裁判所と呼ばれる家で② 7/2019に向けた、ある年の10月より
4丁目のXXXさん? 2年前に引っ越してきて地域には慣れたつもりだったが、
“裁判所”なんて初めて聞いた。
銀行の裏には、茶色い外壁と大きいだけで無機質な四角い建物がある。
てっきりヤクザの事務所か、集会所か、閉鎖された施設かと思っていた。
個人宅なのか。
僕は注文書と顧客データを確認して、社用車に商品を載せた。
納品物は、巨大なパキラとクリスマス用の寄せ植えが二鉢ずつ、多肉植物の小さな鉢もひとつ。
作業用の手袋を丁寧にゆっくり外し、前掛けに収めると、ハンドルをとった。
手の荒れやすい僕にとって、手袋は相棒だ。
結婚式場時代からずっと同じ手袋を使い続けている。
4丁目まで10分もあれば着くだろう。指定された時間より少し前に到着する算段だ。
初めて訪ねるお宅に緊張した僕は、見送る妻に何か注意すべき点はないかと車窓から尋ねた。
事故防止、予防注射、元気?って意味なく送られてくるラインメッセージ。
「お父さんがいつも担当してるからよく知らない。電話で話す分にはフツーよ。話し方が丁寧すぎるくらい。」
よかった、僕の安堵した顔に妻が笑顔で応えた。
今日は暇そうだからバイトに任せて奥で寝ていろよ、それだけ告げて、
アクセルをゆるやかに踏んだ。
妻は首をかしげて、顔のパーツを全て緩ませた。
午後になると、気圧のせいなのか、妻の体調は下降気味になる。
店もいそがしくないし、義父もおそらく戻るころだ。
バックミラーから店が消える。
フッとため息がでる。ひとりきりの静かな時間。
2章は、じっくり書きます。大丈夫、次回裁判所につくから。