第十話です。
ケース4:やすだかずと(2/2)
~2か月後~
田中「和人くん、どうしてフリースクール行かなくなっちゃったのかな?」
和人「知らない。いきたくない」ピコピコ
ぼく「ヤバい!そこ裏どりされてる!!!」ピコピコ
和人「うそ!?うわー!!あとは頼みます、師匠・・・!」ガクッ・・・
ぼく「かずとくーーーーん!!!!」ピコピコ
ぼくさんは本当に何をしているのか。ゲームをしに来てるわけじゃないというのに。
不登校の子が不登校にまた戻るなんてことはよくある。マニュアル通りに進めればもっとスムーズなのだが、ぼくさんとゲームをしているせいで余計な時間を食っている。
和人「ゲームの世界に行けたらなぁ・・・」
ぼく「和人くんが大人になったらVRが楽しみだね!!」
田中「はあ・・・。」
思わずため息をついてしまう。このところほかのお宅でも調子を崩されてばかりだ。こんなことならぼくさんを立ち直させるんじゃなかった、などと考えてしまう。
ついにまともな面談が今回はできなかった。
田中「ぼくさん、今日ゲームしかしてなかったですよ。」
ぼく「うっ、ごめんなしゃい・・・」
田中「次のお宅では自重してください。」
ぼく「ひゃい・・・」
そして1週間後、また安田和人くんの更生にあたる。最初はおばあ様への報告からだ。
ぼくさんはおばあ様に一礼すると、まっすぐ和人くんの部屋に向かう。私は客室でお茶を出されながら状況報告を行う。
田中「今回まではこのような進捗状況で・・・。」
祖母「はあ・・・そうなんですね」ハア・・
田中「では、和人くんをよんでいただけますか?」
祖母「ええ・・・かずくーん!いらっしゃーい!!」
・・・・・・
10分程度話すと、おばあ様が和人くんを呼ぶ。しかし返事はなかった。おかしいわね、とつぶやきつつ、おばあ様が和人くんを部屋まで呼びに行く。
和人くんが返事をしないのはまだしも、ぼくさんがいるはずなのに出てこないのはおかしい。二人でゲームに熱中しすぎているのだろうか。
祖母「・・・ご、ごめんなさいね。どこかに行ってしまったのかしら・・・いなくって」
田中「え、ぼくさんもですか?」
祖母「う、うーん。そうみたいねえ・・・」
首をかしげながら、おばあ様はそう私に伝える。ゲームでは飽き足らず、今度は脱走したようだ。
田中「私、探してきます。どこか和人くんが行きそうな場所はありますか。」
祖母「え、うーん。歩いて5分くらいのところに公園があるけれど・・・」
田中「行ってきます。」
おばあ様から道を聞くと、私は車を走らせた。昼時だというのに、早上がりの学生に道をふさがれながらも公園にたどり着く。
そこにはぼくさんと和人くんがきゃっきゃと騒いでいた。冬に差し掛かろうかというこの時期に、ぼくさんはスーツまで脱いで、飛び跳ねている。
ついに気でも狂ってしまったのだろうか。
とりあえず駆け寄ってみると水鉄砲を片手に二人で撃ち合っているようだ。気が狂っていた。
田中「なにしているんです。」
ぼく「うぇ・・・?ぬ、ぬぷらとぅーん!!!」ビュッビュッ!
私が質問すると、ばつの悪そうなぼくさんが、ばしゅばしゅ、と絵の具を溶かしたような水を充填しているのだろう、パステルカラーの水を天空に打ち出す。
そして子供のような言い訳をする。見るに堪えなかった。
田中「なに考えてるんです。」
ぼく「」
和人「師匠が、VRが完成する前に死ぬのは嫌だー!っていうからー!w」
何より罪深いのは和人くんを巻き込んでいるということである。
すると先ほどの学生たちだろうか、3人組が公園の周囲の柵の向こうから何やらへらへらと近づいてくる。
和人くんが彼らに気付くと、急におどおどし始める。同級生にこのような痴態をさらせばこうなるのは明白である。
学生A「あれ?wwかずとじゃねwww」
学生B「まじじゃんwwwやっばwwwひさびさ見たわwww」
学生C「なにしてんだwwwあれwwww」
田中「和人くんの知り合いですか?」
3人組はなんとなく嫌な笑みを浮かべながら、こちらに向かってくる。私が質問すると腰を小さく丸めた和人くんは小さな声でつぶやく。
和人「ぼくをいじめてたやつらだ・・・」
それを聞いて私は早く撤収しなければと思い、和人くんの手をつかもうとする。が、それをぼくさんに制止される。
そして、絵の具を溶かした水で底が見えなくなったバケツから、もう一つの水鉄砲を取り出し、和人くんの手の代わりと言わんばかりにつかまされる。
ぼく「これより敵影の殲滅に当たるッ!!和人くん!田中さん!行くぞォ!!」
和人「え、し、師匠!?」
ぼく「やらなきゃやられる・・・戦場は命のやり取りだッ!迷えば死ぬぞッ!」
和人「で、でも・・・」
ぼく「ぼくに続けェ!!!キエエエエエアアアアアアアアア!!!」
