品川駅アトレ3階で② 31/05/2019
第一章~first vite~2
「Just go, I’ll keep this seat for you。」
(いいよ、席取っとく。)
返事をするのも忘れて、カウンターへ急いだ。色気のない発砲スチロールのランチボックスに盛られたタコスサラダをトレーごとテーブルに置いた。
その音を合図に、ソノヒトは読んでいる本の手を右に持ち替えて、黒いカマボコを自分の手元に寄せた。
左利きの女か。
よく見るとカマボコなる物体にはCHANELの隠しロゴが彫られていた。
おそらく、サングラスケースだ。
もしくはシャネル産のカマボコ。
私の「アリガトウ。」にSureってソノヒトの唇が声を発しないまま動く、唇についたデミグラスソースを、両手で折りたたんだナプキンで丁寧に拭った。
きっとバナナは剥いてそのままかぶりつかずに、
指で少しずつチギり折って食べるタイプなんだろう。
そう見える。
ものごとに思いやりを持ちすぎると、それは無駄に人をお高く上品に見せる。
実態より冷たい人間に見える。
ソノヒトはそういうタイプ。オスマシしてるように見えた。
ソノヒトの文庫本を持つ指は、深爪に円く整えられて厚めの濃紺のジェルネイルが塗られていた。
そんな意味深なネイル見ちゃったら話しかけるしかなくなるじゃない。
伊達にホテルコンシャルジュやってない、ゲイかストレートかはすぐわかるよ。
ベリーショートの髪形がなんだかセーラームーンのキャラに見えた。
白すぎる肌が、昔の彼女に似てた。
「How did you know that I speak English?」
(私、英語話す人に見えた?)
ソノヒトはクシャっと笑って日本語で
「そりゃわかるよ。ブロンドにタコス、あとここ。」
長い人差し指で、ソノヒトは自分の眉毛をつついて続ける。
「We use all parts in our faces to express ya feelin’. ニホンの子は use only words and 目線、ね。」
(あたしたちってパーツ全部使って話すじゃない?ニホンの子は言葉と目線よね。)
笑って「wow, that’s kinda judgmental.」(それはちょっと極端じゃね?)
って私がふざけたら
「そおか?」って文庫本を閉じてソノヒトが笑った。
結構観察してるほうなんだけどな、ってふざけた声出してまた片眉を上げた。
ソノヒトの英語と日本語は、パワープレイで変な混ぜ方なのに理解しやすい。
あんた、日本語も話せるんでしょ?って信頼してくれているのが伝わった。
日本人にリラックスして会話されるとすごく嬉しくなる。
それにさ、すごく冷たそうな外見だけど、すごくアツいヒトかもって思った。
初めて会うのに、毎週ツルんでる気持ちにもなった。
いや、願望かもね。
私が東京にきたのは、サンフランシスコで恋人にフラれたから。
日本人留学生のユリって女の子。
地元民が留学生にフラれるってね、珍しいんだよ、
でも、もっといい恋人に出会ってやるって、アテツケでトウキョウに来た。
アテツケの使い方、合ってる??
トキョウはユリの故郷だ。
カリフォルニア?大好きだよ。
カリフォルニアでレズビアンはすごく生きやすい。
ムラカミハルキの小説みたいにオシャレって思ってもらえる。
特に知識人とFigaro系にはウケがいい。
私は常にモテたし、短大卒業まではモデルもしていた、派手な部類のゲイだった。
短絡的? チャラい?
わかってるよ。
私だって、なんだかな、って。
なんだか、この派手さって、嘘くさいな、って。
(It cannot be called as the real life.)
パーティして、スチール撮影して、少し体に悪い遊びもして、派手だけどポンコツな中古車になんとなく乗ってた。
味がなくなっても噛み続けるガムみたいな毎日だった。
慣性の法則ってやつだよ。
噛み続けるほうが楽。
でもね、ユリが急ブレーキかけたんだ。
そのガムいつまで噛んでるのよ、だらしないわねって。
(あれ?続きは次回。ガールズトークは厄介だね。)