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12/12

裁判所と呼ばれる家で⑧ 7/2019に向けた、ある年の10月より(完結)

翌日、彼女から僕のスマホに電話がかかってきた。

義父から電話番号を教えてもらったと言う。

新幹線のホームで、いまから東京に戻ると告げられた。

ホーム特有の、人混みのノイズが電話の向こうで混ざっていた。

彼女の声は、鉢を届けた日より、明るくて軽かった。

びっくりさせてごめんなさい、とやや高い声、

でも、と言葉を続けると、一呼吸置いた。


「そんなに気にしないでくださいね。」


「いや、気にしますよ。僕何も知らなくて、すみませんでした。」



「なんで? 謝らなくていいのに。 

 たかが涙ですよ? 私のは体質みたいなものですし。

 食べるとか、眠るとか、同じカテゴリですよ、泣くって。」


背後では、妻が店先の作業台で、花の手入れをしている。

よく見ると、花束を作り始めていた。

妻は一人っ子だからなのか、ひとりで能動的に仕事をみつけたりつくるのが上手だ。

無駄もないし、ミスも少ない。

電話している僕を気遣ってか、

(白いバラを6本)って、店先から口パクで僕に合図した。

妻の顔色が見れるんだから、唇を読むなんて朝飯まえだし、

この夫婦間コミュニケーションは結構役に立つ。

人混みの駅とか映画館とか、

妻がチューブを喉に繋いでいるときとか。

僕はガラス張りの保存庫に入った。

電話の声は漏れないし、白いバラは鮮度保持のために保存庫にしか置いていない。

さあ、店先にいる妻に渡さないと。


「いやあ、涙なんて、免疫がなくて。 僕、自分の奥さんの泣く姿もみたことないのに。」


答えながら、状態のすこぶるいい6本を選ぶ。

茎は強く、花弁には艶があり、つぼみが固く閉じたものも含めてバランスよく混ぜた。

白バラは、野生で育てても養殖しても、その白さは変わらず、力強くたくましく輝く。


「そうなんです? 社長は娘が泣き虫で困る、ってよく笑ってるけど。

 お嬢さんもうひとりいらっしゃったんですね。知らなかった。」


久しぶりに花で指を切った。

茎を握りしめるなんて、バイトでもまずしない。


白いバラには、数は少ないけどトゲがあった。

華奢な首にトゲなんて、罠みたいですごく嫌な気分だ。


握りすぎて、折ってしまった茎を、その場で床に落とした。

ツルン、ストン。

暗い灰色のコンクリート床に、白バラが2本落ちた。



「また来年の夏にはこっちに戻りますから。 その時にご挨拶にまいりますね」


指の腹から数か所、赤い血が真珠みたいに、ぷっくり滲んだ。

痛い。

思いのほか、トゲは深く刺さったみたいだ。


電話の向こうから、新幹線の到着する音がきこえた。



(おしまい)


また新しいエピソードでお会いしましょう。


Thank you for your time and attension.

My new story is coming soon and looking forward to seeing you again, here.


来月の文学フリマ九州で出店します。

九州でお会いしましょう!

ていうか、おそらく新しい出会いがあり、それをここで書く、っていうスパイラル?

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