領主様、今年は不作です
「領主様、今年は不作です」
「そうか」
「ついては、税の免除をしていただきたく」
「ならん!何をのたまうかと思えば、貴様らは我を肥やすためにあるのだぞ!それを税の免除などと思い上がったことを言いおって!」
「しかし、領主様。それでは、我らは飢えてしまいます」
「知ったことか!貴様らが飢えようと我には関係ない!」
「……ほう、本当にそうお思いになられますか?」
「な、当たり前であろう!我は貴族!高貴なる血筋である。その我が貴様らの飢えに生存を脅かされるものか!」
「残念です。領主様がそこまで馬鹿だとは思いませんでした」
「な……なにをー!!この我を侮辱するかー!不敬であるぞ。其方は死刑だ、死刑!」
「それでもようござんすが、ひとまず私の話をお聞きくださいませんか?」
「そんなことを許すわけがなかろう!」
「しかし、領主様を脅かすものが本当にあるのなら、どうされますか?私を死刑にした後では、知ること叶いませんよ」
「ぐっ…わかった。話を聞こうではないか」
「はい、それでは領主様は先ず、農民が何をしているか、理解されていますかな」
「ふ、何を言うかと思えば、農民がやることは、農作物を作り出すことであろうが」
「はい、もちろんにございます。では、領主様、今年は不作です。これは何を意味しますかな?」
「うん?……我の懐が潤わんな」
「もっと根本的な問題がございます」
「なんだ?」
「領主様も飢えに苦しみます」
「フハハハハハハハハ!そんなわけがあるか!我の財は無限であるぞ!」
「では、領主様」
「うん?」
「先ず、飢えるのは、当然我ら農民であります」
「そうだな」
「そして、農民が飢えて死ねば、農民の数が減ります」
「ふむ」
「そして、農民の数が減れば、農作物も減ります」
「我には関係無いな」
「いえいえ、農作物が減れば、当然農民は飢えやすくなります。領主様が税の取り決めを変えなければの話にはなりますが」
「なぜだ?」
「農民が減れば、農作物が減るのです。よって、農民が最低限生き抜くための農作物の量もまた、農作物の割合で増すのです。ですので、税の割合が変更されなければ、当然、割合は10割の値を超えることとなり、そうなれば、農民いよいよ持って、バッタバッタと野垂れ死、遂には領主様の腹を満たすのもままならないまだなるでしょう。それならば、領主様とて餓えますね?」
「いや、王都からの支援があろう」
「農民を全滅させた無能を王様が支援してくれると?」
「当然であろう、我は貴族であるぞ」
「では、王様もまた、王都周辺の農地を全滅させたとしましょう。国内すべて、それどころか世界中で農民が全滅したらばどうなりましょうか」
「ふむ、なるほどなるほど。確かにさすがに我でもわかる。うん、我とて飢える。そうなれば、金も意味をなくす」
「そうです。まぁ、こんな末期になる前に、普通は民が反乱しますが」
「うん?民とは搾取されるもの。つまり、反乱などせぬだろう。何を馬鹿な事を言っておる」
「ふむ、領主様。王家の方々の始祖はどのような人でしたかな」
「うん、確か……この地を剣の腕と指揮能力でもって切り拓いた偉大なる英雄で元は農民であった はずだ」
「はい、つまり王様の血筋は尊いものでもなんでも無いただの人です。それは領主様あなたもですね」
「フハハハ……ハ……は?む、確かに」
「つまり、あなた方が王侯貴族で居られるのは、曲がりなりにも民に認められているからです。当然、暗愚であれば反乱され、権力の座から引きずり下ろされますよ?」
「な、なんと言うことだ。あいわかった。うむ、我は人徳のある領主様になろう。ひとまず、お主を相談役として雇用したいのだが如何に?」
「喜んでお受けいたしましょうや」