右手にびしょ濡れの水鉄砲を持ったまま、私は立ち尽くしていた。タガが外れたようなぼくさんの狂気に思考が停止する。
ぼくさんは最後の人間性だったTシャツを脱ぎ捨て、パンツ一丁で3人組に特攻する。それに感化されてしまったのか和人くんまで服を脱ぎ捨て、奇声を発しながらぼくさんの後を追ってしまった。
ぼく「キョエエエエエエエエエエアアアアアアア!!!!」
和人「ピエエエエエエエエエイイイイイイイイイ!!!!」
学生ABC「な、なんだ!?!?あいつら!?に、逃げろっ!!!」
3人組の学生はその異常すぎる二人に恐怖して逃げ出す。中年の男がほぼ裸でだらしない腹をブルブルと揺らして全力で追いかける。それに続いて和人くんまで半裸で後を追う。何発か水鉄砲をヒットさせているようだった。
しばらくして街を一周したのだろうか、今度は警察に追いかけ回されながら戻ってきた。息も絶え絶えになり、季節感もなく汗だくの体を公園の水で冷やそうとしたところを3人の警官に取り押さえられる。
ぼく「こんなところで!くたばるわけにゃあ、いかないんだァ!!!」
和人「師匠、僕はもう、悔いはありません・・・」
ぼく「逝くなッ!!!和人くーーーーん!!!!!」
警官に取り押さえられ、地に伏してもなお、見苦しいごっこ遊びを続けている。もう理解が追い付かなかった。
・・・でもなぜだろうなにか奇妙な感覚が込み上げてきた。未知ではない、ただ懐かしい感覚が。
田中「・・・ハハハ・・・wアハハハwwアハハハッ!www」
ぼく・和人・警官「・・・」
田中「アハハハwwwwwハアハアハア・・・wwwもう!おかしすぎですよぉ!!!www」
この異常な状況で一番おかしかったのは私だろう。思考はすでに止まり、理解を超えた結末だ。しかし、何年ぶりにこんなに笑っただろう。近隣住民の方々が十分に集まってくるまで私は笑い続けた。
そして落ち着いて、いまだに押さえつけられている二人と、右手に持たされた安っぽい水鉄砲を交互に眺める。
もしかしたら・・・私が小学校の時泣いていたのは、助けてほしいから、なんて理由ではなかったのかもしれない。
きっと今のぼくさんと和人くんみたいに、私はただ一緒に戦ってくれる人がたった一人でも欲しかったのかな、なんて考えていた。
その後、和人くんとぼくさんはパトカーに乗せられ警察所まで連行されることとなった。
和人くんは事情聴取中、親御さんに連絡されたのだろう。県外にいたであろう父親と仕事中だった母親が急いで駆け付け、心配そうな顔つきで迎えられていた。和人くんはそこまで拘束されることはなく、すぐにご両親に連れられ帰っていった。
私は事務所にぼくさんが逮捕された旨を伝えた後、ぼくさんが解放されるのを待った。もう21時を超えそうだった。
田中「あ、ぼくさん!」
ぼく「うぇ・・・?田中しゃん・・・?」
田中「だ、大丈夫でしたか!?」
ぼく「ぅん・・・牢屋に入れられることはないみたぃ・・・」
田中「まったく、二度とあんなことしないでくださいねっ!!」
ぼく「ひゃい・・・」
年甲斐もなく泣きべそをかいているぼくさんには若干引いたが、何はともあれ前科がつかなくてよかった。
田中「車、会社から借りたので帰りますよ、ほら!」
ぼく「・・・なんか、明るくなった気がする。そっちのほうがかわいいよ!!」
なんて軽口をたたかれながら車に二人で乗り込む。悪い気分ではなかった。憑き物でも落ちたように晴れやかだった。
そしてぼくさんを家まで送ると、去り際、私はぼくさんに伝える。
田中「一緒に戦ってくれてありがとうございましたっ!!」ニコッ
それは和人くんと、という意味だけではない。
昔の私と、泣くことしかできなかった私と安っぽい銃で戦ってくれた戦友に深く感謝していたのだった。
そして私は帰宅する。今はまだ上手に笑えないが、もう私の過去は壊す必要なんてないのだ。
過去は今日、「更生」してもらえたのだから。
・・・カタカタ
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[そろそろわいについて少し話したいと思う]
1 名前:ニートまんこ
わいが久しぶりに大爆笑した話
2 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
なんや
3 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
まーーーーん(笑)
4 名前:最速のコバルトブルー
「有能」か「無能」かは一文で決まるぜ
5 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
はよはよ
6 名前:以下、名無しからBIPがお送りします
はいはい、わろたわろた
7 名前:にーとまん
聞かせてもらおうか
つづきます。