「おつかれさまです」
バイト「おつかれっす」
JK「おつぽんです!」
佐藤「おつかれーwwwカツカレーwww」ガハハww
ぼく「ただいま」
クロ「にゃーん」
クロがあの日と同じように封筒をくわえてくる。またぼくは怪しげな封筒をおそるおそる開封する。
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『日本ニート更生機関JNRO』
~~~~様
更生労働省長官:二糸 直三
【結果報告書】
~~~~様、先日の「サンプル提供」にご協力いただきありがとうございました。
日本ニート更生機関JNRO職員試験の「合格」を報告させていただきます。
つきましては入社式に出社いただきますようお願いいたします。
同封されている「JNRO入社式日程」目を通したのち遅刻厳禁で出社していただくようにお願いたします。
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ぼく「へ?」
合格?入社式?何を言っているのか理解できない。聞きなれない言葉の数々に思考が迷子になっていく。もう一枚の同封された書類に目をやると「JNRO入社式日程」と書かれてある。
明日が入社式らしい・・・・
ぼく「急すぎる!!!!」
封筒をよく見るとだいぶ前に届いているらしい。きっとクロが隠していたのだろう。戦犯のクロを見やるとのんきに毛づくろいしてやがる。運よくバイトが休みでよかった。
ぼく「はあ・・・正直に話して辞退しよう」
~翌日~
ピンポーン
来た。本当時間ぴったりだ。
ぼく「はーい」
玄関を開けると一か月前と同じすらりと伸びた長身のモデルのような顔立ちの美人が立っている。田中さんである。
田中「お久しぶりです。入社式の送迎にて参りました。」
ぼく「え、あの・・・」
田中「なんです??」
ぼく「・・・なんでもありません」
田中「・・・スーツとかないんですか?」
ぼく「いや、あの・・・」
田中「まあ服装の指定はありませんしね、では行きましょうか」
ぼく「はい・・・」
結局本心を言い出せないまま田中さんに促されるまま来てしまった。女性と会話するのに慣れてないぼくには難易度が高すぎたのだ。しかもこんな美人に・・・
入社式は前の施設でなく、政府の管轄下のビルで行うらしい。37歳はじめての入社式である。
二糸「よくきてくれたねぇ!」
ぼく「あの、申し訳ないのですが・・・」
二糸「なにかな!!」
ぼく「ぅぐ、あの辞退させていただきたくて・・・」
二糸「んぇ??入社を!?えぇ!!どおして!!」
ぼく「バイトもありますし・・・自分が悪いのですが目を通したのが昨日でして・・・」
二糸「あーバイトね!根回ししといたから!君帰るとこないよ!!」
ぼく「え?」
二糸「それにさ!正社員になるわけだし前より安定!高収入!win-winだね!」
なんだかんだと言い絆された結果、ぼくのバイト先にはすでに連絡していて退職扱いになっているそうだ。しかも給料は今までの三倍。正直断る理由もなくなってしまったぼくはJNRO職員の道を選んだのであった。
二糸「・・・とまあこんな感じだから!これからがんばってね!!!」
二糸「あとスーツ買ってね!経費で落とせるから安心してね!」
二時間近くの説明を受け、ぼくは帰宅した。どうにも納得いかないような感じもするが、正社員、しかも公務員ってだけで胸を張れるし、金があって困ることはないだろうということで首を縦に振ってしまった。
職務内容としては名の通りでニートや引きこもり、不登校児を対象に家庭訪問などで更生させよ、という旨だった。二日後、職務上の相方を派遣してくれるとのことらしい。詳しい業務はその相方に教えてもらえとのこと。
正直、元不登校ひきこもりのエリートニートだからって他人のニートがどんな理由で落ちこぼれたかなんてわかるわけがない。なんて考えてしまうが今はスーツの買い方からググらなければならない。
ぼく「なるほど・・・うえっ、こんなに高いのかよ!ウニクロはダメと・・・」
クロ「にゃーん?」
ぼく「おーよしよし、ぼくが公務員だってさ!笑っちゃうよね!!」
つづきます。




