1.プロローグ(1)
いつも同じ夢をみている。
俺がいる世界とは全く違う景色が広がっている。
ありえないほどの高い建物がたくさん並んでいる。
それに道は土ではなく黒く硬いし、馬よりも速い
魔道具と思われる乗り物。
周りの人の着ている服が見たことないものばかり。
普通、自分が全く知らない無知な場所にいたら
パニックになるはずなんだが、
なぜか俺は懐かしく感じた。
◇
「起きてください、ユウ様!」
聞き慣れた声が耳にガミガミと響いてくる。
どんなに夢の世界で遊んでいても現実に引き戻してくる。
この女の声は。
「あと5分…」
「いつもそんなこと言って1時間以上寝るじゃ
ないですかっ、それに今日の午後から
ユウ様の12歳の誕生日を
祝って村の皆さんが御屋敷に会いでるので
早く起きて準備してください!」
「うわっ!?」
体温で温めた布団を剥ぎ取られて秋の寒さが
俺を襲った。秋とはいっても、もう冬が近づいてきている
時期のためかなり寒い。
「凍え死んじょうだろうが…」
「起きないのが悪いんですよ、
じゃあもう寝ないでくださいね」
そう言うとアイラは部屋から出て行った。
出て行く際にべーっと舌を出したのは余計だ。
「俺、仮にも主人なんだけどな〜」
なぜ主人かというのは俺はこの村の領主の子供の長男で
あるからだ。そしてアイラは俺直属のメイドで産まれた頃から世話してくれている(らしい)。
アイラの特徴は ロングヘアーで髪は紅とまでは
いかないが濃い赤で瞳はルビーがはめ込まれたように
赤く透き通っている。
年は確か6歳から働いているらしいから18歳だ。
容姿はかなり良く胸は大きすぎず小さすぎずだ。
身長は165前後で155の俺より高いので
良くバカにしてくるがいつか越してやる。
そしたらきっと主人としてみてくれるだろう。
今はメイドというかむしろ姉のようだ。
「はあ…寒っ…早く食堂に行こ」
窓から冷たい風が体を撫でてくるように入ってきて
鳥肌が立った。
窓を開けた覚えはないから絶対アイラの仕業だ…
俺が二度寝しないように…。
仕方なく部屋を出て即座に食堂に向かう。
食堂に行けば暖炉があるからあったかいはずだ。
パジャマのままだがうちの家系はお客さんなどがおらず
家族や使用人しかいない場合はゆるいので大丈夫だ。
小さい頃、両親は朝から肩苦しい服装だから父さんに
「俺はパジャマのままでいいの」って聞いたら
「子どもがそんな小さい頃から肩苦しいことするのは
荷が重すぎるだろ?」と一人で大笑いしていた。
少し頭がおかしいのかなとあの時は思っていたが
今となっては子どもの時は子どもらしくいて欲しいという
父の願いだったのかもしれないと考え始めた。
でも正直頭がおかしいのではないのか?という疑問は
今でもあるが仕事をするときなどは切り替えてまじめに
するし村の人たちからも信頼されていて
やるときにはやる人だから尊敬はしているんだけどな。
◇
食堂に着き扉を開けた。
予想通り暖炉のおかげでとても暖かい。
冷え切って丸まった背中が徐々に伸びていった。
「おはようユウ。今日は二度寝しなかったんだな」
父さんは朝が早いのでいつも一番に食堂にきて
みんなを待っている。
黒い髪で身体は185センチで見た感じの体型はスマートだが
服を脱ぐとそれなりに仕上がっておりムキムキだ。
年齢は30歳だが顔は若々しく青年のようで
多分横で並んでいても兄弟と間違える人がいてもおかしくない。
「おはよう、あと二度寝しなかったのは
アイラのせいなんですけどね」
「アイラのおかげの間違いじゃないですか、ユウ様」
テーブルの上を掃除していたアイラが
俺をからかうように言う。
「何がおかげだよ、寒さで凍えて
一勝目覚めない二度寝になってたかもしれねー
だろうがっ!?」
クスクスと父とアイラは笑った。
またからかわれている。
いつか絶対俺がアイラをからかってやる…。
ガタンという音をたて食堂の入り口のドアが開いた。
「おはよう兄さんっ!」
食堂に入ってきたのはやはり母さんとサナだ。
サナは俺への呼び方から分かる通り実の妹だ。
年は3つ下の9歳だ。ショートヘアーで髪は栗色で
瞳は見事な輝く黄金色。まだまだ幼いが将来有望だと
俺は確信している。
母さんは正直なところサナが成人したらこうなると思っていいほどよく似ている。父とは違い大人しく
おしとやかだ。
俺は逆に父さんの子どもバージョンらしく
よくそっくりだと言われる。
自分では似ているのか良く分からないが
母さんとサナを見ていると
きっと俺もそっくりなんだろうなと思った。
胸に飛び込んでくるサナをキャッチする。
「おはようサナ、母さんもおはよう」
「おはようユウ、今日は二度寝してないのね」
「まあ、色々あったからね…」
母さんは不思議そうな顔をしたが
アイラと父さんがクスクス笑っているのをみて
納得した表情をした。
「また食事の時にでも話してね」
「え〜…」
「私も気になる!」
「わかったよー…」
それなりに幸せな生活がおくれている。
この時の俺はまだ魔導学院に行く予定はなかった。
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