いいことってどんなこと?
ある日、おサルさんは考えました。
「いいことってどんなことだろう?」
ひとりで考えてもわかりません。いろんな動物に聞いてみることにしました。
1人目はオオカミさんでした。
「いいことってどんなことですか?」
「それはな、どんなことをしても怒られないことだよ」
「なるほど」
おサルさんは考えます。でも、それじゃヒトの物を盗んでも怒られないし、誰かを殺しても怒られない。
それって悪いことじゃないかな?
おサルさんは他の動物に聞くことにしました。
2人目はライオンさんでした。
「いいことってどんなことですか?」
「オレ様に誰も逆らわないことだ!」
「なるほど」
おサルさんは考えます。でも、それじゃ誰も間違いを教えてくれないよ。
それってバカになっちゃうんじゃないかな?
おサルさんは他の動物に聞くことにしました。
3人目はウサギさんでした。
「いいことってどんなことですか?」
「子沢山なことだよ!」
「なるほど」
おサルさんは考えます。でも、たくさん過ぎるとお金が足りなくなっちゃうかも。
それって貧乏だよね?
おサルさんは他の動物に聞くことにしました。
4人目はナマケモノさんでした。
「いいことってどんなことですか?」
「一日中、眠ってることだよ」
「なるほど」
おサルさんは考えます。でも、それじゃみんなと遊べないよ。
それって寂しいよね?
おサルさんは他の動物に聞くことにしました。
5人目はイノシシさんでした。
「いいことってどんなことですか?」
「食べきれないくらいの食べ物があることさ」
「なるほど」
おサルさんは考えます。でも、それじゃ食べきれなかった食べ物が腐っちゃうよ。
それって勿体無いよね?
おサルさんは他の動物に聞くことにしました。
6人目はキツネさんでした。
「いいことってどんなことですか?」
「欲しいものがすぐに手に入ることだね」
「なるほど」
おサルさんは考えます。でも、それじゃホントに欲しいものがわからなくなっちゃうよ。
それってつまんないよね?
おサルさんは他の動物に聞くことにしました。
7人目はヘビさんでした。
「いいことってどんなことですか?」
「みんなが同じことだよ」
「なるほど」
おサルさんは考えます。でも、それじゃ誰が誰だかわからないよ。
それって困るんじゃないかな?
ふと、空を見たらお日様がさよならするところでした。
「うちに帰ろう」
おサルさんはお家に帰ります。
「ただいま、お母さん、いいことってどんなこと?」
「ヒトを助けることだよ」
「なるほど」
おサルさんは考えます。
「でも、それじゃ助けられるヒトにはいいことかもしれないけど、助けるヒトは損じゃないかな?」
「そんなこと言ったら、いいことなんてなくなっちゃうよ?いいことって誰かが損をすることだからね」
「それって嫌なことだよね?」
「そんなことはないよ。お母さんは、おまえを助けることができるのが、とても嬉しいからね」
「どうして?」
「おまえはお母さんに助けられたら、どうする?」
「うーん、ありがとうって言うよ。それから今度はボクがお母さんを助けようって考える!」
「そうだろう。だから、お母さんは嬉しいんだ。おまえがお礼を言ってくれるからね。おまえがお返しをしてくれるからね」
なるほど。おサルさんは考えます。
損するだけなら、それは悪いことだ。
でも、ヒトを助けることは、いつか自分も助けられるから、いいことだ。
……
いいことってどんなこと?
おサルさんは、ヒトを助けることはいいことだと思いました。
でも、ホントにそうでしょうか?
おサルさんが質問した動物たちは、みんなワガママなことばかりをいいことだと言ったでしょうか?
いいことをすれば、いいヒトですか?
大人たちは、心の中でこう言います。
「いいことは、自分に都合のいいこと、いいヒトは、自分に都合のいいヒト」
やっぱりいいことって誰かが損をしているようです。