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最終話です。

ケース5:にいとなおぞう



二糸「なぜここに呼ばれたかは、わかるね?ぼくくん?」

ぼく「はい・・・」

二糸「まったく、やってくれたものだよ」

ぼく「・・・」



 例の一件(のちに『第一次ぬぷら抗争』と呼ばれることをこの時のぼくは知らない)の後、当たり前だが、ぼくは上司である二糸直三のお叱りを受けていた。



二糸「もう君は用済みかもしれないねえ・・・」

ぼく「!?そ、それだけは!クビだけはあ!!!」



二糸「・・・仮に、今回のことが一回目だとしよう」

ぼく「」ウンウン!


二糸「一回目ならば、私は寛大にも許せたかもしれん!しかしッ!!!」

ぼく「」ビクッ!


二糸「最近の君の業務態度は耳に入ってきていてね、はっきりいって目に余る!!!」

ぼく「はうっ!!!!」グエー



 ぼくは一か月後に退職ということとなった。まあ、納得の結論ではあった。

 高校中退の元不登校ひきこもりニート正社員雇用なし、負のロイヤルストレートフラッシュのような37歳がいきなり公務員なんてうますぎる話だったのだ。



田中「ぼくさん、どうでしたか?」

ぼく「うえーーーーん!田中しゃあん!!お別れだよお!!!」

田中「気持ち悪いのでやめてください。」

ぼく「」


 この美人との短い青春にも別れの時が来たのだと思うと心底悲しい。













 そして一か月後、世間ではとあるゲームに影響されすぎた公僕とキッズがネット界隈を騒がせていた。



二糸「今日でお別れだね。ぼくくん」


ぼく「はい、あの、ご迷惑おかけしました」

二糸「迷惑だけでもないさ、君のおかげでJNROの認知度が急上昇したのは事実だからねぇ・・・」

ぼく「え、ま、まさか・・・」

二糸「同時に信用を地の底まで叩き落したんだけどもね」

ぼく「」



二糸「お疲れ様、ぼくくん」

ぼく「あの、最後に聴かせてください。」

二糸「なにかね?」






 ぼくは聞かずにはいられなかった。いや、聴くべきなのだ、と確信していた。


 どんなにここで時間を稼いでもぼくが退職するという結果は変わらない。だが、何か違う結果が変わるような気がしていた。





 ぼくはこの一か月、田中さんとの別れがいやすぎてペラペラと話しまくっていた。そこで一つ疑問に思ったことがあったのだ。



ぼく「ぼくって対象者だったんだよね?」

田中「ええ、そのはずですね、Nレベル5の重症患者だったと記録にありました。」

ぼく「うぐっ・・・い、いやでもJNROの職員さん来たことないんだけど?」

田中「それはおかしいですね。前に記録を見たときは7年前に登録となっていたはずですが。」


ぼく「7年前って、JNROが始まった年かあ・・・」

田中「似たような組織はもっと昔からたくさんあったはずですよ。」

ぼく「そっかあ」


田中「一番不可解なのは、ぼくさんが職員になれたことですけどねw」クスッw




 こんなやり取りをぼくは退職当日に思い出していたのだ。











ぼく「ぼくは本当にレベル5だったんですか・・・?」

二糸「うん?そうだよ?」

ぼく「それはおかしい!ぼくには経過観察なんてなかったし、7年前ぼくは佐藤に拾われて・・・」






二糸「ああ、気付いちゃったか。」






 ごくり、その一言に息をのむ。重大な真実を知る前ってのはこんな気分なのだろうか。


 怖くもあるがここまできたら聴かずにはいられない。





二糸「7年前に一人の女が死んだ・・・」


 そういって二糸は語り始める。













二糸「私が過去に深く、深く、愛していた女だ。」


二糸「その女は自分が死ぬ直前、私に手紙を送ってきた。」


二糸「手紙には二人の息子に寵愛を向ける母の姿があった。」


二糸「私は当初計画していた政策を前倒し、実行させた。もちろん私情のためだ。」


二糸「息子の旧友を総当たりした。そして協力的な人間を探し、見つけだした。」


二糸「そこから私の行う初めての『ニート更生プログラム』が始まった。」


二糸「協力者は優秀であった。たちまち息子を立ち直らせることに成功した。」


二糸「もう一人の協力者は職員から選別した。厳しいが愛のある男だった。」


二糸「そして息子は更生した。」


二糸「その息子が私の政策の最初の成功者だった。」









ぼく「・・・」


 ぼくはすべて理解した。二糸はブラインダーの隙間から、外を眺めながら語っていたのでぼくからは表情は見えなかった。それでよかった。






ぼく「なぜぼくを職員にしてくれたんですか・・・?」


最後の質問だ。これで終わる。JNRO職員としてのぼくが。








二糸「ははっwそんなことかw」

二糸「もう一人の協力者からの熱い推薦があってねw」







 振り返った二糸は心底嬉しそうだった。ぼくは泣いていた。ただたまらなく嬉しかったのだ。

 この一年に満たないJNROでの勤務はぼくにとって本当に感慨深いものだった。辛すぎることもあった。思い出はどれも色濃く、忘れることはできない。








 すこしだけぼくはニートであったことを誇らしくなれた、そんな気がするんだ。


















ぼく「ありがとう、父さん」

二糸「・・・ああ、悪くないな」











ぼく「本当にお世話になりましたー!!」

田中「お疲れさまでした。ゲームはほどほどにしてくださいねっ!」


ぼく「そういえばニートって英語だと、きちんとした、って意味なんですよ」

田中「?」

ぼく「だから田中さんもきちっとしてるし、ニーt」

田中「冗談でもやめてくださいw」


 職員のみんなから冷やかされながらぼくは退職した。









ぼく「うわ!」


ガシャーンッ!グチャア・・・


バイト「ちょ!ぼくさん!なにしてんすか!」

ぼく「ごめんww」ニコニコ

バイト「なに笑ってんすか!9番卓さんっすよね!?なるはやっすよ!」

ぼく「ご、ごm」

バイト「謝んなくていいから、早く作り直してください!・・・戻ってきても変わらねえ」

ぼく「うん・・・w佐藤もごめん・・・w」ニコニコ

佐藤「ぶははwwドンマイどんまいwwww」ガハハッww


ドタバタドタバタ!


ぼく「お疲れさまでした!!」

バイト「おつかれっす」

佐藤「おつカレーwwwカツカレーwww」ガハガハwww



 やはりぼくにはこっちのほうが性に合っているようだ。相変わらずミスは絶えないが。







 例の一件のおかげでぼくのJNRO職員としての給料はすべてパーになった。しかし、ぼくは後悔なんて微塵なかった。


 月並みだが、お金よりも大切なものをたくさん手に入れられたのだから。


 公務員なんてきちっとしたもの最初からぼくには向いてなかったのだ。






 アルバイトだろうが正社員だろうが、ぼくはニートではないのだ。これからもずっと!!!


 ノーニートノーフューチャーだぜ!!!


おわりです。読んでくれてありがとう。

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